万引きの際に店員を突き飛ばしたら事後強盗? 量刑と示談について解説
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大阪府警察の発表によると、平成30年度の大阪府における万引き認知件数は7062件でした。自転車盗、車上ねらいに続く窃盗犯の手口、上位3位にあげられています。犯罪の減少率が低く、高齢者や組織的犯行、常習者による犯行が発生するなど、大阪府警察でも万引きの取り締まりに注力しています。
万引きは「窃盗罪」にあたりますが、もし、万引きの現場を見つかってしまい、店員や警備員を突き飛ばすなどの行為をすると、窃盗罪だけでなく「事後強盗罪」にも問われるおそれがあります。
「事後強盗罪」とはどのような罪であり、どんな刑罰が科されるのかについて、堺オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、万引きは軽微な犯罪ではない
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(1)万引きは刑法上「窃盗罪」にあたる
万引きという行為は、刑法第235条の「窃盗罪」として罪を問われることになる犯罪です。
他人の財物を窃取したことによって問われる犯罪であり、空き巣やスリ、置き引きなどと同罪とされ、罪の重さは決して軽くはありません。窃盗罪で有罪となると、懲役刑10年以下もしくは罰金刑50万円以下の罰が科されます。
なお、万引き後に商品を買い取ると申し出ても、状況によっては被害届を出されるケースがあります。また現行犯逮捕されなくても、防犯カメラなどで特定され、犯行後日逮捕される可能性もあるでしょう。 -
(2)万引きが「事後強盗罪」になるケースとは?
万引きの現場を店員や警備員に見つかった際、たとえば次のような行動をすると事後強盗罪に問われることがあります。
- 逮捕されないように突き飛ばすなどの暴行をはたらいた
- 窃盗が見つかり窃盗した商品を取り上げられたが、奪い返すために殴った
- 逮捕から逃れるため、目撃者を脅した
「事後強盗罪」は刑法第238条に詳細が規定されています。具体的には、窃盗行為ののち、上記の行動をすると、刑法第236条に規定されている強盗罪と同じ罪を犯したとして取り締まりを受けることになるのです。
事後強盗は窃盗罪から派生する犯罪ですが、準強盗罪の一種として扱われることになります。なお、強盗罪は他人の財物を奪うことを目的に暴力や脅迫を用いた際に問われる罪です。
なお、万引きが未遂であったとしても、万引きからの派生で暴行におよんだ場合、事後強盗未遂罪が成立します。たとえば、店外に商品を持ち出そうとしたが店員に見つかり、商品を取らずに突き飛ばして逃げた、といったケースです。この場合も、強盗未遂罪(刑法第243条)として扱われます。
さらに暴行などをはたらいた結果、被害者がケガをしたり死亡したりすると、強盗致死傷罪(刑法第240条)が適用されることになるでしょう。 -
(3)事後強盗罪における量刑
事後強盗罪として有罪となると、有期の懲役刑5年以上が科されます。罰金刑の設定もない上に、5年以上の懲役刑が決定刑となるため、情状酌量を得ない限り執行猶予もつきません。
たとえば、万引きをして店員に見つかり素直に警察のお世話になったなど、問われる罪が窃盗罪のみであった場合の決定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。それに比べて非常に重い処罰となるのです。
さらに、暴行をはたらいた相手を負傷させてしまい、強盗致死傷罪として有罪になれば、無期または6年以上の懲役に処されます。万が一、死亡させたときは死刑または無期懲役とさらに重い処罰が科されることになるでしょう。
ただし事後強盗罪などに該当するかどうかは、暴行や脅迫の程度に加えて窃盗事件との関連性が重要なポイントとなります。このあたりは実際の事件ごとに慎重に判断されるでしょう。
また、逃亡後でも自ら出頭し自首が成立すれば、減刑を求める上で少なからずプラスの要素となる可能性を高めることができます。
2、事後強盗罪で逮捕された後の流れ
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(1)逮捕後の面会が可能なのは弁護士のみ
事後強盗で逮捕されるケースは、現行犯逮捕と通常逮捕があります。犯行後日逮捕に至るケースでは、逮捕令状によって逮捕される場合と、自ら出頭するケースが考えられます。
警察に逮捕されると、取り調べを受け、48時間以内に検察に送致されるかどうかが判断されます。検察に送致された場合、そこから24時間以内に身柄を勾留すべきかどうかが検察官によって判断されます。ここまでの72時間、身柄を拘束された状態となり、自宅に帰れないのはもちろんのこと、家族との自由な接触なども許されません。
この期間に制限なく面会ができるのは弁護士のみです。弁護士に依頼すれば、慣れない取り調べにどのような対応をすべきか等のアドバイスを受けることができます。また警察や検察にはたらきかけたり、被害者との示談を依頼したりすることも可能です。
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(2)勾留は最大20日間におよぶ
身柄が勾留されるのは、さらなる事情聴取が必要な状況下で、証拠を隠すと疑われる場合、逃亡のおそれがあると判断された場合です。勾留が必要だと検察が判断すると、裁判所に対して勾留請求が行われ、裁判官によって勾留が決定されます。勾留期間は原則10日間ですが、さらなる勾留が必要であると判断されれば、最長で10日間の勾留延長が行われます。つまり勾留は最大20日間におよぶことになるのです。長期間の勾留は、学校や会社に逮捕の説明が必要になりますし、退学や退職といった事態になることも予想されます。逮捕の影響が大きなものになりかねません。
検察は、取り調べが終わり次第、逮捕から最長23日間のあいだに、起訴するか不起訴とするかの判断を行います。刑事事件の統計上、起訴されると有罪になる確率が99%以上とされています。有罪となると前科がついてしまいます。また、事後強盗罪であれば、法定刑が5年以上の懲役であるため、よほどの事情がない限り執行猶予つき判決が下る可能性は非常に低いと考えられます。それでも、今後の生活へおよぶ影響を最小限に抑えるためにも、まずは不起訴を目指すこととなるでしょう。
3、事後強盗罪は示談が難しい?
早期に身柄を釈放してもらうためには被害者との示談が必須です。なぜなら、被害者が存在する刑事事件においては、警察や検察などの捜査機関は被害者への賠償をしたかどうかと被害者個人の処罰感情を非常に重視するためです。
事後強盗罪は相手方が直接被害を受けていることから、示談が難しいという側面があります。そもそも、加害者本人や加害者の家族などが示談をしようとした結果、脅迫されたと受け取られてしまえば、より大きなトラブルになってしまう可能性もあるでしょう。また、示談に応じたくない、厳罰に処してほしいと望むことが少なくありません。
しかしながら、示談の重要性が変わることはありません。まずは、刑事事件に対応した経験が豊富な弁護士に示談を依頼することをおすすめします。第三者の立場である弁護士が相手であれば、示談に応じてくれるケースがあるためです。
ただし、たとえ示談が成立したとしても、犯行内容によっては検察が不起訴とせず刑事罰を与えるべきだと判断することもあります。それでも、被害者に心より謝罪し、示談を成立させるようはたらきかけることが大切です。真摯(しんし)な反省と賠償を行うことによって、情状酌量により執行猶予つき判決となる可能性が出てくるでしょう。
4、まとめ
万引きは、窃盗罪というれっきとした犯罪です。さらに、万引きをした際に、逮捕されたくない、罪がばれないようにという目的で、取り押さえようとした警備員を突き飛ばすなどの暴力行為をはたらいた場合は、事後強盗罪としてさらに刑罰が重くなります。
事後強盗罪に問われ、罪の重さから示談交渉もスムーズにいかないこともあるでしょう。お悩みの際には、まずはベリーベスト法律事務所・堺オフィスにご相談ください。状況に応じて最適なアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています