特別養子縁組制度が改正! 利用しやすくなった点を弁護士が解説

2020年09月07日
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特別養子縁組制度が改正! 利用しやすくなった点を弁護士が解説

平成30年度の司法統計によれば、堺市を管轄する大阪地方裁判所における特別養子縁組の成立およびその離縁に関する処分の新受件数は46件でした。

養子縁組は法律によって血縁がなくても親子関係を生じさせる制度です。特別養子縁組はそのひとつであり、令和2年4月に改正され、養子縁組を希望する養親候補者にとってより利用しやすい制度になりました。

そこで今回は、改正された新しい特別養子縁組制度について、改正のポイントを中心に弁護士が解説します。

1、特別養子縁組制度とは

特別養子縁組について、養子縁組制度の概要とともに解説していきます。

  1. (1)特別養子縁組とは

    特別養子縁組は養子縁組の制度の一種で、民法に規定されています。養子縁組は血縁上の親子関係がなくとも法的な手続きによって、法律上の親子関係を生じさせる制度であり、特別養子縁組も同様です。

    特別養子縁組の大きな特徴は、養子縁組が成立すると実親との親子関係が消滅することです。

    具体的には、特別養子縁組が成立すると、養子と実親との間の相互扶助義務と法定相続権は消滅します。たとえば、実親が亡くなって相続が発生しても、特別養子縁組をした養子には実親の相続権は認められません。

    このように、特別養子縁組は養子となる子どもに大きな影響があることから、成立させるためには家庭裁判所の審判が必要です。事件の分類は、家庭裁判所が取り扱う審判事件になります。

    その他、特別養子縁組には以下のような特徴があります。

    • 養子の年齢に制限がある
    • 戸籍には長男(長女)などと記載される
    • 縁組後の離縁は原則として認められない
      など
  2. (2)普通養子縁組とは

    普通養子縁組も法律上の親子関係を生じさせる制度で、民法に規定があります。普通養子縁組は養親と子ども両者の合意のもとに届け出をすれば成立し、原則として裁判所の審判は必要ありません。そのため、特別養子縁組と比べて成立させやすく、連れ子を養子にする、婿養子にする、相続税対策で孫を養子にするなどのケースがあります。

    特別養子縁組と比較すると、普通養子縁組は以下のような特徴があります。

    • 養親よりも年少であれば、養子の年齢は問わない
    • 養子と実親の親子関係は消滅しない
    • 戸籍には養子(養女)と記載される
    • 縁組後の離縁は原則として可能
      など


    普通養子縁組は、養子縁組が成立した後も、実親の親子関係が消滅しません。したがって、養親だけでなく実親との間にも法定相続権と相互の扶養義務が存続します。

  3. (3)国際養子縁組とは

    養父、養母、養子のうちいずれか一人でも外国籍の場合は、国際養子縁組となります。また、養父、養母、養子の全てが日本国籍であっても、外国で養子縁組がなされれば国際養子縁組に該当します。

    国際養子縁組とは、養子縁組の当事者の一部が外国籍であるか、日本国外で行われた養子縁組のことです。国際養子縁組については民法に明文の規定はありませんが、国際私法上の問題となります。

    国際養子縁組については、どこの国の法律が適用されるかという準拠法の問題と、どこの国の裁判所で手続きをすべきか、という国際裁判管轄の問題が生じます。

2、特別養子縁組の改正のポイント

特別養子縁組制度は法律が改正され、令和2年4月1日に施行されました。特別養子縁組の改正の意義や、改正された内容などを解説していきます。

  1. (1)特別養子縁組の改正の意義

    従来の特別養子縁組制度は昭和62年に新設されました。貧困や捨て子などの事情によって、実親による養育が必ずしも子どもの利益にならない場合に、養親が養育する制度です。

    一方、子どもと実親の法的な親子関係を断ち切るという強力な効果があることから、本当に子どもの利益になるかを慎重に検討するために、養子の年齢制限や家庭裁判所の審判など厳しい要件が課されています。

    そのため、従来の特別養子縁組制度は条件が厳しいことに加え、手続きも利用しやすいとはいえないなど、問題点も指摘されていました。

    事実、厚生労働省が平成26年から27年にかけて、児童相談所や民間の養子あっせん団体に特別養子縁組に関する調査を行ったところ、要件が厳格であるなどの理由で特別養子縁組制度を利用できなかった事例が298件ありました。

    また、制度を利用できなかった理由の内訳として、実親の同意を理由とするものが205件、年齢制限を理由とするものが46件でした。

    この調査結果もふまえて、下記を要点とした特別養子縁組制度の改正が図られました。

    • 特別養子縁組制度の対象年齢の拡大
    • 家庭裁判所の手続きを合理化して養親候補者の負担を軽減


    改正案は平成31年3月に国会に提出され、令和元年6月7日に改正法が成立、令和2年4月1日に施行されました。特別養子縁組に関して改正された法律は民法、児童福祉法、家事事件手続法などです。

  2. (2)年齢制限の引き上げ

    改正された特別養子縁組制度の主要なポイントのひとつは、“養子の上限年齢の15歳未満への引き上げ”です。

    改正前の制度では、特別養子になれる上限年齢は、家庭裁判所に審判を申し立てた時点で6歳未満であることが原則でした。

    実の親子関係を形成するにはできるだけ幼い年齢から養育を始めるのが望ましいという点が重視されていたためです。ところが、実親による虐待や育児放棄などが原因で児童相談所に保護された子どもや、里親に養育される必要性のある子どもは6歳未満に限りません。

    また、諸外国では15歳未満であれば特別養子縁組を認めるケースが少なくないこと、15歳になれば日本でも自分の意志で普通養子縁組ができることなどから、特別養子の上限年齢は従来の6歳未満から原則15歳未満に引き上げられました。

  3. (3)年齢制限の例外

    改正後の特別養子の上限年齢は、特別養子縁組の成立の審判の申し立ての時点で15歳未満であることが原則です。ただし、以下の2点のいずれかに該当する場合は、例外として15歳以上でも特別養子になることが認められています。

    • 養子が15歳に達する前から養親候補者が引き続き養育している場合
    • やむを得ない事由によって15歳までに申し立てができなかった場合


    なお、審判の確定時に18歳に達している場合は特別養子縁組をすることができません。また、養子候補者が審判時に15歳に達している場合は、特別養子縁組を成立させるのに本人の同意が必要です。

3、特別養子縁組の手続きの流れ

特別養子縁組の手続きの流れについて、改正後の手続きのポイントともに解説していきます。

  1. (1)改正前の手続きの問題点

    特別養子縁組の養親候補者から申し立てがあると、家庭裁判所が特別養子縁組を認めるかどうかの審判を開始します。

    改正前の制度では、主に以下の3点について審理が行われていました。

    • 実親の養育能力について、養育が著しく困難または不適当といえるか(若年であること、経済力がないこと、児童虐待や育児放棄など)
    • 原則として実親の同意があること(実親が意思表示できない場合や、子どもの利益を著しく害する場合を除く)
    • 実親の養育能力や子どもとの相性などを測るため、6か月以上の試験養育の期間を設ける


    しかし上記に関して、以下のような問題点が指摘されていました。

    • 実親の養育能力が不適当と判断されるかどうかわからないままで、試験養育をしなければならない
    • 実親は審判が確定するまでは同意を撤回できるため、撤回の可能性がある中で試験養育をすることになる
    • 実親と対立し、実親の養育能力について主張・立証しなければならない可能性がある
  2. (2)改正後は二段階制の手続きで負担減

    改正前は審判手続きの中でさまざまな要素について審議していたことから、養親になれるかどうかわからない状況で試験養育をしなければならないなど、養親候補者の負担が重くなっていました。

    改正によって特別養子縁組の審判手続きが二段階制となり、養親候補者の負担を軽くするための工夫が施されました。

    まず、養親候補者または児童相談所長の申し立てによって第一段階の審判手続きが実施されます。ここで実親による養育状況や、実親の同意の有無などを判断します。実親が同意した場合、2週間が経過した後は同意を撤回することはできません。

    また、改正によって児童相談所長の関与の制度が創設され、児童相談所長が第一段階の手続きの申立人または参加人として主張・立証できるようになりました。

    第一段階の審判が確定した後、第二段階の審判手続きとして養親と養子のマッチングの判断(6か月以上の試験養育)が実施されます。すでに裁判所が養子縁組の必要性を判断し、実親の同意も撤回できない状態なので、候補者が安心して試験養育に取り組めるようになっています。

4、特別養子縁組における弁護士のサポート

特別養子縁組について弁護士に相談した場合、以下のようなサポートが期待できます。

●全貌を把握することが一般に困難な特別養子縁組の手続きについて、押さえておくべきポイントや注意点等を知ることができる。

●6か月以上の試験養育では子育ての状況、住居の環境、財政状況などが重要になるが、養子縁組に知見のある弁護士に相談すると適切なアドバイスを受けることができる。

●養親が特別養子縁組に同意しない場合、弁護士に相談することで、養子縁組が認定されやすいように適切な申立書を作成してもらえるほか、必要に応じて裁判所に意見書などを提出してくれる。

5、まとめ

特別養子縁組は養子縁組制度の一種で、成立すると実親との法的な親子関係が消滅するのが特徴です。ただし、養子となる子どもへの影響が大きいことから、成立には家庭裁判所の審判が必要です。

また、特別養子縁組制度は養親候補が利用しやすいよう令和2年4月1日に新しい制度が施行されました。改正のポイントは養子の年齢制限の引き上げと、養親候補者の負担を軽減するための二段階制の審判手続きの2点です。

特別養子縁組制度の利用を検討している方は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスにご相談ください。養子縁組制度について知見のある弁護士が、円満な養子縁組の成立を目指して真摯に対応いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています