サービス残業は証拠がないと訴えられない? 証拠がない場合の対処法

2022年10月20日
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サービス残業は証拠がないと訴えられない? 証拠がない場合の対処法

大阪労働局は、労働基準関係法令の違反をしたとされる事業場に対して、集中的に重点監督する「過重労働解消キャンペーン」を実施しています。キャンペーンの資料によると、監督指導を実施された675事業所のうち、賃金不払残業(サービス残業)の違反とされて指導を受けたのは73事業所でした。

会社が従業員にサービス残業をさせることは労働基準法違反であり、従業員は会社に未払い残業代を請求できます。サービス残業の残業代を請求するには、原則として残業をしたことの証拠が必要です。ただし、残業の証拠がない(少ない)場合でも、推計計算などの方法により、残業代を請求する余地は残されています。

今回は、サービス残業の残業代を請求する手続きや、残業の証拠がない場合の対処法などにつき、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。なお、堺オフィスは残業代請求の相談が何度でも無料です。現在お困りの場合は、お早めにご相談ください。

出典:「令和3年度「過重労働解消キャンペーン(11月)」の重点監督の実施結果を公表します」(大阪労働局)

1、サービス残業の残業代を請求する手続きの流れ

会社が従業員に残業をさせた場合、一部の例外を除いて残業代が発生します。もし会社からサービス残業を強いられている場合には、未払い残業代の請求をご検討ください。

残業代請求の手続きは、大まかに以下の流れで進行します。

  1. (1)残業の証拠を集める

    まずは、残業をしたことに関する証拠を集める必要があります。

    残業の確固たる証拠があれば、会社も残業代の支払いに応じる可能性が高いでしょう。また、労働審判や訴訟に発展した場合にも、残業の証拠がそろっていれば、従業員にとって有利に働きます。

    残業の証拠として利用できるものの例は、後述します。

  2. (2)残業代の金額を計算する

    残業代請求の準備段階として、次に残業時間に基づき、残業代の金額を計算することが必要です。

    残業代の金額は、以下の計算式によって求めることができます。

    残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数



    「基礎賃金」とは、給与計算期間(月給であれば1か月)において、会社から従業員に支給された賃金総額から、残業代と以下の手当を除いた金額です。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    割増賃金率は、残業の種類に応じて以下のとおり決まっています。

    法定内残業 100%
    時間外労働 125%
    ※大企業の場合、1か月当たり60時間を超える部分については150%
    深夜労働 125%
    休日労働 135%
    時間外労働かつ深夜労働 150%
    ※大企業の場合、1か月当たり60時間を超える部分については175%
    休日労働かつ深夜労働 160%
  3. (3)協議・労働審判・訴訟を通じて請求を行う

    残業の証拠がそろい、残業代の金額も計算できたら、以下の方法によって会社に残業代の支払いを請求します。

    1. ① 協議
      会社と直接話し合って残業代の支払義務を認めさせ、任意に残業代を支払ってもらいます。
    2. ② 労働審判
      裁判官1名・労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、労使間の調停を試みます。
      調停が不成立となれば、労働審判によって残業代請求に関する結論が示されます。
      審理が原則3回以内で集結するため、訴訟よりも迅速な解決が期待できるでしょう。
      ただし、労働審判に異議が申し立てられた場合には、自動的に訴訟へと移行します。
    3. ③ 訴訟
      裁判所の法廷で、残業代請求権の有無・金額について主張・立証を行います。
      残業代請求権の立証に成功すれば、裁判所が会社に対して支払いを命ずる判決を言い渡します。

2、サービス残業の証拠がなければ、残業代は請求できないのか?

残業代請求訴訟では、従業員側が残業の事実を立証する責任を負います。そのため、残業の証拠がなければ、残業代請求は認められないのが原則です。

ただし、会社が勤怠管理をきちんと行っていないなどの事情がある場合には、証拠がなくても残業代の「推計計算」が認められる可能性があります

  1. (1)証拠がなくても推計計算が認められることがある

    「推計計算」とは、客観的な証拠によって残業時間を裏付けることができなくても、さまざまな事情を総合的に考慮し、概括的に推計した残業時間に基づいて残業代を計算することを意味します。

    会社が勤怠管理を怠っていたり、意図的に記録を破棄したりした場合に、公平の観点から残業代の推計計算が認められることがあります。

  2. (2)残業代の推計計算が認められた裁判例

    以下の裁判例では、残業の明確な証拠に乏しかったにもかかわらず、推計計算によって残業代請求が認められました。

    実際に推計計算が認められた裁判例がある以上、残業の証拠が乏しくても、諦めずに残業代請求のための法的検討を行うことが大切です

    1. ① 大阪高裁平成17年12月1日判決(ゴムノナイキ事件)
      本事案において、残業の事実を裏付ける証拠は、日直当番の戸締まり確認リストと、労働者の妻が記載したノートしかありませんでした。
      しかし裁判所は、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったことは専ら会社の責任であり、そのせいで労働者を不利益に扱うべきでないことなどを理由に、概括的な残業時間の認定を行いました。
    2. ② 東京地裁平成23年10月25日判決(スタジオツインク事件)
      本事案では、タイムカードのほかに従業員が作成していた月間作業報告書を、会社が意図的に破棄したものと認定されました。そのため裁判所は、公平の観点から残業代の推計計算を認めました。

3、サービス残業の証拠の具体例

できる限り豊富に残業の証拠を集めることが、残業代請求を成功させるためのポイントです。
残業代請求の際に利用できる証拠としては、以下の例が挙げられます。

  • タイムカードなどの出退勤記録
  • 社内システムのアクセス履歴
  • オフィスの入退館履歴
  • 交通系ICカードの乗車履歴
  • タクシーの領収書
  • 業務メールの送受信履歴
  • 業務日誌、メモ(内容次第)
など


利用可能な証拠を幅広く収集し、会社に対する残業代請求に備えましょう。

4、サービス残業の証拠が手元にない場合の対処法

残業の証拠が手元になく、すでに退職していて会社のシステムにアクセスできない場合でも、残業代請求を認めてもらう方法は残されています。

弁護士にご相談のうえで、以下の方法などを検討して、残業代請求の成功率を高めましょう。

  1. (1)視野を広げて証拠収集|思いがけないところに証拠があるかも

    残業の典型的な証拠としてはタイムカードなどが挙げられますが、それ以外にも利用可能な残業の証拠はたくさんあります。

    たとえば交通系ICカードの乗車履歴などは、残業の証拠の中でも、退職後でも取得できるものです。ただ、乗車履歴は、一定期間経過後、消去されることに注意してください。
    視野を広げて検討すれば、思いがけないところに残業の証拠が残っているかもしれません。

  2. (2)会社に対して証拠開示を請求する

    会社が保有している資料については、会社に対して開示を求めることも考えられます。

    前述のとおり、残業代の推計計算が認められた裁判例も複数存在し、客観的な資料による勤怠管理は会社の責務と考えられています。

    したがって、労働審判や訴訟で従業員が証拠開示を請求した場合、応じなければ会社にとって不利益に働き得るということです。

    従業員としては、手元に残業の客観的な証拠がなかったとしても、労働審判や訴訟を通じて戦略的に証拠開示を請求すれば、最終的に従業員側の主張が認められる可能性が高まるでしょう。

  3. (3)推計計算により残業代を請求する

    残業の証拠が十分に集まらなかった場合には、推計計算によって残業代を計算し、その金額を会社に対して請求しましょう。

    ただし、推計計算の方法は個別の事情によって異なるので、説得的に推計計算を主張するには専門的な検討が必要です。

    そのため、残業の証拠に乏しく、推計計算によって残業代を請求せざるを得ない場合には、弁護士への依頼をおすすめします

5、サービス残業の残業代請求は弁護士にご相談を

会社に対する残業代請求を弁護士に依頼すると、スムーズに適正額の残業代を回収できる可能性が高まります。

弁護士にご相談いただければ、残業の証拠収集・残業代の計算といった準備段階から、実際の協議・労働審判・訴訟の手続きに至るまで、残業代請求に必要な対応を一貫して代行いたします

法的な根拠に基づいて適正額の残業代を請求できるほか、準備や対応にかかる労力が大幅に削減される点も、弁護士に依頼する大きなメリットです。

会社に未払い残業代を請求したい方は、お早めに弁護士までご相談ください。

6、まとめ

会社からサービス残業を強いられたことの証拠に乏しくても、推計計算などの方法を用いて、会社に残業代を請求する余地があります。

残業代の未払いについては、労働基準監督署に相談することも考えられます。しかし、会社に対して具体的な請求を行う際には、弁護士への相談がおすすめです。

ベリーベスト法律事務所は、残業の証拠収集や残業代の計算など、残業代請求に必要な手続きを全面的に代行いたします。固定残業代や管理監督者などの法的論点についても慎重に検討し、お客さまが適正額の残業代を回収できるようにサポートいたします。

当事務所では、残業代請求にかかる費用もホームページで公表しているので安心してご相談いただけます。会社に対する残業代請求は、ぜひベリーベスト法律事務所 堺オフィスにお任せください。

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