入学を辞退すれば入学金は返してもらえる? 返還請求の条件や方法を弁護士が解説
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大阪府は東京都に次いで大学の数が多い都市です。令和2年度の学校基本調査によると、国公立・私立をあわせて55校の大学が存在しています。特に差がつくのは私立大学の数で、調査時点で51校でした。
私立大学の数が多いと、滑り止めとしての受験も増えるため、合格しても実際に入学しない受験生が必然と多くなるでしょう。
では、入学手続きのなかで入学金や授業料を支払ったのちに第一志望の大学に合格した場合、第二志望以下の大学に支払った入学金や授業料の返金は可能なのでしょうか。大学に支払った入学金・授業料などの返金について、堺オフィスの弁護士が解説します。
1、支払い済みの入学金や授業料は返還請求できる?
第二志望以下の大学に合格したうえで、さらに第一志望の大学を目指す場合、第二志望以下の大学に対して入学金や授業料を支払うことになるでしょう。めでたく第一志望の大学に入学すればそれが最良の結果ではありますが、その場合「第二志望以下の大学に支払ったお金はどうなるのか?」という問題が残ります。
入学手続きのためには、おおむね20~30万円の入学金や1年分の授業料が必要になり、平均的に100万円前後の出費となるため、返金可能であればぜひとも返金してもらいたいところでしょう。
大学への支払い済みの入学金や授業料について返還を求めることは可能なのでしょうか。
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(1)大学への入学は「契約」になる
大学への入学は、法律上「契約」のひとつだと考えられます。大学は学生に対して講義や実習を通じた教育活動を提供する義務を負い、学生は大学に対して対価を支払う義務を負う契約です。そして、契約の成立は、入学金などの支払いを含んだ手続きがすべて完了した時点となります。
多くの大学では、入学金の支払期限を早い段階に設定しながらも、1年間分の授業料や施設の利用料などの支払期限についてはある程度の余裕を設けています。
したがって、入学金などの支払いを含んだ手続きがすべて完了した時点で契約が成立するため、たとえば「入学金は支払ったが授業料は期限いっぱいまで支払いを見送る」といったケースでは、契約が完成していません。この段階では「入学資格の予約」が成立していると考えるべきでしょう。 -
(2)消費者契約法の対象となる
大学入学にかかるお金の支払いを含めた手続きが契約であるという点に注目することで、ある法律の適用による保護が可能になります。それが「消費者契約法」です。
平成13年に施行された消費者契約法は、悪質な訪問セールスなどによる消費者被害を保護するために設けられた法律ですが、大学入学に関する契約もこの法律の保護を受けます。 -
(3)大学側が不返還特約を設けている場合
各大学においては、「入学金・授業料などは事情を問わず一切返還しない」という条項を設けているところが少なくないでしょう。これを法律用語では「不返還特約」といいます。
そして、不返還特約が設けられているうえで内容を理解・納得して交わされた契約は適法に認められると考えられてきました。
ところが、平成13年に消費者契約法が施行されたことで、大学に支払ったお金についても実際に入学しなければ、一部は「不返還特約が認められない」と判断されるようになったのです。ただし、不返還特約が認められないと判断されるのは授業料や施設の利用料、実習や実験のための費用などに限られると考えるべきでしょう。
これは、契約は成立しながらもいまだ提供されていないものであるためで、たとえ入学後であっても未提供の段階であれば返還の義務があると考えられます。
なお、支払い済みの入学金は「入学資格の予約」という地位を確保するためのお金だとみなされるため、入学を辞退しても返還されないものだと心得ておく必要があります。
もし、入学金が他の私立大学と比較しても高額であるなどの事情があれば、入学金の返還請求も認められる可能性もあるので、不当に高額だと感じた場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。
2、大学、専門学校、短大で違いはあるのか?
大学入学を辞退した場合、返還請求によって授業料などの返金が可能になります。では、大学ではなく専門学校や短期大学の場合はどうなるのでしょうか。
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(1)返金の扱いに違いはない
大学・専門学校・短期大学は、いずれも学校教育法において定められた教育機関です。専門学校は法令による「専修学校」に位置づけられ、短期大学は「大学の一類型」とされています。
したがって、入学を辞退した場合の返金の扱いについて、大学・専門学校・短期大学によって区別されることはありません。 -
(2)推薦入試で合格している場合は要注意
大学・専門学校・短期大学の区別を問わず、いずれの教育機関でも、入学を辞退すればたとえ不返還特約が設けられていても一部の返還請求が認められます。
ただし、不返還特約が無効とされるのは、学校側に一方的な損害が生じない場合に限られています。
たとえば、3月末日までに辞退すれば新たに補欠合格者の繰り上げによって定員の確保ができるため学校に損害は生じません。ところが、4月1日または入学式の日をもって入学とみなす場合、補欠合格者の繰り上げによる定員確保は困難となり学校側に損害が生じるため、返還は認められません。
また、推薦入試や人物評価に重点をおくAO入試によって合格した場合、基本的に学校側は合格者の入学辞退を予定していないため、返還は認められにくいと考えるべきでしょう。
3、学納金の返還を請求する手続きの流れ
前もって支払った授業料などの学納金について返還を求める場合、どのような手続きをとることになるのでしょうか。
もっとも容易なのは、あらかじめ大学側が返金の制度を設けているケースです。
たとえば、ほかの大学・専門学校・短期大学との併願で3月末日までに別の進路が決定した合格者を対象に「入学金返金システム」や「返金受付フォーム」を導入している例もあります。
ガイドにしたがって期日内に辞退の手続きをするだけで返金が受けられますが、ここまで親切なシステムを設けている大学はあまり多くはないでしょう。
合格して入学金・授業料などを支払ったあとで入学を辞退し、支払い分の返還を請求する場合、まずは大学側に内容証明郵便を送付するのがベストです。
電話連絡でもこちらの意向を伝えることは可能ですが、返還請求においては「いつ辞退の意思を伝えたのか」が重要になります。内容証明郵便を送付することで、入学辞退の意思を示し、大学側がそれを知った日が明確になるでしょう。
入学辞退の意思を伝えたら、具体的に返還に向けた交渉をおこないます。大学側からの回答は文書をもっておこなわれることが多く、一方的な決定事項として納得のできない結果を押しつけられるケースも少なくありません。
60万円以下の返金請求であれば、簡易裁判所における少額訴訟が利用できます。原則1回のみの審理で判決が言い渡されるため、スムーズな解決が期待できるでしょう。また、大学側と話し合う余地がある場合は民事調停を、大学側が返還を拒否して強硬姿勢をとっている場合は民事訴訟に頼ることになります。
4、返還請求は弁護士への依頼がおすすめ
大学の入学辞退にかかる学納金の返還請求は、弁護士への依頼をおすすめします。
弁護士に相談すれば、入学金・授業料などを含めた学納金について返還請求が認められるのかを総合的に判断できます。一般的に入学金の返還請求は困難ですが、場合によっては返還請求が認められる可能性もあるでしょう。
また、大学側が返還請求に応じてくれない場合は、弁護士が代理人として交渉することでスムーズな返還が期待できます。
大学側が強硬姿勢をとって返還請求に応じてくれなければ、裁判所の手続きによって解決を望むことになりますが、弁護士に依頼すれば訴訟手続きや裁判所への出廷といた手間も省けます。
返還される金額が増えれば、第一志望の大学入学にかかる資金の負担も大幅に軽減できるでしょう。
5、まとめ
わが子の進学は、本人の希望を第一にサポートしていきたいと考えるのが当然です。しかし、安全な進学のためには第二志望以下での滑り止め対策も必須で、入学金などの支払い後に辞退するケースも少なくありません。
入学金・授業料など、入学前に支払ったお金は、名目や辞退のタイミングに応じて返金請求が可能です。学納金の支払い後に入学を辞退する場合は、返還請求によって費用負担の軽減を目指しましょう。
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