接待に残業代は発生する? 残業代の対象になるケースとならないケース
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大阪府が公表している労働時間の統計によると、令和4年7月の総実労働時間は、5人以上の事業所で137.0時間、30人以上の事業所で143.0時間でした。また、所定外労働時間は、5人以上の事業所で9.1時間、30人以上の事業所で10.7時間でした。
所定外労働時間(いわゆる残業)は、残業代が支払われます。一方、会食や接待は、完全なプライベートではなく業務の一環として行われるにもかかわらず、残業代が支払われることはほとんどありません。
新型コロナウイルスの流行の落ち着きに伴い、徐々に会食や接待が行われるようになってきています。こうした、会食や接待に対して残業代を支払わなくてもよいのでしょうか。使用者の指揮命令下におかれていると評価できるかどうかが重要です。
今回は、接待に残業代が発生するケースと発生しないケースについて、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代が発生しないケース
そもそも接待とは、取引先をよく知って、自社の売上等の利益を得ることにつなげる目的でなされるものでしょう。会社の利益のために行うことが多いと思いますが、以下のような接待については、残業代が発生することはありません。
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(1)任意参加の接待
社命によるのではなく、労働者がみずから開催した接待や、参加するか否かを労働者が決められる接待の場合は、残業代が発生することはありません。
このような接待は、仲良くなった取引先の関係者と飲みに行ったり、休日一緒に遊んだりすることに近い接待というイメージですが、この場合は仕事というよりもプライベートの付き合いになりますので、残業代が発生しないというのは当然といるでしょう。 -
(2)懇親目的の接待
取引先との親睦を深めるために行われる接待についても、基本的には労働時間にはあたらないため、残業代が発生しません。
接待の目的があくまでも親睦を深めるためのものであった場合には、業務との関連性が希薄となりますので、労働時間と評価することは難しいでしょう。ただし、懇親目的であっても、会社から参加を強制されているような場合には、後述するように残業代が発生する可能性もあります。
2、残業代が発生するケース
以下のような接待については、残業代が発生する可能性があります。
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(1)接待への参加を強制されているケース
会社から接待への参加を強制されている場合には、業務の一環として接待に参加していることになりますので、労働時間と評価される可能性があります。
明示的に強制をされていない場合でも、接待に参加をしないと人事評価が下げられてしまう、取引先の接待に参加することが暗黙のルールになっているような場合にも、黙示的に接待への参加を強制されていると評価することができます。 -
(2)営業目的で接待をするケース
取引先との接待は、営業担当の社員が新規顧客を開拓したり、取引の継続をしてもらったりするための重要な営業手段となっている面もあります。また、自社や取引先のオフィスより、飲食店でプレゼンを行うと取引が成立しやすい場合もあります。
そのため、営業担当社員にとって、業務終了後の接待も業務に不可欠な営業であると評価することができれば、残業代が発生する労働時間と評価される可能性があります。 -
(3)接待中に業務を行うケース
接待中であっても、会社からの指示によって業務を行うことがあれば、労働時間と評価することができます。たとえば、接待の司会進行役を命じられたり、接待中の記録係を命じられたり、宴会の準備片付けを命じられたような場合には、残業代が発生する可能性があります。
3、休日出勤や長時間労働は残業代の対象となる
ここまでは残業代の支払いが必要となる接待と支払いが不要な接待について紹介してきましたが、法律上は、どのような場合に残業代を支払う必要があるとされているのでしょうか。以下では、残業と労働時間との関係について説明します。
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(1)残業代の支払いが必要な労働時間とは
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下におかれていると評価することができる時間のこといいます。労働時間にあたる場合には、その時間に対して、労働の対価である賃金を支払わなければなりません。
労働時間にあたるかどうかは、客観的に判断されることになりますので、労働契約や就業規則で定められた業務をしている時間でなくても労働時間と判断されることがあります。
たとえば、業務を始める前の準備作業や業務後のあと片付けについて、事業所内で行うことが義務付けられており、業務に不可欠なものであった場合には、使用者の指揮命令下におかれていると評価することができるため、労働時間にあたります。
接待に対して、残業代の支払いが必要であるかどうかは、接待が労働基準法上の「労働時間」に含まれるかどうかによって決まります。そのため、接待だからという理由で、一律に残業代を不支給とするのは不適切な扱いといえます。
接待といっても、取引先との関係を円滑に保つために必要不可欠なものや重要な商談を目的とするものから、懇親会目的のものまでさまざまなものがあります。
接待が労働時間に含まれるかどうかは、使用者の指揮命令下におかれていると評価できるかによって決まりますが、接待の多くは、拘束性に乏しく、業務との関連性も希薄であるため、残業代の支払いが必要な労働時間には含まれないといえるでしょう。 -
(2)残業をした場合には割増賃金が支払われる
残業をした場合、残業代の他に、一定の割増賃金が支給されます。
賃金に対する、具体的な割増率は以下のとおりです。- 時間外労働……25%以上
- 深夜労働……25%以上
- 休日労働……35%以上
たとえば、午後10時から午前5時までの深夜時間帯に取引先との接待をした場合には、時間外労働の25%以上の割増率と深夜労働の25%以上の割増率が適用されます。
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(3)休日のゴルフコンペは残業代の対象となるか?
休日に取引先との親睦を深めるために、ゴルフコンペに参加することがあります。このようなゴルフコンペは、残業代や休日出勤手当の対象となるのでしょうか。
休日のゴルフコンペが労働時間にあたるかについても、接待と同様に、使用者の指揮命令下におかれていると評価することができるかによって判断することになります。
ゴルフコンペは、一般的に会社が出席を強制するものではなく、各社員が取引先との関係を良好なものにするために、自主的に参加するものと考えられています。そのため、原則として、ゴルフコンペに参加をしたからとって、残業代や休日手当を請求することはできません。
しかし、ゴルフコンペへの参加が強制されており、不参加者に対して不利益が課されるものであった場合には、労働時間と評価することができますので、残業代や休日手当を請求することができます。
4、強制的な接待はパワハラにあたることもある
日本では、接待を通じて親睦を深めるという文化が根付いています。
しかし、接待は、勤務終了後に行われるのが通常ですので、夜遅くまで接待の参加を余儀なくされる結果、疲労の蓄積を招くおそれがあります。接待が連日続いて十分な休息をとることができない状態になると、心身の不調に繋がりやすくなります。
接待への参加を強制されている場合には、接待に参加している時間は労働時間にあたりますので、残業代を請求することができますが、実際に残業代が支払われている会社は、ごく少数といえます。残業代の支払いもなく、接待に無理やり参加させられているという場合には、パワハラの疑いもありますので、まずは、弁護士に相談をすることをおすすめします。
パワハラの疑いがある事案については、証拠による立証が可能であれば損害賠償請求をすることができますし、接待が労働時間と評価できる場合には、会社に対して残業代を請求していくこともできます。
無理な働き方をさせられているという方は、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
接待であるからといって、一律に残業代が支払われないわけではありません。接待であってもその内容や状況によっては、残業代が支払われる可能性があります。自分のケースで残業代が発生するのか確認したい、無理な働き方をしているので何とかしたいという方は、弁護士に相談をするのがおすすめです。
残業代請求などの労働問題でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています