器物損壊で逮捕されるのはどのような場合? 逮捕後の早期解決方法まで徹底解説
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平成31年1月、掲示されていたポスターを400枚以上破ったとして、堺市在住の男性が器物損壊の疑いで逮捕される事件があったことが報道されています。たかがポスターを破ったくらいで、と感じるかもしれません。しかし、他人の物を傷つけたり汚したりした場合、刑法第261条の器物損壊等罪に問われ、逮捕される可能性があるのです。
なお、器物損壊等罪の対象となるのは物だけではありません。他人の家畜やペットを傷つけた場合も罪に問われる可能性があります。
この記事では、器物損壊等罪に該当するケースや刑罰、器物損壊によるトラブルを解決するためのポイントを堺オフィスの弁護士が解説します。
1、器物損壊等罪とは
器物損壊等罪は、物を壊した場合に問われる罪というイメージがあるかもしれません。
実は、物を壊すだけではなく、物を使えなくすること、動物を逃がすことなども該当するのです。どのようなケースが器物損壊等罪に問われる可能性があるのか、解説します。
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(1)器物損壊等罪の概要
器物損壊等罪は刑法第261条に定められている犯罪です。他人の物を故意に「損壊」もしくは「傷害」した場合、処罰を受けることが規定されています。
器物損壊等罪で起訴され、有罪となれば「3年以下の懲役」または「30万円以下の罰金」もしくは「科料(かりょう)」に処されます。科料とは、1000円以上1万円未満の金銭を強制徴収する刑罰です。 -
(2)器物の「損壊」にあたるケース
器物の「損壊」とは、形が壊れることだけを指すのではありません。壊すことだけでなく、物の持つ本来の効用を失わせることも「損壊」に含みます。
したがって、以下のようなケースも、器物損壊等罪に該当しえます。- 食品や食器に汚物をかける
- 壁や看板、電車を激しく汚損する
- 商品をぬらして商品価値を失わせる
なお、他人の物を勝手に持ち出した場合、「不法領得の意思」があれば窃盗罪として処罰されます。不法領得の意思とは、簡単にいえば「不法に入手した物を自分の物にし、物を自分で利用してやろう」という考えを指します。ですので、物を自分で利用しようとする意思がなく、単なる嫌がらせ目的で物を勝手に捨てたり処分したりしたのであれば、器物損壊等罪が成立します。なお、窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですので、器物損壊罪の法定刑よりはるかに重いです。窃盗罪と器物損壊罪では、客観的に行った行為面で似ているところがあり、どのようなつもりだったのか(故意)という内心面で罪名が区別されます。ですので、取り調べでは自身がどういうつもり(故意)であったのか、正確に説明する必要があります。
また、たとえ自分の所有物であったとしても、差し押さえを受けた物、物権を負担または賃貸していたものを損壊した場合は、やはり他人の権利を侵害しているので、同じく器物損壊等罪に問われます。 -
(3)器物の「傷害」にあたるケース
器物損壊罪は、「傷害」した場合も処罰の対象とする旨規定しています。ここで、「傷害」とは、他人の動物を傷つけることが対象とされます。
また他人の動物を傷つけるだけではなく、他人の動物を勝手に逃がすことも「物の持つ効用を失わせる」行為として器物損壊等罪で処罰されます。
なお、動物の傷害、虐待に関しては、「動物の愛護及び管理に関する法律(通称・動物愛護法)(昭和48年法律第105号)」違反で処罰される可能性もあります。具体的には、「愛護動物(牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひる、人が占有している動物で哺乳類、鳥類または爬虫類に属するもの)をみだりに殺しまたは傷つけた場合」、動物愛護法違反として罪に問われる可能性があるでしょう。
動物愛護法に違反し有罪となった場合は、「2年以下の懲役」または「200万円以下の罰金」が科されます。なお、両生類以下の脊椎動物や無脊椎動物の殺傷には、動物愛護法は適用されず、器物損壊等罪が適用されます。近年、動物愛護については意識が高まってきており、令和元年6月12日に改正動物愛護法が成立しました。同法では、刑罰が「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金とより重く規定されています。なお改正動物愛護法は、公布から3年以内に施行されることになります。 -
(4)損害賠償責任について
器物損壊等罪は刑法に定められた罪です。したがって、刑法上の責任能力が認められない14歳未満の少年や心神喪失の状態であった者の刑事責任を問うことはできず、また、ペットなど人間以外が他人の物を傷害した場合、原則として、刑法責任を問うことはできません。
ただし、民法第709条には「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という損害賠償責任が定められており、刑法上刑事責任を問うことはできなくても、民法上損害賠償責任を問うことはできます。
したがって、14歳未満の子どもを持つ親や自分が飼っているペットが他人の飼っているペットを傷害した場合、たとえ逮捕されなかったとしても、親権者である親やペットの飼い主は、管理監督責任を追及される余地があり、民事上の損害賠償義務を負うことになります。
賠償義務の内容としては、代替品を用意する、被害額相当の金銭を支払うなどの対応が求められることとなります。
2、器物損壊事件を早く解決するために
器物損壊事件は、日常生活で発生しうるものです。自分や家族が器物損壊に関わり、逮捕された場合はどのような対応を取るべきでしょうか。
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(1)示談交渉する
器物損壊事件を早く解決するためには、まず示談交渉ができないかを検討しましょう。
器物損壊等罪は親告罪です。被害者が捜査機関に対し、被害届を提出するなどして犯罪事実を告げ、犯人の処罰をのぞむ意思を伝える(「告訴」といいます)ことがなければ起訴されません。そのため、被害者が被害届を取り下げ、告訴しなければ、罪に問われることはありません。検察官は、被害者との示談交渉がどこまで進んでいるかを注視しており、示談が成立する見込みがあれば、起訴の判断を待つこともあります。
示談においては、謝罪することで被害者に許しを請い、賠償金を支払って被害回復に努める
ことが大事です。賠償金の相場は被害品の時価が一般的ですが、ケースバイケースですが被害がペットや思い入れがある物の場合、被害の実費以上の賠償金が必要になる場合もあるでしょう。
示談は被害者が告訴する前に締結することが最大のポイントです。交渉を迅速に行うには、これらの賠償金や慰謝料の相場に詳しく、示談交渉の経験豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(2)早期釈放を求める
犯行現場で現行犯逮捕された場合や、被害額が高額な場合、被害者の処罰感情が強い場合などは、告訴され器物損壊等罪による逮捕に至る可能性もあります。
逮捕後48時間以内は警察で取り調べを受け、その後検察に身柄送致された場合はさらに24時間以内で取り調べを受けます。検察から裁判所に「勾留(こうりゅう)請求」がなされ、それが認められた場合は、逮捕から最大23日間も身柄が拘束される可能性があります。
したがって、逮捕から勾留請求に至る前の、72時間以内に捜査機関に対し弁護活動を開始することが重要なポイントとなります。勾留が認められるのは、「逃亡や証拠隠滅のおそれ」がある場合に限られます。早期釈放を望むのであれば、勾留請求前に示談を成立させることが一番です。
しかし、逮捕された本人が示談交渉をすることは困難です。逮捕後された被疑者は、たとえ家族であっても原則として面会はできず、外部との交流が一切断たれます。
弁護士であれば、逮捕された被疑者と接見することが可能です。弁護士に依頼し、早期釈放の協力を求めることをおすすめします。 -
(3)不起訴を求める
逮捕後、検察官に送致する時点で身柄が釈放された場合、以後は「在宅事件扱い」として随時取り調べに応じることになります。ニュースなどで「書類送検」と報道される処遇です。逮捕から勾留に至った場合は勾留期間内に、在宅事件扱いとなった場合は捜査の進展に応じて、検察は事件を起訴するかどうかを決定します。
日本の刑事事件において、起訴された事件は99.9%以上が有罪となっています。つまり、有罪となり前科がつくことを避けるためには、不起訴処分を求めることが非常に重要となるということです。
器物損壊事件であれば、示談が成立していれば不起訴に至る可能性は相当高くなります。弁護士に依頼し、示談交渉を含め、不起訴獲得に向けて弁護活動を続けてもらうようにしましょう。
3、器物損壊等罪を否認する場合
まったく身に覚えがない器物損壊等罪に問われた場合は、無実を訴える必要があります。証拠や目撃者、証人は時間がたつほど見つけにくくなるものです。逮捕後は、すぐに弁護士を依頼し、自分に代わって無実を証明する証拠集めや逮捕するにあたらない主張をするなど迅速な弁護活動に取り掛かってもらうようにしましょう。
また、逮捕容疑を否認する場合、取り調べは厳しいものとなる可能性があります。取り調べの圧力に屈し、事実に反した供述をしてしまうと、その自白が裁判において決め手となってしまうケースもあります。自白した内容は後から覆すことは非常に困難となることを忘れてはなりません。
早く帰りたいなどの理由でその場をしのぐために出た言葉をきっかけに、将来に大きな影響を及ぼしてしまう可能性もあります。できる限り早期に弁護士と接見し、取り調べにどのように対応すべきか相談することをおすすめします。弁護士の存在は、厳しい取り調べに対抗する大きな精神的サポートとなるでしょう。また、裁判に至った場合も、引き続き弁護士による弁護を依頼することができます。
4、まとめ
軽い気持ちでやってしまったことでも、器物損壊等罪に問われる事態に陥る可能性があります。そもそも、人の物やペットなどを傷つけるような行為をしないことが一番ですが、万が一そのようなことになったしまったときは、これぐらいでと楽観視せず、まずは弁護士のサポートを受けることをおすすめします。警察の捜査が進まないうちに被害者と示談できれば、逮捕されたり起訴されたりする可能性は極めて低くなります。
さらに、身に覚えがないのに器物損壊等罪に問われたときは、なおのこと弁護士のサポートが必須となります。あなた自身や家族が容疑をかけられてお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスに相談してください。刑事事件の対応実績が豊富な弁護士が早期解決に向けて力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています