重過失と軽過失の違いとは? 交通事故などで罪の問われ方は変わるのか
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大阪府警察が公表している令和4年版の交通白書によると、大阪府内の交通事故件数は2万5509件で、死者数が141人、負傷者数が2万9760人でした。
交通事故の加害者となってしまった場合には、自動車運転処罰法や道路交通法などの法律によって、刑罰が科される可能性があります。また、交通事故といっても、事故が発生したのが運転者の過失であるのか、重過失であるかによって適用される罪が異なりますので、それぞれの違いを理解しておくことが大切です。
今回は、交通事故を例にして、重過失と軽過失の違いにより変わる刑罰などについて、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。
1、重過失と軽過失の違い
重過失と軽過失とはどのような概念なのでしょうか。以下では、過失の概念や重過失と軽過失の違いなどについて説明します。
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(1)過失とは
過失とは、どのような結果が生じるのか予見可能であったにもかかわらず、その結果を回避するために必要な義務を怠り、結果を生じさせてしまうことをいいます。簡単にいえば、不注意によって何らかの結果を生じさせてしまった状態です。
このような過失の対義語として「故意」というものがあります。故意は、ある行為によって結果が生じることを認識しながら、あえてその行為をすることをいいます。過失が不注意で結果を生じさせてしまったのに対して、故意は意図的に結果を生じさせたという点で両者は異なります。
刑事事件においては、意図的に犯罪結果を生じさせた故意犯の方が過失犯よりも重く処罰されます。 -
(2)重過失と軽過失の違い
重過失と軽過失は、いずれも不注意によって結果を生じさせた過失犯という点で共通します。しかし、両者は、過失の程度という点で異なっています。
重過失とは、注意義務違反の程度が著しい状態をいい、わずかな注意を払えば容易に結果を予見し、回避することができたにもかかわらず漫然と結果を生じさせた場合のことをいいます。
これに対して、軽過失とは、通常要求される注意義務を欠いた状態のことをいいます。軽過失は、重過失との対比で用いられる用語ですが、一般的には「過失」に含まれる概念です。そのため、過失の程度として、軽過失、過失、重過失の3種類が存在するわけではありませんので注意が必要です。
2、「過失」で変わる刑罰
交通事故の事案では、刑法ではなく自動車運転処罰法(正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」です。)という法律によって刑罰が科されます。以下では、自動車運転処罰法の概要と過失の内容によって適用される刑罰について説明します。
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(1)自動車運転処罰法とは
交通事故で被害者を負傷させたり、死亡させたりした場合には、自動車運転処罰法という法律によって処罰されます。
以前は、刑法上の業務上過失致死傷罪が適用されていましたが、過失とは到底いえないような危険な運転による人身事故が多発したことを受け、人身事故の罰則強化を求める声が高まりました。そこで、刑法から交通事故に関する処罰規定を独立する形で制定されたのが、この自動車運転処罰法という法律です。 -
(2)交通事故事案で適用される刑罰
人身事故を生じさせた加害者に対しては、「過失運転致死傷罪」または「危険運転致死傷罪」のいずれかが成立する可能性があります。
① 過失運転致死傷罪
自動車を運転していて、自動車の運転上必要な注意を怠りによって被害者を負傷させたり、死亡させたりした場合には、過失運転致死傷罪が成立します(自動車運転処罰法5条)。
わき見運転、前方不注視、速度超過などで人身事故が起きた場合には、基本的には、この過失運転致死傷罪が適用されます。
過失運転致死傷罪が成立した場合には、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処せられます。刑法上の業務上過失致死傷罪の法定刑が5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金と規定されていますので、自動車による人身事故は、より重い罪とされているのがわかります。
② 危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪とは、一定の危険な状態で自動車を運転させたことによって、被害者を負傷させたり、死亡させたりした場合には、危険運転致死傷罪が成立します(自動車運転処罰法2条、3条)。
危険運転致死傷罪が適用される、一定の危険な状態としては、以下の8つのケースが挙げられます。- アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行(2条1号)
- 制御が困難なスピードによる走行(2条2号)
- 制御する技能を持たずに運転(2条3号)
- 人や車の通行を妨害する目的での運転(2条4号・5号・6号)
- 赤信号を殊更に無視して危険な速度で走行(2条7号)
- 通行禁止の道路を危険な速度で走行(2条8号)
- アルコールまたは薬物の影響で自動車の運転に支障を及ぼす恐れがある状態で自動車を運転し、その結果そのアルコールまたは薬物の影響で正常な運転が困難な状態に陥っての走行(3条1項)
- 病気の影響で自動車の運転に支障を及ぼす恐れがある状態で自動車を運転し、その結果その病気の影響で正常な運転が困難な状態に陥っての走行(3条2項)
このような危険運転によって人を負傷させた場合、2条に該当するケースでは15年以下の懲役、3条に該当するケースでは12年以下の懲役に処せられ、人を死亡させた場合、2条に該当するケースでは1年以上の有期懲役、3条に該当するケースでは15年以下の懲役に処せられます。
過失運転致死傷罪と比較して危険運転致死傷罪が重く処罰されるのは、過失運転致死傷罪が過失犯であるのに対して、危険運転致死傷罪が故意犯であるという違いがあるからです。
3、故意じゃなくても逮捕されるのか
交通事故の大半は不注意による過失によって発生するものですが、このような過失による犯罪であっても逮捕されることがあるのでしょうか。
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(1)過失でも逮捕される可能性はある
何らかの罪を犯してしまうと、必ず警察に逮捕されるというイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
しかし逮捕は、被疑者の身体拘束を伴う処分ですので、犯罪の嫌疑があるという理由だけで逮捕することは認められません。逮捕は、被疑者が逃亡するおそれまたは証拠隠滅を図るおそれがある場合に、逃亡や証拠隠滅を防止して捜査をする目的で行われるものです。
故意犯と異なり過失犯は、不注意によって結果を生じさせてしまう犯罪ですので、一般論でいえば故意犯に比べれば逮捕される可能性は低いといえます。しかし、過失犯であっても被害者が複数いるような場合や被害者を死亡させたような場合には、逃亡または証拠隠滅のおそれがあるとして逮捕されることもあります。
このように過失犯であったとしても逮捕される可能性は十分にありますので注意が必要です。 -
(2)逮捕された後の刑事手続きの流れ
警察に逮捕された場合には、以下のような流れで刑事手続が進んでいきます。
- ① 逮捕
警察に逮捕された場合には、警察の留置施設で身柄が拘束されます。逮捕中は、家族でも面会することができず、面会できるのは弁護士に限られます。
逮捕による身柄拘束は最大72時間以内と法律によって決まっており、警察は逮捕から48時間以内に被疑者を釈放するか検察に送致しなければなりません。
- ② 検察への送致
警察から送致を受けた検察では、必要な取り調べを行い、検察が被疑者の身柄を受け取ったときから24時間以内、かつ被疑者が身体拘束を受けた時から72時間以内に、被疑者を釈放するか、勾留請求をするか、起訴をするかを判断しなければなりません。
- ③ 勾留
被疑者の身柄を引き続き拘束する場合は、検察官は、裁判所に勾留請求をします。裁判所で勾留請求が認められると、10日間の身柄拘束が行われます。その後、裁判所がやむを得ない事由があると判断したときは、勾留延長が認められ、さらに10日間身柄拘束がされます。
- ④ 処分の決定
勾留期間が満期を迎える前に、検察官は、被疑者を起訴するか不起訴にするかを判断します。起訴されれば刑事裁判が行われることになりますが、不起訴になれば釈放され、前科も付くことはありません。
- ① 逮捕
4、刑事事件を弁護士へ依頼するメリット
刑事事件が発生してしまった場合は、すぐに弁護士にご相談ください。弁護士に相談することは、主に以下の2つのメリットがあります。
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(1)逮捕された場合にすぐに面会に行くことができる
警察に逮捕されてしまうと身柄拘束をされた状態で、警察の取り調べに応じなければなりません。
取り調べで作成される供述調書は、後日の裁判の証拠として使われることになりますが、不利な内容が記載されていることに気付かず署名押印してしまうと、内容を修正したくても困難なため注意が必要です。
逮捕されてから勾留されるまでの間、弁護士以外の人による面会を認める法律上の規定はなく、被疑者と面会できるのは、基本的に弁護士に限られますので、逮捕された場合は、すぐに弁護士に連絡するようにしましょう。取り調べについて、弁護士から適切なアドバイスを受けることで、不利な供述調書の作成を回避することができます。 -
(2)被害者との間で示談交渉ができる
被害者がいる犯罪では、示談を成立させることで、早期の釈放や不起訴処分を獲得できる可能性が高くなります。
交通事故の場合には、加入している保険会社の担当者によって損害賠償や過失割合などの示談交渉が進められます。示談は、被害者の怪我が完治または症状固定と診断された時点以降に行われますので、すぐには示談の成立ができないケースもあります。
そのような場合には、弁護士が自動車保険の保険証券と保険会社の担当者から聞き取りした示談状況をまとめた報告書を作成し、検察官に提出することで、有利な情状として考慮してもらえる可能性があります。
5、まとめ
不注意によって犯罪結果を生じさせてしまった場合には、法律に過失犯を処罰する規定があれば、過失犯として処罰される可能性があります。過失犯は、故意犯に比べると法定刑が軽くなっているとはいえ、犯罪の結果や態様によっては、逮捕されたり、重い刑罰が科されたりする可能性のある犯罪です。
交通事故の加害者など過失犯の当事者になってしまった場合には、弁護士のサポートが不可欠となりますので、まずはベリーベスト法律事務所 堺オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています