デートDVとは? 恋人間の暴力への法律的な対策を弁護士が解説
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近年、ドメスティックバイオレンス(以下DV)やストーカーについての相談は急増しています。これを受けて、大阪府警は2019年4月に人身安全対策室を設置しました。設置後は半年間で1.6万件もの被害を認知し、派遣支援は945件にも達したことが明らかになっています。
また、今まで“男女間の痴話げんか”として見過ごされがちだったデートDVも、今後はさらに相談しやすい環境が実現すると期待されます。
そこで今回は、そもそもデートDVとは何か、被害にあった場合はどうのように対策すればよいか等について、法律上の観点から堺オフィスの弁護士が解説します。
1、デートDVの定義と具体例4つ
デートDVとは、恋人間で起こる、肉体的・精神的・性的・経済的暴力のことです。
恋人同士のトラブルは、周りに相談しても“単なる痴話げんか”として軽視されがちであり、被害者であるという意識を持ちにくい問題です。しかし近年では、その深刻な被害が広く認識されるようになり、警察などの公的機関もデートDV専用の対策を講じるようになってきました。
デートDVに該当するのは、主に以下の4つのパターンです。
●身体的暴力
身体的暴力とは、相手の身体を殴る・蹴る・たたく行為だけではありません。胸ぐらをつかむ、身体を押さえつける、髪の毛をつかむ、耳元で怒鳴る、物を投げつけるなどの行為もこれに該当します。
●精神的暴力
「ブス・デブ」「頭悪いな」「何の取りえもないな」「育ちが悪い」など相手の尊厳を傷つける暴言を浴びせる行為です。他にも、思い通りにならないと無視をする、「別れたら自殺する」と脅すことも精神的暴力となります。
また、交際相手のスマホをチェックする、気に入らない人の連絡先を無理やり削除させる、「飲み会に行くな」などといって交際を制限しようとする、「露出はダメ」などと服装や化粧を指定するなどの行為も該当します。
●性的暴力
恋人同士であっても、合意のない性行為は許されません。避妊に協力しない、無理やりわいせつな動画や画像を見せて性的嫌がらせをする、嫌がっているのに性行為中に相手の動画や画像を撮影するなどの行為も性的暴力に該当します。
●経済的暴力
夫婦だけでなく、恋人同士の関係においても、経済的暴力が問題になることがあります。
たとえば、恋人に無理をいってお金を支払わせる、高額なプレゼントをさせる、恋人からの借金を返さない、などが当てはまります。
2、なぜデートDVは起こってしまうのか
デートDVが起こる原因は一概には判断できませんが、一般的に加害者の“心そのもの”に問題があるといわれています。つまり相手の接し方が悪いとか、不誠実だからということが原因にはなりにくいということです。
そもそも健全な恋人関係においては、何らかのトラブルが発生したとしても、話し合いにより解決するものです。お互いの自由を尊重しながら意見をすり合わせるのが、人間関係の基本です。どうしても相手の性格や行動・言動に納得がいかないのなら、別れを選択することも健全な解決のひとつでしょう。
しかしデートDVの加害者の場合は、「人間関係を支配・従属関係で捉えている」「暴力が愛情表現だと勘違いしている」「自分に自信がないので相手をコントロールしたい」と考えてしまう傾向があります。持って生まれた気質だけでなく、生育環境での人間関係も、加害者の人格形成に影響を及ぼしているかもしれません。
優しい人ほど同情したり自分自身を責めたりしてしまいがちですが、そうするとデートDVからますます逃げられなくなってしまうでしょう。どれほど好きな相手であったとしても、交際相手の人格を変えることは大変難しいものです。もし交際相手が何らかのトラウマ(心的外傷)からデートDVに走っているとしても、本人が本気で反省して自力で改善しようと努力しない限り、性格は決して変わらないと考えましょう。
生育環境や過去のトラウマ(心的外傷)は、他人を傷つけていい理由にはなりません。毅然(きぜん)とした態度で離れること、専門家に助けを求めることが大切です。
3、DV防止法で身を守れるのか
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(1)DV防止法は「同居している恋人同士」に適用される
DVの被害者の救済を目的として成立した法律に、「DV防止法(配偶者からの暴力防止および被害者の保護に関する法律)」があります。もともとは配偶者からの暴力に対応するために制定された法律でしたが、平成26年からは“生活の本拠を共にする交際相手(同棲している恋人)”にも適用されるようになりました。
したがって、残念ながら同居をしていない恋人間のDVには適用されません。ただし、過去に同棲をした経緯があり、同棲解消後も引き続き暴力を受けている場合は対象となる可能性が高くなります。 -
(2)DV被害者を守る保護命令とは
なおDV防止法に基づいて、裁判所に申し立てを行い「保護命令」が下ると、以下の命令が被疑者へ発令されます。
●被害者への接近禁止命令
被害者の自宅や勤務先などの生活範囲でのつきまとい・徘徊(はいかい)を禁止する命令です。発令から6か月間有効です。
●退去命令
被害者と同居していた自宅から退去させ、自宅付近での徘徊(はいかい)を禁止する命令です。有効期間は、発令から2か月間です。加害者は、警察付き添いの上で自宅に荷物を取りに来ることがあります。
●被害者の子や親族等への接近禁止命令
被害者と同居している未成年の子どもや親族等に、加害者が接近することを禁止する命令です。発令されると、子どもの通う保育園・学校、親族の自宅などに接近することができなくなります。有効期間は6か月です。なお15歳以上の子どもについては、命令を発令する際に同意が必要となります。
●接近禁止命令と併せて申し立てられる禁止行為- ① 監視していると思わせるようなことを告知する
- ② 面会・交際などの執拗(しつよう)な要求
- ③ 著しく下品・乱暴な言動で怖がらせる
- ④ 無言電話・執拗な電話、FAX、メール、SNSへの投稿など
- ⑤ 汚物・動物の死がいなど嫌悪の情を起こさせるものの送付
- ⑥ 名誉を傷つける
- ⑦ リベンジポルノ、わいせつな画像・文書の送付など性的羞恥心の侵害
発令から6か月の期間有効となります。
なお、保護命令に違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
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(3)デートDVは刑法の暴行罪等にあたる可能性がある
DV防止法に該当しなくても、交際相手からのDVは刑法上の罪にあたるかもしれません。
該当しうる代表的な5つの罪を紹介します。
●暴行罪(刑法第208条)
交際相手から暴力をふるわれた場合、暴行罪で訴えることができるかもしれません。
暴行罪でいう“暴行”とは、不法な有形力の行使を意味しており、これによって「被害者が負傷していないこと」が条件となります。たとえば、殴る・蹴る・たたくなどの他に、身体の一部を強く引っ張る、殴るふりをする、耳元で大声を出す、物を被害者に向かって投げつける、などの行為がこれに当てはまります。暴行罪が成立すると、被疑者には、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科されます。なお、科料とは1000円以上1万円未満の金銭罰のことです。
●傷害罪(刑法第204条)
デートDVの暴行によって負傷(精神疾患を含む)した場合に、傷害罪が成立する可能性があります。
傷害とは、人の生理的機能を害することです。殴られて骨折した、切り傷ができた、繰り返し精神的暴力を受けたショックでうつ病になった、耳元で大声を出されて聴力に異常が出た、などが該当します。暴行罪よりも深刻な被害が発生するため、15年以下の懲役または50万円以下の罰金と、より重い刑罰が科されます。
●脅迫罪(刑法第222条)
脅迫罪とは、生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅すことです。
「別れたら殺すぞ」「別れたら性行為中の写真をネットで拡散する」などと交際相手から脅された場合、脅迫罪に問える可能性があります。脅迫罪で逮捕されると、2年以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。
とりわけ元交際相手などの裸の写真や性行為中の動画をばらまく行為は、「リベンジポルノ法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)」に基づき3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
●強制性交等罪(刑法第177条)
恋人同士であっても相手の同意なく性交を強制することは違法です。性交を強要すると、強制性交等罪(旧強姦罪)として、5年以上の懲役に罰せられる可能性があります。
これまで強制性交等罪は、親告罪でしたが、2017年の法改正によって非親告罪となり、被害者が告訴しなくても刑事裁判に問うことができるようになりました。法改正によって、これまで強制わいせつ罪とされてきた口腔性交・肛門性交も強制性交等罪に含まれるようになったことも大きな進歩です。
●侮辱罪(刑法第231条)・名誉毀損罪(刑法第230条)
交際相手から、人前で「バカ・ブス・デブ」「能なし」など尊厳を傷つける発言をされた場合、侮辱罪に問うことができるかもしれません。
侮辱罪とは、事実を摘示しないで公然と人を侮辱することで成立します。事実を摘示するとは、相手の名誉を損なう、もしくはその可能性のある事柄を口頭や文章で示すことです。一方名誉毀損罪は、事実の摘示によって、公然と人の社会的評価を低下させるおそれのある行為で成立します。この場合の“事実”とは“真実”だけでなく、虚偽の事実も含まれます。たとえば、「不倫していた」「犯罪の前科がある」などです。
侮辱罪は拘留または科料、名誉毀損罪は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科せられます。
4、別れた交際相手がストーカー化してしまったら
デートDVをしてくる交際相手に思い切って別れを告げたとしても、相手がなかなか納得してくれずストーカー化することをおそれる方もいらっしゃるかもしれません。
以下のストーカー規制法で禁止されている行為を、何度も繰り返し継続してされた場合、加害者をストーカーとして訴えることができます。
●ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)で禁止されている行為
- ① つきまとい・待ち伏せ・押しかけ・周辺のうろつき・見張り
- ② 監視していると思わせるようなことを告知する
- ③ 面会・交際などの執拗な要求
- ④ 著しく下品・乱暴な言動で怖がらせる
- ⑤ 無言電話・執拗な電話、FAX、メール、SNSへの投稿など
- ⑥ 汚物・動物の死がいなど嫌悪の情を起こさせるものの送付
- ⑦ 名誉を傷つける
- ⑧ リベンジポルノ、わいせつな画像・文書の送付など性的羞恥心の侵害
ストーカー行為は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象です。
5、デートDV解決のためにするべき行動
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(1)まずは女性相談センター等へ相談を
すぐに地元の婦人相談所に相談しましょう。各都道府県に設置されている婦人相談所は、厚生労働省所管の機関です。恋人同士のDVにも対応してくれます。デートDVの被害に遭ったら、我慢してはいけません。
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(2)危険を感じた際は迷わず警察へ
差し迫った危険を感じた場合には、警察に相談しましょう。交際相手からのDVやモラハラ、ストーカー行為に悩んでいる方のために設定されている警察相談電話の利用もおすすめです。
もし相手の行動がストーカー行為の場合、警察は、「その行為はやめなさい」と禁止命令を出すこともあります。この禁止命令に反して、さらにストーカー行為をしたと認められると、加害者は2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されます。 -
(3)弁護士に相談することで心身の負担を減らす
警察に相談したものの証拠がないので取り合ってもらえなかったというケースもあるかもしれません。また、そもそもデートDVにあたるか、判断がつきかねることもあるでしょう。しかし、本来は幸せであるはずの交際期間において、心身がつらいと感じ、悩んでいるのであれば何らかの行動をとることをおすすめします。
男女問題に明るい弁護士に相談すれば、状況に合わせた具体策と親身なアドバイスにより、問題を解決する道筋をつくってくれるでしょう。
6、まとめ
一口にデートDVといっても、さまざまなパターンがあることをご理解いただけたのではないでしょうか。デートDVは加害者に自覚がないことが多く、また被害者が我慢すればするほど状況が悪化するため、人知れずトラブルが深刻化するケースもあります。少しでもおかしい、つらいと感じたら、公的な相談窓口や専門家に助けを求めましょう。その際、男女間のトラブルに詳しい弁護士も力になることができます。
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています