キセル乗車は犯罪! 無賃乗車や不正乗車が発覚したとき問われうる罪

2023年10月31日
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キセル乗車は犯罪! 無賃乗車や不正乗車が発覚したとき問われうる罪

令和5年9月、大阪府警が電車で不正乗車を繰り返した疑いがある女性を逮捕したという報道がありました。複数枚の切符や定期券などを利用して不正に乗車賃を安くして乗車する行為は、キセル乗車と呼ばれることがあります。

キセル乗車は、単なるルール違反・マナー違反にはとどまりません。法律に照らすと明らかな犯罪行為となり、検挙されれば刑罰を科せられるうえに、発覚すれば多額の請求を受けることになります。本コラムでは、キセル乗車をはじめとした無賃乗車・不正乗車の行為が発覚したときどのような罪に問われるのかについて、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。

1、不正乗車にあたる行為

まずは鉄道の不正乗車にあたる行為について解説します。自分自身では「不正ではない」と思っていても、正しくない方法で利用していることもあるので、改めて確認しておくとよいでしょう

  1. (1)2枚の切符・定期券を悪用する“キセル乗車”

    2枚の切符や定期券を利用して不正に運賃を安くする行為を、通称、キセル乗車といいます。乗車時と降車時のためだけにお金を払い中間地点のお金を払わないという手口が、両端だけ金属がついていて途中は空洞となっているタバコ道具のキセルに似ていることから「キセル乗車」と通称されるようになったようです。

    たとえば、出発地をA駅、目的地をE駅とします。A駅を出発した電車は、B駅・C駅・D駅を経由してE駅にたどりつきます。

    キセル乗車では、まずA駅からの最低運賃となる切符や定期券を購入します。A駅の入場券や、A~B区間の定期券が考えられるでしょう。さらに、E駅の入場券やD~E区間の定期券といった、E駅で降車するための最低運賃となる切符・定期券も用意します。

    これらを使って、A駅では最初に用意した入場券やA~B区間の定期券を示して改札を通り抜けて電車に乗り、E駅ではもう1枚の入場券・定期券を示して改札を通過します。すると、B~D区間は運賃を支払わずに利用したことになります。

    これが、キセル乗車と呼ばれる行為の仕組みです。出発地では入場券を購入して最低運賃で改札を通り抜け、目的地ではほかの乗客に紛れて改札を受けずに場外へと出る行為も、やはりキセル乗車にあたります。なお、降車時のみならず入場時もほかの乗客に紛れて改札を受けていなければ無賃乗車となります。

  2. (2)定期券の記載を守らない利用も不正乗車にあたる

    定期券には乗車駅と降車駅が記載されており、その区間に限って自由に往復・乗降車が可能ですが、定期券に記載されている内容を守らない場合は不正乗車となります。

    ● 指定された区間外の乗車
    たとえば、特急や快速を使って先の駅まで乗車して、各停電車で折り返すといった方法は、定期券で指定された区間外も乗車していることになるので不正乗車とみなされます。これは、定期券に限らず切符でも同じく不正乗車となります。

    ● 経由地を守らない乗車
    定期券には“経由”の記載があります。A駅からE駅までの区間を利用するにあたって、C駅で乗り換えてほかのルートでもE駅に到着できるとしても、経由地を守らない場合は不正乗車です。

    同じように、東京都内のJR山手線や大阪市内のJR大阪環状線でも、経由地を守らないと不正乗車になるため、逆まわり・大回りと呼ばれる方法や環状路線を何周もするような行為は不正乗車となります。

  3. (3)他人名義の定期券の使用も不正乗車になる

    定期券には購入者の氏名が記載されます。定期券の使用は名義人のみに認められるので、たとえ相手の了承を得ていたとしても、他人名義の定期券を使った利用は不正乗車にあたります。
    鉄道会社によっては氏名だけでなく年齢も記載されることがあるほか、割引を受けた場合はその旨が表示されているため、係員に看破されてしまうケースもめずらしくありません。

2、不正乗車で成立する犯罪

鉄道の不正乗車で成立する可能性がある犯罪は、次の4つが考えられます。

  • 鉄道営業法違反
  • 電子計算機使用詐欺罪
  • 軽犯罪法違反
  • 建造物侵入罪


それぞれの要件を確認していきましょう。

  1. (1)鉄道営業法違反

    不正乗車を罰する法律としてまず成立するのが、鉄道営業法の違反です。

    「鉄道係員の許諾を受けず、有効な乗車券なしで乗車した場合」は鉄道営業法第29条の違反となりますキセル乗車だけでなく、実際に乗車した区間をごまかして改札を通過した場合も、鉄道営業法違反の成立は免れません

    鉄道営業法第29条の違反には、条文のうえでは「50円以下の罰金または科料」が科せられると明示されています。なお、罰金・科料の額が少額なのは、鉄道営業法が明治33年に制定された古い法律だからです。

    現在は罰金等臨時特措法第2条の規定によって「2万円以下の罰金または科料」と読み替えるため、違反すれば「1万円以上2万円以下の罰金」か「1万円未満の科料」が科せられます。

  2. (2)電子計算機使用詐欺罪

    電子計算機使用詐欺罪とは、刑法第246条の2に規定されている犯罪です。人の事務処理に使用する電子計算機に、虚偽の情報や不正な指令を与えて不実の電磁的記録を作り、または虚偽の電磁的記録を用いて、財産上不法の利益を得た場合に成立します。

    たとえば、駅の自動改札機を利用して不正に降車した場合は、“虚偽の情報”によって不正に運賃支払いを免れたことになるため、電子計算機使用詐欺罪となります。
    また、駅の係員がいる有人改札の場合でも、実際の乗車区間をごまかして改札を通り抜ける行為は、刑法第246条の詐欺罪が成立する可能性があります

    電子計算機使用詐欺罪・詐欺罪の刑罰は、ともに10年以下の懲役です。罰金が規定されていないという点に注目すれば、有罪判決を受けると確実に懲役が科せられる重罪だといえます。

  3. (3)軽犯罪法違反

    軽犯罪法とは、軽微な秩序違反行為を取り締まるために存在する法律です。

    同法第1条に全33の行為が掲げられており、第32号に「入ることを禁じた場所または他人の田畑に正当な理由がなくて入った者」を罰する旨が規定されています。
    出発駅の入場券や定期券をもっていても、最初から不正利用を計画していたケースや、運賃に見合わない駅構内に入場したことなどによる不正乗車によって免れた運賃の金額に関係なく処罰されます

    軽犯罪法違反の罰則は「拘留または科料」です。拘留とは30日未満の刑事施設への収容、科料とは1万円未満の金銭徴収をさします。

  4. (4)建造物侵入罪

    軽犯罪法違反と同じく、不法な目的をもった入場が“侵入”とみなされると、刑法第130条の建造物侵入罪が成立します。建造物侵入罪と軽犯罪法第1条32号の違反とを区別するには“建造物への侵入”があったのかに注目することになります。

    単に駅舎の建物内に入ったというだけでは軽犯罪法違反しか成立しないとしても、有効な切符・定期券を示さないと入場できないように柵や壁などで区別されている改札内に不法な目的をもって立ち入れば侵入とみなされるおそれが高いでしょう。

    建造物侵入罪の罰則は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」で、鉄道営業法・軽犯罪法の違反よりも重い刑罰が規定されています。

3、不正乗車で逮捕されるケース・されないケース

不正乗車が発覚しても、必ず逮捕されるというわけではありません。また、その場で逮捕されることがあれば、後日になって逮捕されるケースや、逮捕されないケースもあります。

不正乗車で逮捕されるケース・逮捕されないケースをそれぞれ確認しましょう。

  1. (1)現行犯で逮捕されるケース

    不正に気がついた駅係員によってその場で身柄を確保された場合は、駅係員による「私人の現行犯逮捕」となります。現行犯逮捕は現に犯行を目撃した人や被害者であれば犯人を取り違える可能性が低いため、警察などの捜査機関だけでなく、一般人でも逮捕状なしに逮捕が可能です。

    また、駅係員などの通報によって警察官が駆けつけた場合でも、駅事務室などに留め置かれていて犯行場所から離れていない、発覚から通報・警察官の到着までの時間が接着しているというケースでは、駆けつけた警察官に現行犯逮捕されることもあります。

    なお、私人による現行犯逮捕を受けた場合、捕まった被疑者の身柄は警察官に引き継がれます。

  2. (2)後日に通常逮捕されるケース

    鉄道会社がICカードの利用履歴や防犯カメラ画像などを調べて不正利用に気がついたといったケースでは、犯行の後日でも通常逮捕を受ける可能性があります。

    被害に気がついた鉄道会社が警察に被害届・告訴状を提出し、警察による捜査で犯行が明らかになれば裁判官が発付した逮捕状に基づいて逮捕されます。

    もしも、悪質な不正乗車を行ってしまい、後日、警察官から問い合わせがあったときは、なるべく早期に弁護士へ相談しましょう

  3. (3)在宅事件として任意捜査を受けるケース

    不正利用が発覚したからといって、必ず逮捕されるわけではありません。逃亡・証拠隠滅のおそれがない場合は逮捕の要件を欠くため、身柄を拘束されないまま取り調べなどの捜査を受けることになります。

    警察庁が公開している令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に検察庁で処理されたすべての刑事事件のうち、刑法犯では34.1%、鉄道営業法などを含めた特別法犯では32.2%の人が、逮捕によって身柄を拘束されています。

    言い換えれば、おおよそ6~7割の人が、刑事事件を起こしても身柄を拘束されないまま、在宅の状態で捜査を受けて検察庁に送致されたことになるわけです。

    このデータに照らせば、その場から逃げようとする気配を見せたり、切符や定期券を隠そうとしたりといった行為をしなければ、逮捕される確率は決して高くないといえるでしょう。

  4. (4)鉄道会社との間で解決するケース

    鉄道営業法第18条・鉄道運輸規定第19条には、不正乗車に対する割増運賃の上限が規定されています。

    割増運賃の上限は“2倍以内”なので、鉄道会社は不正乗車をはたらいた人に対して、正規の運賃の3倍まで請求可能です。不正乗車が発覚した場合は、これらの規定に従って正規運賃の3倍にあたる金額を請求し、支払いを得られたら和解するといった方法で解決を図る鉄道会社も少なくありません。

    ただし、長期間にわたって不正乗車を繰り返した場合は直ちに支払うのが困難なほどの高額請求になってしまうケースがあるほか、悪質な不正乗車に対しては和解に応じてくれないこともあります。難しい交渉になる場合は、個人で対応するのではなく弁護士のサポートを求めたほうが賢明でしょう。

4、不正乗車が問題になったら弁護士に相談を

不正乗車が発覚してしまい、逮捕や刑罰に不安を感じているなら、直ちに弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。

  1. (1)鉄道会社との示談交渉を進められる

    弁護士に依頼すれば、あなたの代理人として鉄道会社との和解に向けた示談交渉を進めることが可能です。

    不正乗車で問われる罪として代表的な鉄道営業法違反は、検察官が起訴する際に被害者の告訴を要する“親告罪”に規定されています。つまり、被害者となる鉄道会社が告訴をとりやめる、またはすでに受理された告訴を取り下げれば、刑事事件として責任を追及される事態は回避できます。

    電子計算機使用詐欺罪・軽犯罪法違反・建造物侵入罪はいずれも親告罪にあたらない“非親告罪”ですが、やはり鉄道会社との示談が成立すれば刑事責任を追及される可能性は低くなるでしょう。

  2. (2)逮捕・勾留の回避が期待できる

    鉄道会社が被害届・告訴状を提出する姿勢をくずさない場合でも、弁護士が適切にサポートすれば逮捕・勾留を受ける事態を回避できる可能性があります。

    捜査機関からの呼び出しには素直に応じて出頭する、証拠となる物はすべて提出するといった協力的な姿勢を見せれば、逮捕・勾留の要件となる、逃亡または証拠隠滅のおそれを否定できます。

    さらに、定まった住居があり家族とともに生活している、定職に就いており真面目に勤務しているなどの状況があれば、逮捕・勾留を避けられる可能性は大いに高まるはずです。

    とはいえ、容疑をかけられた本人が「逃げない」「これが証拠品のすべてだ」と説明しても、捜査機関が納得しないケースもあります。弁護士に依頼することで、有利な事情を証明する証拠収集などのサポートを受け、捜査機関にはたらきかけてもらうのが最善策でしょう。

    また、すでに逮捕されている状況でも、これらの主張が認められれば釈放されて在宅事件としての処理に切り替えられる可能性もあります鉄道会社との示談が成立すれば検察官が不起訴処分を下す可能性は高まり、素早い社会復帰もかなうでしょう

5、まとめ

鉄道の不正乗車は、ルール違反やマナー違反の類いではなく、鉄道営業法違反や電子計算機使用詐欺罪などにあたる犯罪行為です。逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば逮捕されてしまうだけでなく、厳しい刑罰も規定されています。

不正乗車が発覚してしまったら、直ちに鉄道会社との和解に向けた示談交渉を進めるのが得策です。鉄道会社との示談交渉は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 堺オフィスにお任せください。すでに逮捕されてしまっている場合でも、早期釈放や不起訴処分の獲得を目指して全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています