みなし相続財産ってなに? 概要や非課税枠を堺オフィスの弁護士が解説
- 相続税対策
- みなし相続財産
国税庁が発表している「平成28年分の相続税の申告実績」の資料によると、大阪府で発生した相続のうち相続税が課税されたのは8.3%だったことが報告されています。誰しも死亡した際はプラスかマイナスかを問わず財産を残しているケースが多いものです。しかし、実際に相続税が課税されるケースはごく一部となることが、申告実績からうかがえます。なぜならば、相続税にはみなし相続財産の非課税枠や基礎控除があり、一定金額までは課税されないためです。
本コラムでは、相続財産における、みなし財産の概要や非課税枠についてベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。本コラムで挙げた例はあくまで一般論となります。不明な点は自己完結せず、弁護士や税理士に相談することを強くおすすめします。
1、みなし相続財産の基礎知識
まずはみなし相続財産の概要を確認しておきましょう。
-
(1)相続財産とは?
みなし相続財産を説明する前に、相続財産について知っておく必要があるでしょう。
そもそも相続財産とは、民法上、被相続人(死亡した方)が死亡した時点で所有している財産のことです。被相続人名義の現金や預貯金、不動産、有価証券、ゴルフの会員権、宝飾品や借金などが代表的な相続財産です。
相続財産は、「相続人」が遺産分割協議を行って全員の合意のもと分割しなければなりません。遺言書が作成されていれば、それに従って分割します。話し合いで合意できなければ、調停や訴訟等で決着をつけます。相続した財産には、相続税が課税されますので、申告の必要が出てきます。 -
(2)みなし相続財産とは
みなし相続財産とは、民法上の相続財産には該当しないものの、税法上は相続財産とみなされて課税される財産を言います。
みなし相続財産の存在を知らずに、民法上の現金や預貯金、不動産等のみを申告すると、後日申告漏れを指摘されてしまうことがあります。その場合、多額の税金の支払いを求められることになりかねません。不要な出費を避けるためにも、みなし相続財産はしっかり把握しておきましょう。
2、みなし相続財産の特徴と一覧
次にみなし相続財産の特徴を解説します。具体的なみなし相続財産も一覧化してありますので、該当するものがないかしっかり確認しておきましょう。
-
(1)みなし相続財産の特徴
みなし相続財産は、前述のとおり、民法上は相続財産とはみなされないものの税法上は相続財産とみなされ課税されるものです。
簡単にいえば、亡くなった方が死亡した際には所持していないものの、亡くなったことで相続人が得ることになった財産を指します。民法上では、死亡した際に所有していたものが相続財産なので、遺産分割協議の対象となるのは死亡時に故人が所有していた財産だけです。したがって、いわゆるみなし財産については相続人同士で話し合って分割する必要はありません。 -
(2)みなし相続財産一覧
具体的なみなし相続財産の一例について解説します。
●生命保険金・損害保険金
生命保険金や損害保険金は、保険会社との契約で保険金受取人に支払うものです。したがって、相続財産とはみなされず遺産分割協議の対象外になります。しかし、被相続人の死亡をきっかけに受け取ったお金であることは間違いないため、相続税の課税対象になるのです。
ただし、みなし相続財産に該当するのは、「被相続人が保険料を支払っていた生命保険で、受取人が被相続人以外に指定されているもの」に限ります。死亡した本人が受取人になっている場合、受取人が指定されていない場合は、みなし相続財産ではなく相続財産になります。
なお、みなし相続財産となる生命保険金には、非課税枠が設定されていますので、受け取ったら必ず相続税が発生する訳ではありません。
●死亡退職金
死亡退職金は、死亡時に被相続人が所有しているものではないため、相続財産ではありません。しかし、死亡したことで受け取ったお金なので、相続税が課税されることになります。こちらも生命保険と同様に一定額までは非課税となります。
●死亡前3年以内に贈与された財産
死亡する前の3年以内に贈与された財産は、すでに贈与済みであることから相続財産にはなりません。しかし、節税対策の贈与を防ぐために、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。
●忌慰金
忌慰金は、原則として非課税ですが、一定以上の金銭等の受け渡しがあると、みなし相続財産とみなされ、課税対象となります。いくらからみなし相続財産になるかは明確に規定されているわけではありませんが、年収の半額以上の受け渡しがあると、みなし相続財産になってしまう可能性があります。
3、知らなきゃ損、みなし相続財産の非課税限度枠
前述のとおり、みなし相続財産は、相続税の課税対象となります。しかし、生命保険金や死亡退職金については非課税枠が存在します。
本項では、みなし相続財産の非課税枠とともに、相続財産の基礎控除についても解説します。相続人の範囲や分割内容でトラブルになりそうなときは弁護士へ、税金の計算が複雑になりそうなときは、税理士に相談したほうがよいでしょう。ベリーベスト法律事務所には、他士業も在籍しているため、ワンストップで対応可能です。
-
(1)みなし相続財産の非課税限度額
みなし相続財産には、非課税枠が存在します。具体的には、「500万円×法定相続人の数」が非課税になります。たとえば、法定相続人が5人いた場合は2500万円が非課税です。つまり保険金や退職金が2500万円以下であれば、それらについては相続税を支払う必要はないということです。
そもそも「法定相続人」とは、民法で規定された相続人です。夫が亡くなり妻と子ども3人が残された場合は、法定相続人は4人となります。妻や夫などの「法律上の配偶者」は、常に法定相続人です。子どもがいる場合は子どもたちも法定相続人に加えられます。子どもがいない場合は、被相続人の親、兄弟なども法定相続人になります。
法定相続人の優先順位は民法によって以下のとおり定められています。
●必ず相続人:夫や妻など法律上の配偶者
夫や妻は、他の相続人の有無にかかわらず必ず相続人となります。
●第1順位:子どももしくは代襲相続人
子どもがいる場合は子ども、子どもが死亡して孫が存在する場合は孫が第一順位になります。
●第2順位:両親などの直系尊属
子どもや孫がいない場合は、両親やその両親(祖父母)が相続人になります。
●第3順位:兄弟姉妹
子どもも、孫も親も祖父母も死亡している場合は、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟が死亡している場合はその子どもたちです。
みなし相続財産の非課税枠を計算するためには、正確な法定相続人の人数を把握しておかなければならないので、これを機会に確認しておきましょう。 -
(2)知っておきたい相続税の基礎控除
みなし相続財産には、非課税枠が存在しますが、相続財産にも「基礎控除」があります。つまりどちらの財産も、相続したからといってすべての金額に課税されるわけではありません。いずれも税金が軽減される仕組みが用意されているのです。
相続税の基礎控除額は、相続や遺贈の発生日によって異なります。
●被相続人が亡くなった日が平成26年12月31日以前
5000万円+(1000万円×法定相続人の数)
●被相続人が亡くなった日が平成27年1月1日以降
3000万円+(600万円×法定相続人の数)
基礎控除は相続財産のうち課税対象額から差し引かれたうえで、相続税が決定することになります。
4、相続放棄できないの? みなし相続財産の注意点
みなし相続財産は、民法上の相続財産には該当しません。つまり、みなし相続財産をすでに受け取っていたとしても相続放棄は可能です。また、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を計算する「法定相続人」の人数には、相続放棄をしてもカウントされますので、他の相続人に迷惑をかけることはありません。
ただし、相続放棄したうえでみなし相続財産を受け取っていると、生命保険金や死亡退職金の非課税枠は適用されません。それでも相続税の基礎控除は適用できるため、死亡保険金が基礎控除の範囲内であれば、相続税は非課税となります。
なお、生命保険金の受取人が死亡した被相続人本人に指定されている場合などは、みなし相続財産ではなく、相続財産となります。まずは保険金の受取人などを確認の上、受け取るようにしましょう。受取人を指定していなかった生命保険金を受け取ってしまった場合、相続の「単純承認」といって相続を認めたことになるため、相続放棄が不可能になります。
5、まとめ
生命保険金や死亡退職金などは「みなし相続財産」と呼ばれていて、税法上においては相続財産とみなされるため、相続税が課税されてしまいます。しかし、民法上は相続財産ではないことから、遺産分割協議を行う必要はなく、指定された受取人が全額受け取り可能です。
ただし、生命保険金などは、契約者と受取人両方が被相続人だった場合は相続財産となってしまいます。受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる可能性があるでしょう。相続放棄を検討している場合は、死亡後3か月以内に手続きを行わなければならないので、時間的なゆとりがありません。
また、みなし相続財産があることで、残された家族の遺産分割協議がスムーズに進まない可能性があるかもしれません。みなし相続財産がある場合や、相続人が多いとき、トラブルになりそうなときは、あらかじめ弁護士に相談して、アドバイスを受けながら進めたほうが良いでしょう。まずはベリーベスト法律事務所 堺オフィスでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています