養育費を再婚後にもらい続けることができる? 停止・減額の可能性は?

2021年01月21日
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養育費を再婚後にもらい続けることができる? 停止・減額の可能性は?

大阪府が公表している「平成30年人口動態調査結果 離婚件数、届出月・市町村別」によると、堺市における同年度の離婚件数は1514件でした。堺市の離婚件数の多さは、大阪市(5772件)に次いで府内第2位です。

離婚手続きではお金についてさまざまに話し合わなければなりませんが、中でも親権を持つ親にとって養育費は重要です。財産分与や慰謝料などとは違い、養育費は子どもが独り立ちするまでの間、何年にも渡り毎月支払い続けるべきお金です。

そのため、支払期間中に両親の経済状況・生活環境が大きく変わった場合、養育費の金額が変更されることもあります。もし、養育費を受け取る側が再婚した場合、元配偶者(元夫)から養育費をもらい続けることはできるのでしょうか。堺オフィスの弁護士が解説します。

1、養育費の概要と金額の判断

  1. (1)養育費とは?

    養育費とは、未成熟な子どもが経済的・社会的に独り立ちするまでにかかる生活費・医療費・教育費などです。離婚して片方の親が親権を持つことになっても、両親双方に子どもの扶養義務があることに変わりはありません。

    そのため、親権を持たない親も、離婚後に養育費を子どもに支払い続ける義務を負います。養育費は子どものためのお金ですが、子どもに直接お金を渡しても自身のために適切に使用するのが難しいため、親権者に養育費を渡すことになります。

  2. (2)養育費の金額はさまざまな要因で決定する

    養育費の金額は、両親の話し合いにより自由に決めることができます。

    もし話し合いで決まらない場合、裁判所が公表している“養育費算定表”の金額を参考に、さまざまな事情を考慮して総合的に決定されることになります。

    さまざまな事情とは、たとえば両親の学歴や子どもの健康状態等です。養育費支払い義務者である父親が幼い頃から良質な教育を受け大学院卒の高学歴であった場合には、子どもにも同レベルの教育費をかけるべきだという考えがあります。また、子どもに重い持病や障がいがあり、成人しても経済的に独り立ちすることが難しいケースでは、養育費の支払期間が延長されることもあります。

    民法第877条第1項には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と扶養義務について規定されています特に親の子どもに対する扶養義務は、“生活保持義務”といって「子と親は同レベルの生活を保持する」という解釈がなされます一方、兄弟姉妹間や子どもの親に対する扶養義務は“生活扶助義務”といい、「余力があれば最低限の生活をサポートすればいい」という意味にとどまります

2、再婚後も養育費をもらい続けることはできるか?

  1. (1)再婚のみで養育費の支払い義務はなくならない

    養育費は強い法的義務に基づいて支払われるお金ですから、親権者が再婚しただけでは実親の扶養義務も養育費支払い義務も消えることはありません。また、元配偶者へ再婚したことを報告する義務もありません(ただし注意事項がありますので後述します)。再婚したのはあくまでも親権者であって、親子関係に影響を及ぼすものではないからです。

    ただし、次に挙げる事項がある場合には、養育費が減額されることもあります。

  2. (2)養育費が減額される可能性があるケース

    養育費の支払期間中に、養育費の金額に影響を及ぼすような変化が生じることもあります。

    たとえば、

    • 両親の経済状況が改善された
    • 両親の経済状況が悪化した
    • 子どもの健康状態が悪化したことにより医療費が必要になった

    などが挙げられます。

    養育費を減額する場合は、支払う側が養育費減額請求の手続きを行い、受け取る側の合意を得るか、裁判所の審判を得る必要があります具体的には、当事者同士の話し合い・調停・審判の順に進んでいきます正式な手続きを経ることなく、一方的に養育費の支払いを打ち切ることは認められません

    具体的にどのような場合に養育費が減額される可能性があるのかを説明します。
    まずは受け取る側の減額要因です。

    • 受け取る側の収入が予想外に増加した
    • 受け取る側が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組をした
    • 再婚相手と養子縁組はしていないが実質的に多額の子育て費用を援助してもらっている


    “予想外に増加”とは、養育費の金額を決定する時点では予想できなかったという意味です。たとえば専業主婦から正社員として就職して収入が増加しても、母親のキャリアアップを前提として養育費の話し合いをしていた場合には“予想外の増加”とはいえませんので、養育費は減額されない可能性があります。

    次に、支払う側の減額要因です。

    • 支払う側の経済状況がやむを得ない理由により悪化した
    • 支払う側が再婚し子どもが誕生した


    “やむを得ない理由”とは、病気・事故・リストラ・業績悪化などです。もし養育費を支払いたくないからと、自分の意思で退職したり収入を減少させたりした場合には、潜在的稼働能力があるとして、養育費減額請求が認められない可能性があります

3、再婚後に養子縁組をすると養育費はどうなるか?

  1. (1)養子縁組とは?

    養子縁組とは、血縁関係がない人間同士に法律上の親子関係を成立させる手続きです。養子縁組は、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。

    普通養子縁組には養子の年齢制限がなく、養子縁組後も実親との親子関係が継続します。つまり、養子縁組後は養親と実親の両方が子どもに対して扶養家族を負い、子どもは養親と実親の両方に対して相続権を有します。

    一方、特別養子縁組には養子を原則15歳未満とする年齢制限があり、養子縁組後は実親との親子関係が消滅します。特別養子縁組は、児童虐待や貧困などの深刻な事情を抱える子どもの福祉を第一の目的としています。

  2. (2)再婚相手と子どもが養子縁組をした場合

    ●普通養子縁組のケース
    親権者の再婚相手と子どもが普通養子縁組をした場合、実親と養親の両方が扶養義務を負うことになりますただし、まずは養親が優先的に子どもを扶養し、養親が扶養できなくなった場合に実親が扶養義務を遂行する、という位置付けとなります

    なお、実親が自発的にこれまで通りの養育費の支払いを望む場合には、それを否定するものではありません。また、普通養子縁組の場合、子どもは養親と実親の両方に対して相続権を有します。

    ●特別養子縁組のケース
    特別養子縁組をした場合には、実親の扶養義務も消滅します。この場合、実親は養育費の支払い義務も負わなくなります。ただし子どもの親に対する相続権も失われることになります。特別養子縁組は、児童福祉のために特別に認められる制度であり、厳格な条件を満たして家庭裁判所から許可される必要があります(民法第817条の2,第817条の7)。

    したがって、再婚相手と連れ後の養子縁組は、普通養子縁組であるケースが多いといえるでしょう。

4、再婚を隠して養育費をもらい続けたら返還請求される?

  1. (1)元配偶者へ再婚の報告義務はない

    元配偶者に再婚を報告する法的な義務はありませんまた一度決めた養育費の金額は、変更について当事者が合意するか、裁判所が認めるまでは原則として有効ですそのため、養育費の支払い義務者は、自発的に減額請求手続きを行う必要がありますたとえば再婚の事実を知ったというだけで、一方的に打ち切ることは法律上許されません

    ただし、養育費を受け取り続けるために再婚したことをわざと長期間隠すなどした場合には、養育費減額調停・訴訟における裁判所からの印象が悪くなるおそれがあるので、注意しましょう。

  2. (2)養子縁組により支払い義務を無効とした判例

    再婚相手との養子縁組の日にさかのぼって養育費の支払い義務が消滅したとする判例もありますので、紹介します。

    ●最高裁第一小法廷平成30年6月28日決定
    この事例では、親権者である母親が2004年に再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をしました。その後、母親は再婚と養子縁組の事実を元夫に伝えないまま、2007年から2017年までの養育費を回収するために元夫の不動産に強制競売を申し立てました。

    元夫は養子縁組の日以降は養育費をゼロ円とする養育費減額請求を家庭裁判所に申し立て、元夫の訴えが認められました。これは、実親である元夫の扶養義務が完全に消滅したのではなく、養親が扶養できなくなった場合においてのみ扶養義務を負うことになるという意味です。

    さらに、養育費変更の基準日について、原決定が、「裁判所が、当事者間に生じた諸事情、調整すべき利害、公平を総合考慮して、事案に応じて、その合理的な裁量によって定めることができると解するのが相当である。」と判断していることも注目すべきポイントです。母親の再婚と養子縁組から元夫が養育費減額請求をするまで10年以上も経過していたという点で特異ではありますが、参考になる事例です。

5、まとめ

親権者が再婚しただけで養育費の支払い義務がなくなることはありませんが、再婚相手と子どもが養子縁組をした場合には養育費減額請求が認められる可能性がありますしかし、一度合意した養育費を勝手に減額したり打ち切ったりすることは法律上許されず、必ず当事者間で合意をするか、家庭裁判所で養育費減額請求の申し立てをする必要があります

また、元配偶者に再婚を報告する法律上の義務はなく、原則として養育費減額の合意をするまでは有効です。ただし再婚相手との養子縁組の日にまでさかのぼって養育費支払い義務が消滅するとした判例もありますので、再婚の事実はタイミングを見て伝えた方がいいでしょう。
養育費はもちろん離婚にまつわるさまざまなお悩みについては、堺オフィスの弁護士までお気軽にお問い合わせください。離婚問題の解決実績が豊富な弁護士が、親身にお話を伺い問題解決に尽力いたします。

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