あおり運転で刑法犯に! 暴行罪などに該当する可能性がある理由とは
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あおり運転の結果、刑法犯の暴行罪として起訴される例が増加しています。平成30年7月、堺市内であおり運転による死亡事故では、検察があおり運転を行った男を殺人罪として起訴したことから、全国的なニュースになりました。
一般的には「マナーがない運転」として捉えられていた「あおり運転」ですが、痛ましい事故が多発していることから、厳罰化が進んでいます。具体的にどのような運転をすると、あおり運転として取り締まりの対象となるのかを、ご存じでしょうか。
あおり運転に該当する行為はもちろん、どのような罪に問われることになるのか、さらには、あおり運転によって逮捕される可能性など、運転手であればなおさら、改めて確認しておくべきことは多々あります。
今回は、あおり運転について知っておくべきポイントを、弁護士が解説します。
1、あおり運転にあたる行為とは
刑法や道路交通法、その他の法律において、「あおり運転」を明確に定義し、これを処罰した条文はありません。運転中、相手に進路を譲るよう強要したり、相手を威嚇したり、嫌がらせをしたりする行為全般が「あおり運転」と呼ばれています。
具体的には、以下のような行為があおり運転に該当すると考えられます。
- 前方車両との車間距離を詰めて異常に接近する
- 特定の車両を追い回す
- 蛇行運転をする
- 幅寄せする
- 必要もないのに何度もライトでパッシングする
- 繰り返しクラクションを鳴らす
- 窓を開けて罵声を浴びせる
2、あおり運転は何罪になる?
前述のとおり、「あおり運転」そのものを処罰する法律はありません。しかし、あおり運転とみなされる行為の多くが、刑法上の犯罪や道路交通法違反に該当し、処罰されることはあります。あおり運転について、これまでは、処罰感情も高くなく、また、ドライブレコーダーなどの記録装置もあまりなかったことから、取り締まりも緩かったですが、現在では痛ましい事故も起こり、またドライブレコーダーなどの記録装置を搭載した車両も多くなり、より厳しく取り締まるようになったと考えておいたほうがよいでしょう。
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(1)暴行罪などの刑法犯
暴行罪というと、人を殴る行為を思い浮かべるかもしれません。しかし、そもそも暴行罪とみなされる暴行行為も幅広いもので、たとえ直接の接触がなくても、棒を持って相手に向かって振り回す行為も暴行罪にあたる可能性があります。
走行している車を相手に異常に接近させたり、蛇行して進行を妨げたりする「あおり運転」行為も、交通上の危険につながる行為としては、相手に武器を振り回すのと同じくらい危険な行為です。
あおり運転の結果、あおり運転をした者自身が運転の正確性を失ったり、あおり運転をされた者が運転方法に支障を生じさせた場合、車内にいる者に対する暴行行為があったということで暴行罪が成立します。あおり運転の結果、被害者が負傷すれば、過失運転致傷罪または危険運転致傷罪が成立するでしょう。被害者が死んでも構わないというつもりであおり運転をしていれば、堺市の事例のように、殺人罪が適用される可能性もあります。
なお、あおり運転の結果、刑法犯として処罰を受けた事例は過去にもあり、古くは昭和50年4月15日東京高裁の判決で、あおり運転が暴行罪の暴行行為として認められた事例があるのです。
近年では、平成30年2月には、東名高速道路でパッシングや蛇行運転を繰り返したほか、前方車両の前に出て急ブレーキをかけた19歳の男が暴行罪の容疑で逮捕されました。また、平成30年4月には、愛媛県において、前方車両の速度が遅かったことに腹を立てた31歳の男が、前方車両との車間距離を詰めたり、蛇行運転をしたりして、同じく暴行罪の容疑で逮捕されています。 -
(2)道路交通法違反
危険運転行為であるあおり運転は、道路交通法のさまざまな規定に違反する可能性があります。具体的には、以下の違反に該当するおそれがあります。
- 前方車両との車間距離を必要以上に詰める→車間距離不保持(道路交通法第26条)
- 幅寄せ行為→安全運転義務違反(同法第70条)
- 相手の車両の前に出て急ブレーキをかける→急ブレーキ禁止違反(同法第24条)
- パッシングを行う→減光等義務違反(同法第52条)
- クラクションを必要以上に鳴らす→警音器使用制限違反(同法第54条2項)
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(3)あおり運転の罰則
前述のとおり、あおり運転はさまざまな法律に違反します。違反した場合の罰則は以下のとおりです。
●暴行罪
2年以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金、または拘留または科料
●過失運転致傷罪
7年以下の懲役(禁錮)、または100万円以下の罰金
●危険運転致傷罪
15年以下の懲役
●危険運転致死罪
1年以上20年以下の懲役
●道路交通法違反
3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金(違反行為によります)
なお、道路交通法違反で反則金を支払うことになったときは、「前科」としての経歴はつきません。しかし、暴行罪など刑法犯として有罪となると、たとえ刑罰が「科料(かりょう)」という、1万円未満の軽微な財産刑であろうと、前科がついてしまう点に注意が必要です。 -
(4)あおり運転の行政処分
あおり運転は、前記のような罰則を受けるだけでなく、免許の違反点数がつきます。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
たとえば、車間距離を詰めて車間距離不保持となった場合は1点、幅寄席行為で安全運転義務違反となった場合には2点、と定められています。これを聞くと、点数が低いと感じられる方もいるでしょう。
しかし平成30年1月には、警視庁から、悪質・危険な運転者を早期に排除するために、この道路交通法103条第1項の行政処分を積極的に行うことを求める通達が出されています。「危険性帯有者」(道路交通法103条1項8号)とは、「免許を受けた者で、自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」をいいます。
「危険性帯有者」にあたると判断されると、違反点数の累積がなくとも、直ちに免許の取り消し処分または最長180日間(6ヶ月)の免許停止処分ができることになっています(道路交通法103条1項第8号)。今後は、この規定が用いられることが多くなることが予想されています。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説
3、あおり運転は逮捕される?
