否認事件とは? 取り調べで否認したい場合の注意点

2022年10月27日
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否認事件とは? 取り調べで否認したい場合の注意点

令和2年、堺市内で女性が刺殺される事件が起きました。防犯カメラの映像から女性の息子の犯行である容疑が強まりましたが、息子は警察の取り調べに対して「刺したのは自分ではない、母が自分でやった」と容疑を否認したそうです。

この事例のように、捜査機関から向けられた容疑に対して否認することを「否認事件」と呼びます。

あらぬ疑いをかけられてしまった、あるいは「こちらにも言い分がある」といった状況では否認を貫く場面もあるでしょう。しかし、ドラマなどでは否認する容疑者に対して乱暴で威圧的な取り調べがおこなわれるシーンが描かれることも多いので、どんな状況になるのか、強い不安を感じる方も多いはずです。

本コラムでは「否認事件」に注目しながら、取り調べで否認するとどうなるのか、否認したいときの注意点などを解説します。

1、「否認事件」とは?

まずは「否認事件」とはどのような事件なのか、意味や種類、否認すると起きることなどを解説します。

  1. (1)容疑を否認するのが「否認事件」

    「否認事件」とは、犯罪の容疑をかけられた人が、自身に向けられた容疑を認めず否定している事件を指します。

    ドラマなどのフィクションでは、取り調べや裁判の場で「私は犯人じゃない!」「やっていない!」と必死で訴えかけるシーンがよく描かれますが、このようなケースはまさに否認事件の典型でしょう。

  2. (2)否認事件には「一部否認」と「全面否認」がある

    一言で「否認」といっても、どのような点を否認するのかは異なります。

    殺人事件を例に挙げてみましょう。

    容疑をかけられた人が「相手が死んでしまったのは私がナイフで刺したために間違いないが、殺すつもりはなかった」と主張しているケースでは、被害者を死亡させてしまったという結果は認めつつも「わざと殺したわけではない」という主張は譲っていません。

    すると、少なくとも傷害致死の結果は認めるが、故意ではないので殺人罪にはあたらないといったかたちで容疑の一部を否認していることになるでしょう。

    このようなケースは「一部否認」と呼ばれます。ほかにも、被害者が訴える負傷程度や被害金額に争いがある、グループによる一連の犯行のなかで関与していないものがあるといったケースも一部否認です。

    一方で、容疑をかけられた人が「事件当日はずっと自宅にいたので、私は犯人ではない」と主張するケースでは、容疑について一切認めず、全面的に否認するので「全面否認」と呼んで区別します。

  3. (3)取り調べで否認するとどうなるのか?

    わが国の刑事制度では、容疑をかけられている人自身が罪を認める「自白」に重きが置かれているという現状があります。

    日本国憲法第38条2項は、被告人にとって不利となる唯一の証拠が本人の自白のみであれば有罪とされず、刑罰も科せられないと明記していますが「自白は証拠の宝庫」などと考える捜査機関の間では、自白に勝る証拠は存在しないという考えがあるのは確かです。

    捜査機関は、取り調べの段階でなんとしてでも自白を得ようと躍起になっているので、否認すれば強圧的・脅迫的な扱いや誘導といった不当な行為を受けることになるでしょう。

    精神的なプレッシャーをかけられて捜査機関の描いたストーリーに沿った自白をしてしまう、誘導を受けて本来の主張とは異なった供述へとねじ曲げられてしまうといった危険との戦いを覚悟しなければなりません。

2、否認事件の取り調べにおける注意点

否認事件の取り調べは、すでに犯行を認めて自白している事件と比べると明らかに厳しいものになります。

ここで挙げる注意点を念頭に、取り調べに対応していきましょう。

  1. (1)虚偽の自白をしない

    どんなに強烈な取り調べを受けても、事実に反して虚偽の自白をしてはいけません

    毎日、取調官と一対一の狭い空間で何時間も取り調べを受けていると「早く解放されたい」「楽になりたい」という一心から、やってもいない罪を認めてしまうことがあります。
    自らが処罰されてしまうのだから、無実の罪を認めるなどあるはずもないと考えるかもしれませんが、事実、不当な取り調べによって虚偽の自白を強いられてしまった事例は過去にいくつも存在しているのです。

    令和元年7月には、窃盗容疑で逮捕された女子大学生が執拗(しつよう)に自白の強要を受けた事件がありました。取り調べでは一貫して容疑を否認していましたが、取調官は「二重人格なのか?」「就職にも影響する」などの罵倒・脅しがあったそうです。

    再捜査で別の容疑者が浮上、女子大学生の逮捕は誤認だったことが判明し、警察が謝罪する事態になりましたが、もし威圧的な取り調べに負けて虚偽の自白をしていれば無実の罪で処罰されていたでしょう。

  2. (2)取調官の誘導に乗せられない

    容疑を否認していても、取調官が被疑者の主張をありのまま供述調書に録取するわけではありません。

    供述調書は、被疑者が事件の内容や動機などを語って説明する体裁で作成されますが、発言を漏らさず記録するのではなく、取調官が供述をもとにまとめる一種の作文です。否認に徹する供述をしていても、巧みな誘導で犯罪の認識や故意を認めるような表現に言い換えられてしまうので、認めない部分ははっきり「違う」と断言しましょう。

    完成した供述調書は、取調官による読み聞かせがおこなわれたうえで、被疑者自身が手に取って閲覧し、内容に間違いがなければ署名と押印・指印することで公文書としての効力が生じます。

    署名したあとでは修正できないので、この段階で間違いや不適切・曖昧な表現を指摘し、修正を求めましょう

  3. (3)むやみな発言は避ける|黙秘権の行使

    日本国憲法第38条1項は、誰であっても自分にとって不利益となる供述を強要されない権利を認めています。

    これが「黙秘権」や「供述拒否権」と呼ばれる権利の根拠です。

    あらぬ疑いをかけられると、誰もが自らの容疑を晴らすために反論を尽くすでしょう。
    しかし、むやみに発言していると、取調官による誘導や供述の歪曲(わいきょく)によってまったく異なる内容の供述調書が作り上げられてしまう危険があります。

    否認事件では、供述の揚げ足を取られてしまわないために、黙秘権を行使し、あえて何も供述しないという策が最も有効です

3、自白が招くデメリット

取調官から強要されて、やってもいない罪について自白してしまうと、その後はどうなってしまうのでしょうか?

  1. (1)無実の罪で処罰される「冤罪」につながってしまう

    取り調べにおける自白が偏重されたままになり、罪を犯していないという消極的な証拠の評価がおろそかになると、刑事裁判で無実なのに有罪判決を受けて処罰されてしまう「冤罪(えんざい)」につながってしまいます。

    平成14年に発生した強姦容疑の「富山事件」や、平成15年に発生した公職選挙法違反容疑の「志布志事件」は、自白の強要が問題となった冤罪事件の代表例です。後の警察側による検証で、富山事件では「相当程度、捜査員から積極的に事実を確認するかたちでの取り調べをおこなった」と認められました。

    志布志事件では、連日・長時間にわたる取り調べや、一定の姿勢を強いる、「何度でも逮捕できる」「認めないと地獄に行くぞ」「家族も取り調べるぞ」などの脅迫が明らかになり、追及的で強圧的な取り調べが存在していたそうです。

    これらの事件は氷山の一角であり、冤罪であると認められないまま無実の罪で処罰されてしまった事件は相当数にのぼるといわれています。

  2. (2)裁判での巻き返しは難しい

    取調官は捜査機関が立てた筋読みどおりに取り調べを進めてきます。いくら容疑を否認しても、信用してもらえる可能性は低いのが現実です。

    すると、取りあえず捜査段階では虚偽の自白をして罪を認めたものと装って、刑事裁判の場では改めて容疑を否認すればよいと考える人がいるかもしれません。裁判官なら「自分は犯人ではない」と信じてくれる、そう期待するのも仕方がないでしょう。

    しかし、捜査段階での自白を刑事裁判の段階で覆しても、信用してもらえると考えるのは間違いです。捜査段階と公判段階で供述が異なると、そもそも供述自体に信用性がなくなってしまいます。

    他の証拠から「罪を犯した」と認定されれば有罪判決を受けてしまうので、捜査段階から否認を貫くことが大切です

4、あらぬ容疑をかけられてしまったら弁護士に相談を

無実なのにあらぬ疑いをかけられてしまったら、ただちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。

  1. (1)警察・検察官による捜査段階における弁護士のサポート

    冤罪の温床となるのは捜査段階における自白の強要です。警察・検察官による捜査を受けている段階から弁護士に相談すれば、不当な取り調べへの対抗や黙秘権の行使など、否認を貫くためのサポートを得られます。

    警察に逮捕され、検察官によって勾留されると、国が費用を負担する「被疑者国選弁護人制度」の利用が可能です。

    ただし、国選弁護人制度によって選任された弁護士が刑事事件の実績をもっているとは限りません。とくに否認事件への対応は容疑を認めている単純な事件とは異なるので、弁護士の経験値が問われます。

    否認事件のサポートは、刑事事件・否認事件の解決実績が豊富な私選弁護人に依頼することをおすすめします

  2. (2)刑事裁判における弁護士のサポート

    刑事裁判における弁護士は、検察官が示した証拠への反証を示し、被告人にとって有利となる証拠を裁判官に示す大切な役割を担います。

    捜査段階で強要を受けて自白してしまったケースでは、不当な取り調べが存在していたこと、自白調書の内容に誤りがあること、被告人は無罪であることを積極的に証明していかなくてはなりません。やはり経験豊富な弁護人のサポートは欠かせないので、私選弁護人を選任して弁護活動を依頼しましょう。

5、まとめ

あらぬ疑いをかけられて捜査の対象となった場合は、当然、容疑を否認することになるはずです。

無実なのだから「やっていない」「犯人ではない」という主張が認められるべきなのに、実際の取り調べでは捜査機関が組み立てたストーリーに沿った展開を強いられてしまいます。
自白の強要など不当な取り調べに個人で対抗するのは困難です。

警察・検察官が自分の供述を信じてくれなくても裁判官なら信じてくれるなどと期待してはいけません。ただちに弁護士に相談して、サポートを求めましょう

否認事件の対応はベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士にお任せください。刑事事件・否認事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、最良の結果を目指して全力でサポートします。

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