働き方改革で残業代が出ない理由は? 不当な未払いを防ぐ方法とは
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残業代を受け取ることは労働者の権利ですが、働き方改革の施行に伴って、持ち帰り残業やサービス残業に、残業代がきちんと支払われないという弊害が発生しています。
働き方改革は日本の働き方を改革しようとするもので、堺市でも働き方改革の促進を図るために、多様な人材が活躍する市内の企業を認定するなどの取り組みを実施しています。
本来は労働者を不当な長時間労働から保護するための働き方改革によって、なぜ残業代が出ないという問題が生じているのでしょうか。働き方改革による労働制限を理由に残業代が出ない理由や、対策方法について、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。
1、働き方改革でなぜ残業代が減るのか
働き方改革でなぜ残業代が減ってしまうのかを解説するために、まず働き方改革の概要を解説します。
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(1)働き方改革とは
働き方改革とは、生産年齢人口の減少や働き方のニーズの多様化などを背景に、生産性の向上・就業機会の拡大・意欲や能力を十分に発揮できる環境作りなどを目的とした、国が主導の改革です。
改革を実現するための法整備として、働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が平成30年6月29日に成立し、平成31年4月から施行されました。
働き方改革の大きなポイントのひとつは、労働者の残業時間に罰則付きで上限規制が設けられたことです。
働き方改革以前にも労働時間の規制は存在しましたが、罰則による強制力はなく、労働基準監督署による行政指導の対象になるのみでした。また、労使の合意による特別条項があれば、長時間労働を行わせることも可能でした。
しかし、働き方改革によって労働基準法などの関連法規が整備され、罰則付きの規制が実現したほか、特別条項によっても上回ることができない上限規制も設けられました。
働き方改革に伴う残業時間の上限規制は、大企業においては平成31年4月から施行され、中小企業は1年猶予されて令和2年4月から施行されています。 -
(2)残業時間の上限規制とは
時間外労働の上限は、原則として月に45時間、年に360時間までで、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
上記の規制は、働き方改革以前にも労働基準法に規定されていましたが、働き方改革によってより厳しい制限が課されるようになりました。
具体的には、臨時的な特別の事情によって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下の規制を順守しなければなりません。- 時間外労働は年720時間以内まで
- 時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満まで
- 時間外労働と休日労働の合計について、2〜6か月平均の全てが1か月あたり80時間以内まで
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
上記の規制に違反した場合、事業主は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。 -
(3)残業規制の目的とは
働き方改革によって残業時間に制限が設けられた目的は、不当な長時間残業を抑制して労働者を保護することです。
残業による長時間労働が増加すると、労働者のモチベーションが低下して生産性の低下につながります。また、長時間労働が慢性化すると、労働者の心身に悪影響が生じる恐れもあります。
残業規制によって不当な長時間労働が抑制されれば、上記のような弊害を防ぐことにつながります。労働者のモチベーションやワークライフバランスが改善するだけでなく、企業の生産性も向上します。
2、不当な残業代未払いにあたるケースとは
働き方改革の規制を免れるための持ち帰り残業やサービス残業など、不当な残業代未払いにあたるケースを解説します。
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(1)働き方改革による残業代未払いの問題とは
働き方改革の制限の範囲内の労働時間では業務が終わらないことから、社員が残業時間としてカウントせずに自宅に仕事を持ち帰ったり、残業の申請をせずにサービス残業をしたりするケースが少なくありません。
これらの持ち帰り残業やサービス残業を残業時間としてカウントすると、働き方改革の制限に抵触する可能性があることから、表向きは残業が発生していないという形で処理されてしまいます。
その結果、実際には残業をしているにもかかわらず残業時間としてカウントされず、残業代が会社から支払われないという問題が発生しています。 -
(2)持ち帰り残業で残業代を請求できるケース
持ち帰り残業とは、本来は会社ですべき仕事を自宅に持ち帰って、業務時間外に自宅で仕事をすることです。
持ち帰り残業については、使用者(雇用者)の指揮命令下に置かれていたといえる場合は、残業代の支払いの対象になります。
使用者の指揮命令下に置かれていたといえる場合とは、上司(いわゆる管理職である管理監督者など)の指示で持ち帰り残業をした場合と、上司の黙示の指示によって持ち帰り残業をした場合です。
上司の指示で持ち帰り残業をした場合とは、文字通りに上司が持ち帰り残業をするように労働者に指示することです。具体的には「働き方改革でもう残業は禁止だから、定時で終わらなかった仕事は自宅に持ち帰ってやるように」と指示するなどです。
上司の指示で持ち帰り残業をした場合は、労働をする場所が会社化自宅かの違いがあるだけで、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるので、残業代の支払いの対象になります。
次に、上司の黙示の指示によって持ち帰り残業をした場合とは、持ち帰り残業をすることを上司が明確に指示したわけではないものの、持ち帰り残業をしていることを上司が黙認していた場合です。