あおり運転行為は、前記のとおり、同行交通法違反となるだけでなく、刑法上の暴行罪となる可能性があります。では、あおり運転をすると逮捕されてしまう可能性があるのでしょうか?
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(1)事故を起こさなければ大丈夫?
道路交通法違反だけで逮捕される可能性はさほど高くないものです。しかし、暴行罪が成立すると判断された場合は、逮捕されることもあるでしょう。なお、あおり行為の結果、交通事故を起こして相手を負傷させてしまったときは、逮捕されるだけでなくより厳しい処罰を受けることになる可能性が高くなります。
実際、平成30年2月の東名高速道路で起きた事件や、同年4月の愛媛県内で起きた事件においては、事故は起きていないにもかかわらず、あおり行為をした運転手が逮捕されています。 -
(2)あおり運転で逮捕されたらどうなる?
あおり運転の結果、暴行容疑で逮捕されると、最大72時間、留置場で身柄を拘束されます。その後、証拠を追加で収集しなければならない等捜査の必要があると判断されれば、身柄は検察へ送致されます。
送致を受けた検察官は、引き続き身柄を拘束して捜査を行う「勾留」の必要性を判断し、必要に応じて裁判所に勾留請求をします。勾留が認められれば、留置場または拘置所において、最大20日間、身柄の拘束が継続することになります。
検察官は、勾留期間中に取り調べを終えて、起訴するかどうかを判断します。「起訴」となれば、99%有罪となると考えなければなりません。有罪となれば、当然前科がつくことになります。不起訴であれば、身柄が解放されます。前科がつくこともありません。
4、あおり運転で後日に逮捕される可能性は?
暴行罪等の刑法犯として罪を裁くとき、証拠がなければなりません。最近は、ドライブレコーダーを搭載する車両が増えてきました。複数の車両がドライブレコーダーを搭載していれば、数珠つなぎであおり運転行為は連続的に記録され、言い訳のしようのない確実な証拠として記録が残る可能性が高くなっています。
あおり運転をしたその場で逮捕されず、何事もなく帰宅できたとしても、逮捕されることはないと言い切れません。後日になって、ドライブレコーダーの映像などを警察に提出する可能性がありますし、被害者本人以外の車がSNSなどであおり運転中の動画を拡散する可能性もあります。その場合は、拡散を止めることは非常に難しくなります。
それらの映像をもとに警察が捜査を進めれば、あおり運転を行った者が特定されることになるでしょう。ドライブレコーダーの映像等の記録は、確実かつ正確で劣化しない証拠として残り続け、あとになって逮捕されたり、捜査を受けたりすることになる可能性は、十分にあるということです。
5、もしあおり運転をしてしまったら
あおり行為をしてしまったら、その場ではもちろん、あとから捜査を受けて逮捕される可能性があります。暴行罪に問われれば、刑事事件として扱われ、起訴されることも考えられるでしょう。
逮捕されたまま何も手を打たなければ、最大23日間身柄を拘束される可能性が高まります。職場や学校を長期にわたり休む必要があることから、会社などに発覚してしまう可能性は否定できません。また、起訴されて有罪判決がなされると前科がついてしまいます。
もし、あおり運転をしてしまったときには、いち早く被害者との間で示談を成立させることをおすすめします。検察は、被害者の処罰感情を考慮したうえで、起訴・不起訴を検討するためです。
示談をすることで、逮捕を免れたり、逮捕されても早期に釈放を求めたりすることが可能になります。また、起訴されるかどうかの判断にも大きな影響を与えます。
しかし、あおり運転を受けた相手方の被害感情を考えると、加害者本人とは会いたくないと考えるケースが一般的です。そもそも、逮捕されてしまうと、被害者と会うことすらできなくなります。
そのため、あおり運転で警察の取り調べを受けたときには、なるべく早期に、弁護士に相談されることをおすすめします。弁護士に示談をはじめとした弁護活動を依頼することで、被害者との示談を進めるだけでなく、警察や検察に対し、刑罰の適用に対して意見書を提出してもらうこともできます。行為の態様によっては、道路交通法違反は成立しても、暴行罪の成立は争うなど、状況に適した対応を行います。
6、まとめ
あおり運転は、した側にとってどのような理由があろうが、そもそも道路交通法で取り締まりの対象となる危険運転であることに変わりはありません。今後も厳罰化の方向で進んでいくことは間違いないといえるでしょう。
万が一あおり運転をしてしまったときは、きちんと反省をして、被害者に謝罪をすることが求められます。被害者への謝罪は、早ければ早いほど意味があります。同時に、弁護士に依頼をして、なるべく逮捕・起訴されないよう相談しておくことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 堺オフィスでは、刑事事件の対応経験が豊富な弁護士が適切なアドバイスを行います。もし逮捕されているのであれば、早急かつ的確な弁護活動を必要とします。できる限り早いタイミングで相談することをおすすめします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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