定年後の再雇用の拒否は不当解雇? 法的な対応策はとれるのか
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定年を迎えた正社員を再び雇用する再雇用制度は、人材不足に悩む企業や働き方改革を推進したい現場において、期待される制度のひとつです。
たとえば、大阪市に本社を置くサントリーホールディングス(HD)は、2020年3月に65歳の定年以降も70歳まで働ける再雇用制度の導入を発表しました。契約は1年更新としており、1日6時間・週3日の非常勤を予定しています。
雇用主にとっても働き手にとってもメリットが多いように思える再雇用制度ですが、「再雇用を拒否された」「再雇用後に更新を打ち切られた」などのトラブルも少なくありません。
もしそのような状況に陥ったら、どう対処すればよいのでしょうか? 堺オフィスの弁護士が解説します。
1、再雇用制度とは?
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(1)定年後も65歳まで働き続けることができる
再雇用制度とは60歳の定年まで働いた正社員を、65歳まで1年契約の有期雇用にするという方法です。雇用形態は、パートや契約社員、嘱託社員などが一般的です。
なぜこのような制度が始まったのかというと、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、高年齢者雇用安定法)」が施行されたからです。「高年齢者雇用安定法」は、少子高齢化による深刻な人材不足、年金受給開始年齢の引き上げ、長寿化による老後資金の不足などの社会問題を解消するために作られました。
以前は労使協定で再雇用対象者を制限することができましたが、平成25年4月から施行された改正法では、原則として希望者は誰でも再雇用してもらえるようになりました。【高年齢者雇用安定法に定められているルール(高年齢者雇用確保措置)】- 定年を65歳まで引き上げる
- 定年退職後、希望者は65歳まで再雇用する
- 定年を廃止する
再雇用制度を行う企業は、上記3つのいずれかを守らなければなりません(高年齢者雇用安定法第9条)。
ただし、再雇用を希望する当人が、就業規則に定められている解雇処分にあたるような行為をしている場合、再雇用を拒否されるケースもあります。 -
(2)再雇用後の労働条件にもルールがある
再雇用には、労働条件にルールがあります。
たとえば、再雇用後にもらえる給与について、定年退職前に正社員として働いていた時より“不合理に低い賃金”は不当となる可能性があります。ただし、老齢厚生年金の開始を考慮し一定の減額は合法です。
また、仕事内容についても、正社員時はデスクワークだったのに清掃の仕事を割り当てられる、などの極端な差異は認められないケースがあります。
長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)によると、再雇用後の給与を正社員時の79%とするのは合法と判断されています。また別の判例では、正社員の時の3割程度の給与でも合法だと認めたものもあります(平成30年1月29日東京地方裁判所立川支部判決)。
再雇用後は責任が軽くなり、勤務時間・業務量が少なくなることも多いので、その分も考慮した上で不平等でないかが判断されることになるのです。
なお、給与以外では、通勤手当・皆勤手当などで不合理な待遇差を作ることも違法だと判断される可能性があります。
2、再雇用に関するトラブル実例
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(1)再雇用の拒否
再雇用制度にまつわるトラブルのひとつに、「再雇用を希望したのに勤務先から拒否された」というケースがあります。高年齢者雇用安定法では希望者全員が再雇用制度を利用できると定められていますが、雇用主が「勤務態度がよくない」などと理由をつけて、退職させようとするなどです。
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(2)再雇用後の打ち切り(雇い止め)
二つ目のよくある事例は、いったん再雇用された後に有期雇用契約の更新を拒否されるというものです。これは法律用語で「雇い止め」と呼ばれます。
「有期雇用契約」とは、アルバイト・パートタイマー・派遣社員など、3か月~1年間の短い雇用契約を更新していく雇用形態のことです。有期雇用契約の仕事内容は、さまざまな種類があります。たとえば、クリスマスシーズンのイベントスタッフ、レジャー施設の夏休み限定スタッフなどは最初から臨時の仕事であることが想定されており、一般に労使が合意しています。この場合は契約更新しなくても問題となりません。
一方、正社員と一緒に恒常的な業務をこなしている場合には、継続して働くことを期待して当然であると考えられています。法令では「3回以上契約更新されている、または1年以上継続して雇用されている」非正規労働者を雇い止めする場合には、正社員についての解雇のルールと同じぐらい厳格に守るべきだとしています。
この「雇い止め法理」は判例で確立されたルールでしたが、改正後の労働契約法第19条に条において明文化されました。
この雇い止めのルールが再雇用後の契約更新にも当てはまるのか、次項で解説します。
3、再雇用の拒否・雇い止めは違法か?