明確な指示がなかったとしても、労働者が持ち帰り残業をしていることを上司が黙認していたのであれば、実質的に使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるからです。
ただし、労働者が持ち帰り残業をしていることを上司が知らなかった場合は、使用者の指揮命令下に置かれていたとは評価できないので、一般に残業代の支払い対象にはなりません。 -
(3)サービス残業で残業代を請求できるケース
サービス残業とは、労働者が残業をしても残業時間としてカウントせずに、残業代が支払われない形態の残業のことです。労働者が無料サービスのように残業代なしで労働することから、サービス残業と呼ばれます。
サービス残業が残業代の支払い対象になるかどうかは、基本的には持ち帰り残業の場合と同様に、使用者の指揮命令下に置かれていたといえるかで判断されます。
サービス残業をすることを上司が指示した場合や、黙示の指示があったといえる場合には、サービス残業は残業代の支払い対象になります。サービス残業は定時後に会社で行われるのが一般的なので、持ち帰り残業に比べると、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価されやすいのが一般的です。
ただし、サービス残業をしていることを上司が知らず、労働者が自主的に残業を行っていた場合には、使用者の指揮命令下に置かれていたといえないので、基本的に残業代の支払い対象になりません。
3、残業規制が除外されるケースとは
業務によっては働き方改革における残業規制の対象外の場合があります。残業規制の適用が猶予されるケースと、残業規制が適用されないケースを解説します。
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(1)残業規制の適用が猶予されるケース
下記の業務については、働き方改革の残業規制の適用が令和6年4月1日以降まで猶予されています。
これらの業務は性質上、長時間労働になりやすく、労働時間を是正するにはある程度の時間がかかると考えられるためです。- 建設事業
- 自動車運転の業務
- 医師
- 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業
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(2)残業規制が適用されないケース
新技術・新商品などの研究開発業務については、残業規制の適用が一定期間猶予されるのではなく、残業規制がそもそも適用されません。
新技術や新商品を開発するには一般に多くの時間がかかり、かつ競業他社との競争のために急ピッチで開発をする場合も少なくないことから、残業規制の対象外にしたものと考えられます。
ただし、上記の業務について下記の要件を満たす場合には、代替措置として医師による面接指導をしなければならないことが罰則付きで義務付けられています。- 1週間に40時間を超えて労働した時間の合計が、1か月に100時間を超えている場合
たとえば、ある月の1週目に60時間、2週目に80時間、3週目に70時間、4週目に60時間労働したケースで考えてみます。
1週間あたり40時間を超えて労働した時間は、1週目に20時間、2週目に40時間、3週目に30時間、4週目に20時間です。合計すると110時間であり、月100時間を超えているため、医師による面接指導の対象になります。
事業者は面接指導を行った医師の意見をふまえて、必要に応じて職務内容や就業場所の変更、有給休暇の付与などの措置を講じる必要があります。
4、法的対応策
働き方改革によって残業時間は罰則付きで厳しく規制されるようになりましたが、会社が黙認して持ち帰り残業やサービス残業など、実質的な労働時間は変わらずに残業代は支払われないというケースが少なくありません。
また、使用者の指揮命令下にある持ち帰り残業やサービス残業は、本来は残業代が支払われるべき対象です。労働した分の賃金を受け取ることは労働者の権利なので、不当な残業代未払いについては法的対策を検討し、正当な残業代をきちんと受け取ることが重要です。
しかし、労働者が自力で未払いの残業代を回収することは簡単ではありません。自分で直接交渉することで会社や上司との関係が悪くなったりすることを恐れなかなか言い出せなかったり、勇気をだして上司に相談しても、聞く耳を持ってもらえなかったりする労働者も少なくないでしょう。
働き方改革が原因で残業代が不当に支払われなくなった場合は、労働問題の解決実績が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談すると、そもそも残業代が支払われるべき事案か、手持ちの証拠から残業代の回収ができそうかなどを、知識と経験に基づいてアドバイスすることができます。
また、会社とのやりとりは弁護士に任せることができるので、会社と自力で交渉する負担から解放されます。
さらに、会社が交渉に応じない場合は、労働裁判などの法的措置を検討することになりますが、弁護士に依頼すれば、裁判の代理人として適切に訴訟活動を行うことができます。
なお、不当に支払われなかった残業代を請求する場合の注意点として、残業代の請求は3年の時効がある点に注意しましょう。時効で残業代が請求できなくならないように、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
5、まとめ
働き方改革の重要なポイントのひとつとして、罰則付きで例外のない上限規制によって、不当な長時間労働の防止を図る法的規制が実現しました。
ところが、働き方改革による上限規制を免れるために、実質的に残業をしているにもかかわらず、残業としてカウントせずに持ち帰り残業やサービス残業をさせるケースがあります。
上司の指示や黙認による持ち帰り残業やサービス残業は、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるため、実質的な残業として残業代の支払い対象になります。
不当な残業代の未払いでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスにご相談ください。労働問題についての経験豊富な弁護士が、適切な残業代の支払いに向けて全力でサポートいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています