能力不足を理由に減給・降給はアリ? 違法な賃金カットへの対応方法
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会社から突然、能力不足を理由に減給を言い渡された…というケースは実のところ少なくありません。大阪労働局が令和6年7月に公表した「令和5年度紛争解決制度の施行状況」によると、令和5年度に大阪府下14か所にある総合労働相談センターで受けた民事上の個別労働紛争相談のうち、労働条件の引き下げについての相談は3383件もあったことがわかっています。
給料が減ることは、労働者の生活に重大な影響が及ぶことになります。当然、一方的な賃金カットについては納得できないという方は多いでしょう。本コラムでは、能力不足を理由に賃金カットをされた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。賃金カットを行った根拠や理由によっては、減給分の請求をすることができる場合があることを知っておきましょう。
1、減給となるケースとは
減給となるケースには、大きく分けて懲戒処分の一環として行われるものと、人事権行使としての降格によるものの2種類があります。
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(1)懲戒処分
懲戒処分とは、労働者の企業秩序違反行為に対して使用者が加える制裁罰のことをいいます。賃金カットが伴う懲戒処分としては、以下の減給処分と降格処分の2つがあります。
① 減給処分
減給処分とは、本来支払われる賃金額から、一定額を控除する懲戒処分のことをいいます。
減給処分については、使用者による制裁が過度に及ばないようにするために、労働基準法91条によって「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」という規制を行っています。
② 降格処分
降格処分とは、制裁の目的で低位の職位につける懲戒処分のことをいいます。
降格処分は、減給処分のような支払うべき賃金の減額ではなく、将来に向けて賃金を低くする処分であるという特徴があります。 -
(2)人事権行使としての降格
使用者は、人事権に基づき労働者の職務遂行能力や業績を考慮して人事考課(査定)を行います。
人事権行使としての降格人事が行われた場合に、賃金カットが伴うものとしては、役職・職位の降格と職能資格の引き下げとしての降格があります。
① 役職・職位の降格
役職・職位の降格とは、昇進の反対のことをいい、たとえば、課長職から係長職に役職を引き下げる場合がこれにあたります。
就業規則上、課長職に対しては役職手当として10万円が支払われることが記載されている場合には、役職・職位の降格によって賃金カットがなされることになります。
② 職能資格の引き下げとしての降格
職能資格制度とは、労働者の職務遂行能力を評価して行う、労働者の格付けのことをいいます。
一般的には、勤続年数、学歴、年齢といった属人的な要素を考慮して格付けがなされることが多いです。たとえば、一般職、中級職、上級職といったように資格が定められ、さらに1級、2級、3級などの等級が定められ、基本給の全部または相当部分がこれらの資格等級に応じて定められるなどです。
そのため、職能資格を引き下げる降格が行われた場合には、資格等級に応じて定められる賃金も減少することになります。
2、能力不足は減給の対象になるか?
労働者の能力不足は減給の対象になるのでしょうか。以下では、能力不足を理由に懲戒処分または人事権行使としての降格をすることができるのかについて説明します。
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(1)懲戒処分
懲戒処分は、労働者の企業秩序違反行為に対して制裁目的でなされる処分です。そして、懲戒処分をするためには、就業規則に懲戒事由が明確に規定されていることが必要になります。
しかし、労働者の能力不足という問題は、労働者の能力や資質に起因するものですので、企業秩序違反には該当しません。仮に、就業規則に能力不足を理由に懲戒処分をすることができる旨の規定があったとしても、そのような理由での懲戒処分は、客観的に合理的な理由を欠くものとして無効になるといえるでしょう(労働契約法15条)。
したがって、労働者の能力不足を理由に懲戒処分をすることはできません。 -
(2)人事権行使としての降格
適正な人事評価によって労働者に職位や職能資格制度に基づく能力が欠如していると判断した場合には、能力不足を理由として降格することが可能です。
降格に伴い賃金のカットがなされることがありますが、役職手当のように特定の職位にあることに対して賃金が支払われているような場合や就業規則上、職能資格と賃金が連動しているような場合には、能力不足を理由に降格をしたことに伴って、賃金がカットされることもあります。
3、降格による減給には明確な根拠と理由が必要
人事権行使としての降格によって減給を行うことは可能ですが、明確な根拠と理由が必要になります。
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(1)減給の根拠
労働者と使用者が労働契約を締結したことに伴い、使用者には人事権が認められることになります。役職や職位を引き下げる降格を行う場合には、就業規則上の根拠がなかったとしても、この人事権を行使することによって可能になります。ただし、役職や職位の降格に伴って減給されるには、そのことについての労働契約上の根拠がなければなりません。
これに対して、職能資格制度における資格や等級を引き下げる降格については、労働契約に伴って当然に認められるものではありません。職能資格制度は、いったん到達した潜在的職業能力が引き下げられることは本来予定されていないため、職能資格を引き下げることは労働契約の締結に伴い使用者に当然に認められたものではありません。
そのため、職能資格を引き下げるためには、労働者と使用者の間に合意が必要となります。 -
(2)減給の理由
人事権の行使として降格を伴う減給をするとしても、使用者が無制限に行うことができるわけではありません。人事権の行使として行われる降格については、人事権の濫用にあたる場合には無効になります。
人事権の行使の有効性を判断する際には、使用者側における業務上の必要性の有無およびその程度、能力、適性の欠如などの労働者側の帰責性の有無およびその程度、労働者の受ける不利益の性質およびその程度などの諸般の事情を総合的に考慮していくことになります。
単に能力不足であるという理由だけでなく、使用者がどの程度の指導・教育を行ったのか、降格の基礎となる評定に合理性があるか、といった点についても考慮されることになります。
4、能力不足で減給処分を受けたときの対策
使用者から能力不足を理由として減給された場合には、以下のような対策をとるようにしましょう。
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(1)就業規則や労働契約の確認をする
能力不足を理由として減給された場合には、どのような根拠によって減給しているのかを使用者に確認するようにしましょう。
すでに説明したとおり、懲戒処分として減給処分や降格を行う場合には、労働者に企業秩序違反行為があったことが前提となりますので、単に能力不足であるというだけでは、懲戒処分を根拠として減給処分を行うことができません。
もし、懲戒処分を根拠として減給をしているのであれば、懲戒処分を争うことによって、減給処分が無効になる可能性があります。 -
(2)能力不足の明確な定義を確認する
使用者による減給が人事権行使としての降格によるものであり、就業規則や労働契約に明確な根拠があった場合には、次の段階として、能力不足の明確な定義を確認するようにしましょう。
人事権の行使は、使用者の裁量に委ねられているとはいっても一定の限界があります。必然性がない恣意(しい)的な理由や、合理的な根拠に基づかない人事権の行使は、人事権の濫用として無効になる可能性があります。
そのため、どのような評価に基づいて能力不足と判断したのかについての具体的な理由を確認するとよいでしょう。使用者から明確な理由の説明がない場合には、根拠のない減給の可能性が高くなります。 -
(3)弁護士への相談
使用者からの減給に対して納得ができない場合には、使用者に対して減給や降格の無効を主張し、減給分の給与の支払いを求めることになります。しかし、個人では使用者と交渉を進めることが難しいと考える方も少なくないでしょう。
減給や降格の無効を主張して減給された給与の請求をする際には、弁護士に依頼して進めることがおすすめです。弁護士が使用者との交渉の窓口になることで、法的観点から適切に対応するとともに、労働者個人の精神的負担も軽減されるでしょう。
また、人事権の濫用にあたるかどうかについては、総合的な判断になりますので、過去の裁判例を踏まえた専門的な判断が必要になる事項です。労働問題の経験豊富な弁護士であれば、人事権の濫用にあたるかどうかの判断のポイントを熟知していますので、必要となる証拠を適切に収集し、効果的な主張を展開することが可能です。
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5、まとめ
能力不足を理由に減給処分がなされたとしても、その根拠や理由によっては違法な減給処分だったという可能性があります。納得できない理由で会社から減給処分がなされた場合には、まずは弁護士に相談し、サポートを受けながら、交渉の余地があるか見極めましょう。労基署などに相談することもできますが、すぐにあなたの処分を取り消すよう交渉するなどの対応を行ってくれるわけではありません。
弁護士であれば、あなた個人が受けた不利益を回復するために、あなたの代理人として交渉から対応することが可能です。使用者から一方的な理由で減給処分をされた、もしくは労働トラブルでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスまでお気軽にご相談ください。労働問題についての知見が豊富な弁護士があなたをサポートします。
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