正社員なのに不当なクビ宣告をされた!? 知っておくべき解雇の知識

2021年07月29日
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正社員なのに不当なクビ宣告をされた!? 知っておくべき解雇の知識

大阪労働局が公表している『令和元年(平成31年)における司法処分状況について』によると、同年に大阪労働局および管下13の労働基準監督署が労働法の違反被疑事件として検察庁へ送検したのは80件、法令別では労働基準法等違反が35件、そのうち解雇は3件でした。

「正社員はクビになりにくい」と聞いたことがある方がいるかもしれません。しかし正社員であっても、突然解雇される可能性はあります。コロナ禍で厳しさを増すなか、大規模なリストラのニュースを目にする機会も増え、不安に思う方もいるでしょう。

では、正社員にかかわらず、もし会社から“クビ宣告”を受けてしまったら、どのように対応すべきでしょうか。ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が、不当解雇の条件、相談先等と併せて解説します。

1、そもそも解雇とは?

  1. (1)解雇は、厳格な条件を満たす必要がある

    労働者と会社(使用者)は、雇用契約に基づいて労働を提供し、その対価として給与を支払う契約を結んでいます。

    解雇(クビ)は、この雇用契約を使用者側が一方的に終了させることを指します。しかし、職を失うことには労働者の生活に大きな影響を与えるため、法律上の厳格な条件を満たさなければ解雇することは認められません。

    まず、第一の条件として、使用者は就業規則に解雇の理由をあらかじめ明記しておかなければなりません。ただし、就業規則に明記しているからといって、すべての解雇理由が法的に認められる訳ではなく、さらに“客観的な合理性”と“社会通念上の相当性”が必要とされています。この2つの条件を満たしていない場合、解雇権を濫用したとして無効となります(労働契約法第16条)。

    “客観的合理性”とは、第三者から見て道理に合っているかどうかということです。そして“社会通念上の相当性”とは、世間一般の常識に当てはめてみて妥当な処分だと言えるかどうかという意味です。

    たとえば「営業成績が悪いから」「欠勤が続いたから」という理由だけでは“客観的合理性”と“社会通念上の相当性”が満たされているとはいえず、無効となるでしょう。営業成績が悪いのであれば、講習やトレーニング、上司のアドバイスなどで、繰り返し適切な指導を行ったか、適性のある部署への配置換えなどを行ったか、など企業側がどのような改善に努めたかも問われます。

    また有期雇用契約の非正規労働者であっても、正社員と実質的に変わらない仕事を反復継続的に行っている、雇用契約更新への合理的期待が認められるなどの場合には、“解雇権濫用法理の類推適用”が認められ、雇い止めが無効となる可能性もあります。

    解雇には大きく分けて3つの種類がありますので、以下より詳しく説明していきます。

  2. (2)普通解雇

    普通解雇とは、労働者の能力欠如や成績不振、非行、職場規律を乱したことなどを理由とする解雇のことを指します。

    ただし、形式的に上記の理由に当てはまっていたとしても、必ずしも解雇できるとは限りません。前述の通り、客観的合理性・社会通念上の相当性の両方を満たしてはじめて、解雇することができます。

    また、普通解雇をする場合、使用者は解雇の30日前までに労働者に伝えなければなりません。30日に満たない場合には、その日数分の給与を請求することができます。

  3. (3)懲戒解雇

    意図的な機密情報の漏えいや横領などの犯罪行為、セクハラ・パワハラで社員を離職に追い込んだなど会社に重大な損害を与えた場合に、ペナルティー(懲戒処分)として行われる解雇のことを指します。懲戒解雇の場合も、客観的合理性・社会通念上の相当性の両方を満たす必要があります。

    会社が労働基準監督署から解雇予告除外認定を受けていた場合、30日前に予告しなくても即時に解雇できることもあります。

  4. (4)整理解雇

    会社の経営不振などにより人員削減しなければならなくなった場合の解雇は、整理解雇といいます。

    上記2つとは違い、整理解雇の責任は完全に使用者側にあります。会社の事情により労働者が職を失う訳ですから、非常に厳格な条件が要求されます。

    • 人員削減の必要性
    • 解雇回避の努力
    • 解雇する労働者選定の合理性
    • 解雇手続きの妥当性


    この4つの条件を満たさなければ、整理解雇は無効と判断されます(ただし、この4つの基準は、ひとつでも欠ければ整理解雇が無効と判断される「要件」ではなく、整理解雇の有効性を判断する4つの「ポイント」、「要素」と考える裁判例もあります)。整理解雇は最後の手段であり、それまでに役員の報酬削減や希望退職者募集、新規採用の停止などの策を極力講じるべきだとされています。また整理解雇がやむを得ない場合でも、その経緯や方法について労働者が納得できるものでなければなりません。

2、突然のクビ宣告は正当な解雇か?

  1. (1)解雇における4つの条件

    では、具体的にどのような条件を満たしている必要があるのでしょうか?

    下記4つを満たす場合は、正当な解雇といえます。

    • ① 就業規則に定めた解雇理由に従っていること
    • ② 30日前までに解雇予告を行っていること
    • ③ 客観的合理性・社会通念上の相当性があること
    • ④ 法律上の解雇制限に該当しないこと


    ②の解雇予告について30日に満たない場合、不足日数は平均賃金で支払われることになります。これを解雇予告手当といいます(労働基準法第20条)。たとえば、20日前に解雇を予告されたとしたら、10日分の給与を解雇予告手当として会社に請求できることになります。

  2. (2)正当な解雇の具体的ケース

    解雇が正当と認められるのは、どのようなケースになるのでしょうか。
    以下に具体例を挙げます。

    • 正当な理由がなく無断欠勤が14日以上つづく
    • しつこいセクハラやパワハラ
    • 研修や配置転換を行ったが、改善の見込みがない
    • 学歴・職歴などの経歴詐称
    • 横領、情報漏えいなどの会社への重大な背信行為


    いずれも、解雇を回避するために使用者側が最大限に努力したのかどうかが問われています。なお重大な犯罪行為やセクハラ・パワハラであれば、たとえ一度きりの行為であっても“改善の余地なし”として解雇が認められることがあります。

  3. (3)不当な解雇の具体的ケース

    不当解雇の判断は難しいところがありますが、ここでは過去の実例に基づく具体的なケースを2つ紹介します。

    ● 日本アイ・ビー・エム事件、東京地裁平成28年3月28日判決
    労働組合員である従業員が業績不振を理由に解雇されたが、適性に合った職種への転換、職位降格、業績改善機会の付与などの解雇回避措置が取られていなかったため解雇は無効であるとされた。

    ● 高知放送事件、最高裁昭和52年1月31日判決
    早朝のラジオニュース番組を担当していたアナウンサーが寝過ごしたために放送が中断され、その責任を問われて普通解雇された。しかしアナウンサーのミスが故意によるものでなかったこと、他のスタッフや使用者側も講じるべき対策を怠っていたことなどから解雇は無効と判断された。

    実際に個別の事例を不当解雇に当たるかどうか判断するためには、諸般の事情が総合的に考慮された上で、慎重に判断されます「不当解雇なのではないか?」と悩んだら、まずは早めに弁護士に相談することをおすすめします

3、クビ宣告をされたらとるべき対策

  1. (1)不当だと感じたら安易に応じない

    もし解雇を予告された場合には、安易に応じないことが大切です不当解雇であることが客観的に証明できれば解雇無効を主張してそのまま会社で働くという選択肢もあります

    もちろん「不当解雇をするような会社ではもう働きたくない」、と思う方も多いでしょう。その場合でも、解雇の無効を主張することにより、自分の意志で正式に自主退職するまでの賃金を請求することができる可能性があります。

    もし不当解雇されたら、労基署または弁護士に相談してみましょう。

  2. (2)労基署に相談するメリット

    誰でも無料で労働トラブルを相談できる公的機関としては、全国にある労働基準監督署(労基署)があります。労基署は、労働法違反の会社に指導を行ったり、司法警察員として捜査を行ったりする権限を有しています。労基署が改善の余地ありと判断すれば、企業へ指導を行うのが基本ですが、極めて悪質なケースについては検察庁へ送検することもあります。

    ただし、労基署の仕事はあくまで企業の指導や是正です。個人の権利のために動いてくれる機関ではありませんので、会社に解雇予告手当や損害賠償を請求したい場合には、弁護士に個別に依頼しましょう。

  3. (3)弁護士に相談するメリット

    弁護士は依頼人の権利を守るために法的手続きを行ってくれる代理人です。労働トラブルの場合は、まず弁護士が使用者側と直接交渉を行い、相手が応じないのであれば労働審判・裁判の順に進めていきます。

    弁護士に依頼することで、自力で交渉する場合に比べて精神的な負担が軽減されるでしょう。難しい裁判手続きや書面の準備をすべて一任できることも、大きなメリットです。

    なお、弁護士は、離婚・相続・消費者問題・刑事事件など、弁護士によって重点的に取り扱う分野が異なります。そのため、解雇トラブルを相談する際には、労働事件を中心に扱っている弁護士を選ぶことが大切です。

4、もしクビ(解雇)になってしまったら

  1. (1)解雇通知書を確認する

    解雇予告を口頭でされた場合には、解雇理由の証拠として解雇通知書を請求しましょう。解雇通知書の交付は法律上の義務ではなく、会社側は口頭でも解雇を伝えることができます。

    しかし口頭のみでは客観的証拠がないため、いった、いわないの水掛け論になるリスクがあります。曖昧な説明をする余地を与えず、後で不当解雇の責任を追及しやすくするためにも、解雇通知書をもらうようにしましょう。

  2. (2)解雇理由証明書

    解雇通知書とは別に、解雇理由証明書という書類もあります。解雇通知書に解雇理由が明記されていない場合には、解雇理由証明書を請求しましょう。

    解雇理由証明書を労働者が請求したら、会社は遅滞なく交付する法律上の義務を負っています(労働基準法第22条)。ただし労働者側から請求しない限り、会社が自主的に交付する義務はないため、注意しましょう。

    解雇理由証明書を請求する際には、請求したことを記録するために、内容証明郵便など、証拠として残る手段を使用することが望ましいでしょう。その他にも、不当解雇の証拠としては、就業規則・雇用契約書・給与明細・日記・メール等も併せてそろえておくことをおすすめします。

  3. (3)解雇予告手当の請求

    前述の通り、解雇予告は解雇日の30日前までに行う必要があります。解雇予告手当を請求する具体的な方法としては、まず内容証明郵便が一般的です。内容証明郵便で請求しても会社が応じてくれない場合には、労働審判など裁判手続きに移行することも考えられます。解雇予告手当の計算などが難しい場合には、弁護士に相談しましょう。

5、まとめ

解雇理由にはさまざまなものがありますが、“客観的合理性・社会通念上の相当性”の2つを満たしていなければ、不当解雇であるおそれがあります。この2つは極めて厳格に判断されており、たとえ労働者に落ち度があったとしても、改善指導や配置転換を行うなど解雇回避措置をとったかどうかが重要視されます。

単なる能力不足や欠勤では簡単に解雇できない、というのが法律の定めです。もし不当な理由で解雇されたと思ったら、すぐに応じることなく、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています