残業代の未払いを裁判で請求するには? 注意点を弁護士が解説

2020年11月17日
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残業代の未払いを裁判で請求するには? 注意点を弁護士が解説

大阪にある病院の研修医が過労死した事件において、遺族が残業代を含む未払い給与の支払いを求める裁判がありました。裁判では、勤務の態様から研修医も労働者に当たるとして残業代の請求が認められると判断されました(最高裁平成17年6月3日)。

一般企業に勤務していても、未払いの残業代があれば請求したいと考える人は少なくないでしょう。しかし、何から始めればよいのか、自分で裁判を起こす必要があるのかと、さまざまな不安を感じて一歩踏み出せない方もいるかもしれません。

そこで本コラムでは、未払いの残業代を請求したいと考えている方に向けて残業代を請求する手続きの流れや裁判の方法を、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士がご紹介します。

1、残業代請求の方法

未払いの残業代を請求するために、裁判を起こさなければいけないのかと不安に感じている方もいるのではないでしょうか。しかし、訴訟を起こさずとも解決できるケースがあります。

在職中と退職後それぞれの残業代請求の方法と、もしも裁判になった場合の注意点を解説します。

  1. (1)残業代請求は在職中・退職後どちらにすべきか?

    在職中に会社と争うのは難しいと考えている方も多いのではないでしょうか。

    しかし、在職中でも残業代を請求することは可能です。タイムカードや勤怠表など勤務時間の証拠集めも容易でしょう。

    ただし、実際には退職後に請求する方も少なくありません。在職中、退職後どちらが自分取ってよいタイミングなのかは個々人がおかれた状況によって異なります。残業代請求のタイミングで悩んだら、まずは労働問題の解決実績のある弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)在職中に残業代を請求するためには

    在職中に請求すると決めたら、以下の3つの方法を検討してみましょう。

    ●人事部に相談する
    未払い残業代の発生原因が、人事部の把握不足や担当者のデータ入力ミスである場合があります。社内の人事部が機能していれば、労働時間と残業代のずれを相談し、解決することがあります。

    ●労働組合に相談する
    会社に労働組合があり組合に加入していれば、残業代未払いのなどの労働問題の解決に向けて会社と交渉してもらえる可能性があります。もしも会社に労働組合がなくても、同じ職種や地域で結成した合同労組(ユニオン)に相談することが可能です。

    労働組合や合同労組は、労働者全般の権利保護のために活動することが主な目的なので、残業代についての交渉実績も豊富なため、まずは相談してみるのも手段です。

    しかし、法的サポートを行う組織ではないため、裁判の必要性がでてきた場合の手続きなどは行ってくれません。並行して弁護士に相談しておくとより安心でしょう。

    ●労働基準監督署に相談する
    労働基準監督署とは、労働者の労働条件の確保や、経営者への改善指導、安全衛生の指導などを行う組織で、全国に設置されています。

    会社に法令違反があった場合に、調査をして是正勧告をすることができます。これに法的な強制力はありませんが、改善の意思がみえない場合や悪質性が高い場合には、まれに書類送検されることがあります。会社はイメージダウンを避けるためにも請求に応じる可能性があります。

  3. (3)退職後に残業代を請求するためには

    2020年4月に施行された改正労働基準法により、残業代を請求する権利は、3年で消滅時効にかかり、それ以降は請求できなくなると定められました。退職後に残業代を請求する場合は、以下の手順を参考にして、できるだけ早く手続きしましょう。

    ①内容証明郵便で未払い残業代を請求する
    まず、会社に残業代を請求する文書を内容証明郵便で送り、残業代の支払いを求めます。

    内容証明郵便とは、郵便局が「誰が、いつ、誰に、どのような内容の手紙を送ったか」を証明する郵便物です。会社が支払いに応じず裁判になった場合、会社に残業代を請求した証拠として使用することができます。

    ②労働審判を申し立てて残業代を請求する
    労働審判とは、裁判所において裁判官と労働問題の専門家を交え、話し合いによって問題の解決をはかるものです。原則として3回以内の話し合いで終了するため、早期解決を目指せるメリットがあります。

    一方で、複雑な問題については短期間で合意に至ることは難しいため向かないこと、どちらかが納得できずに異議を申し立てると、結果として裁判に移行するというデメリットがあります。

    ③訴訟を提起して未払い残業代を請求する
    労働審判でも解決できなかった場合は裁判に移ります。

    裁判は、最終的に必ず決着がつくこと、未払い残業代だけでなく、付加金の支払いも認められる可能性があるというメリットがあります。なお、付加金とは、残業代を支払わなかった会社に対する制裁措置です。

    反面、半年から1年はかかることが一般的なため、時間的負担が大きくなります。弁護士を頼まない場合は自分で法廷に出向かなければならず、勝つためには証拠をそろえて立証する必要もあります。

2、裁判で残業代の請求を認めてもらうための注意点とは

いざ裁判となった場合、請求を認めてもらうために知っておきたい点を解説します。

  1. (1)十分な証拠を用意する

    残業をしたこと、残業に対する対価が支払われていないことを示す証拠を集めておくことが大切です。退職後に証拠を収集するのは困難です。残業代の請求をしたいと考えている場合は、できるだけ早いうちから集めておくようにしましょう。

    証拠には次のようなものがあります。

    ●勤怠記録に関する資料
    タイムカード、IDカード履歴などの勤怠記録データは、コピーや印刷、写真撮影などで証拠化しておきましょう。パソコン作業をしていたログを取っておくことも有効です。

    ●会社の業務で利用したメールの送受信履歴
    メールの送信履歴は業務をしていたことを証明するのに有効なので、印刷するなどしておきましょう。

    ●カレンダーの業務履歴
    会社のカレンダーに書き込んだ業務履歴や、ネットのカレンダーに入力した業務内容は、写真を撮るなどしておきましょう。

    ●タクシーの領収書や電車のICカード履歴
    帰宅時間を示す電車の利用履歴やタクシーの領収書も有効です。

    ●日記・手帳
    会社の勤務時間や業務内容を継続的に日記や手帳に書いている場合は、残業した時間や勤務内容の証拠として認めてもらえる可能性があります。継続して書いていることで信頼性が高まるので、未払い賃金がある場合は記録を残す習慣をつけておくとよいでしょう。

  2. (2)残業代の計算をする

    労働基準法32条では、労働者に1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定められています。これを法定労働時間といいます。

    法定労働時間を超えた労働時間に対しては、会社は残業代を支払わなければなりません。

    割増率は深夜帯に働いたか、法定労働時間を超えたかなどによっても異なり、実際の計算は複雑です。また、何が労働時間に含まれるかは、裁判例などをもとに判断する必要もあります。

    働き方の多様化により、何が残業であるか判断が難しくなるケースが増えています。残業代請求ができるか、残業代はいくらになるのか判断がつかない場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。

3、残業代請求を弁護士に依頼するメリット・デメリット

残業代を請求するためには、弁護士が心強い味方になるでしょう。

  1. (1)弁護士に依頼するメリット

    効果的な証拠や収集方法についてアドバイスをもらうことができます。また、弁護士を介して会社と交渉することで裁判になる前に支払いに応じてもらえる可能性が高まります。
    さらに、労働審判や裁判の代理人となってくれるため、手続き上の手間や精神的な負担を大きく減らすことができます。

  2. (2)弁護士に依頼するデメリット

    弁護士費用や相談料が必要になります。ただし、最初の法律相談は無料で受け付けている弁護士事務所もあります。弁護士費用をかけても請求するメリットがあるか気になる方も多いと思うので、まずは無料相談などを利用されるとよいでしょう。

4、まとめ

今回は、未払い残業代請求の方法や裁判になった場合の注意点についてご紹介しました。未払いの残業代は裁判を利用しなくとも請求することができますが、実際問題としては個人が会社組織を相手に請求・交渉することは大変な作業です。手続きや結果に不安がある場合は、まず弁護士に相談してみましょう。

ベリーベスト法律事務所 堺オフィスでは残業代未払いの相談を、無料でお受けしております。ご相談は何度でも無料です。未払いの残業代請求や残業代請求の裁判でお困りの方は、堺オフィスまでご連絡ください、労働問題の解決実績が豊富な弁護士が、全力でサポートいたします。

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