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(1)再雇用の拒否は不当解雇にあたる
従業員が希望しているのに再雇用を会社が拒否することは、不当解雇(法律上無効な解雇)にあたる可能性が高いといえるでしょう。
たとえば、繰り返し懲戒処分を受けたなど、正社員を解雇する際と同程度の再雇用拒否の理由がなければ、会社が再雇用を断ることは難しいとされています。
正社員の法律上の立場は非常に強く、勤務態度や能力不足を理由に解雇することはできません。労働契約法第19条の規定は、再雇用後の非正規労働者も正社員と同等に、雇用される権利を認めています。
学校法人Y学園事件(名古屋地裁令和元年7月30日判決)では、教授の定年後の再雇用を学園が拒否したことについて「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず」として原告の再雇用の権利を認めました。
その上で、「定年後も就業規則等に定めのある再雇用規定に基づき、再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である」と判断し、未払いの賃金の支払いを命じています。
このように、会社から正当な理由なく再雇用を拒否された場合には、拒否の不当性を主張したり、損害賠償金を請求したりできる場合があります。再雇用の不当な拒否で悩んだ時は、弁護士に相談してみましょう。 -
(2)再雇用後の契約打ち切り(雇い止め)について
再雇用制度では、定年後から1年更新の契約を結ぶケースが多くみられます。しかし、この更新時に契約が打ち切りとなった場合にはどうなるのでしょうか。
この場合、再雇用労働者には定年まで正社員として働いてきた実績があることから、「契約更新の合理的期待を当然に有している」と考えられています。さらに、高齢者雇用安定法の目的である「65歳までの安定した雇用の確保」に反する行為とみなされる可能性があります。
したがって、たとえ更新のタイミングであっても、契約更新を打ち切る(雇い止めをする)ことは認められないというのが、一般的な判例の考えになります。
4、再雇用の拒否・雇い止めへの法的な対応策
もし実際に再雇用の拒否や、再雇用後の雇い止めに遭った場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。
まずすべきことは、証拠集めです。再雇用に関して上司と面談した際の録音データやメールのやり取りなどを残しておきましょう。また、再雇用の拒否や雇い止めの事実を証明する書類や、再雇用の条件について記載された就業規則などもそろえておきます。
次に、労働トラブルの経験が豊富な弁護士に相談しましょう。弁護士にもそれぞれ得意分野がありますので、労働事件の実績がある弁護士を選ぶことが大切になります。
弁護士に相談する際には、なるべく証拠を見せながら説明した方が、事情を理解してもらいやすくなります。弁護士は、会社の就業規則などを読んだ上で、再雇用の拒否・更新打ち切りが無効か否か、損害賠償金を請求できそうかどうか、判断してくれるでしょう。
弁護士に正式に依頼すると、依頼人と会社の間に入って交渉してくれるため、精神的負担は軽減されるでしょう。また、弁護士は法的根拠を示しながら会社の違法な行為を指摘してくれますので、個人で交渉するよりもスムーズに解決する可能性があります。
最終的な解決策としては、損害賠償金・未払い賃金だけを請求して退職する場合もありますし、会社に問題点を改善してもらった上で再び65歳まで働き続ける場合もあります。自身にとって納得できる結果を得るためにも、まずは弁護士に相談してみましょう。
5、まとめ
原則として「定年が65歳未満の会社では、全ての希望者が非正規雇用として再雇用を受けられる」というのが、高齢者雇用安定法のルールです。非正規というと雇用が不安定なイメージを持たれがちかもしれませんが、現在の法律では、一定期間以上働き続けてきた非正規労働者は、正社員と同じぐらい労働者の権利を守られています。
したがって、再雇用後の労働者の立場は世間一般が考えている以上に強いのですが、中には労働者の無知につけ込んで不当に退職させようとしてくるケースもあります。再雇用に関する労働トラブルでお困りの際は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士までご相談ください。親身にお話を伺い、ベストな法的対策をご提案いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています