強制わいせつ行為をしてしまったら! 被害者との示談の方法を弁護士が解説。
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セクハラや痴漢など、性犯罪の話題をニュースなどで見聞きする機会が増えつつある昨今。しかし、具体的にどのような行為が罪に問われるのか、有罪になったときはどのような刑罰が与えられるのか? と聞かれたとき、具体的に説明できる方は意外と少ないものかもしれません。
たとえば、居酒屋の死角で知人の体を無理やり触った、もしくはキスをしたなどのケースでは、強制わいせつ罪で逮捕される可能性があります。万が一、強制わいせつの加害者になってしまったとき、事件をなるべく早く解決するためには、示談が重要だ……という話を、耳にしたことがある方もいるでしょう。
しかし、そもそも強制わいせつとはいったいどのような罪なのかという基礎知識をはじめ、示談の詳細についてなどを、堺の弁護士がくわしく解説します。示談がもたらす効果や示談交渉のポイントなどを知っておきましょう。
1、強制わいせつ罪の概要
強制わいせつ罪は、暴行または脅迫をもちいてわいせつな行為をした場合に問われる罪です。刑法176条で規定されており、被害者の性別は問いません。性犯罪といえば、男性が加害者で女性が被害者となるイメージが根強いものですが、被害者と加害者の性別が逆の場合や同性同士もあり得ます。これまで、刑法の条文上では「男女」と記されていましたが、平成29年の改正時に「者」と表記が変更されています。
なお、以下のように、被害者の年齢によって犯罪の成立要件が異なります。
- 相手が13歳以上……「暴行または脅迫」を用いて「わいせつな行為」をした場合
- 相手が13歳未満……「わいせつな行為」をした場合
「わいせつな行為」とは、たとえば、服を脱がせる、キスをする、などの行為が該当します。陰部や乳房を着衣の上から触れたといった場合では、単に触れるだけでは「わいせつな行為」にあたらず、着衣の上からでももてあそんだといえるような態様の場合に「わいせつな行為」にあたると解されています。単なる抱擁は、「わいせつな行為」にあたりません。
被害者が12歳以下であれば、たとえ被害者が合意していたとしても「わいせつな行為」をした時点で、強制わいせつ罪に問われることになります。
刑法176条で示される「暴行または脅迫」とは、殴る蹴るなどの典型的な暴力や脅しでなくても、被害者にとって抵抗できないと感じるような程度の行為があれば、この「暴行または脅迫」に該当します。つまり、被害者にとっては十分恐怖を感じるであろう、「突然のわいせつな行為」そのものが「暴行または脅迫」とみなされて強制わいせつ罪にとわれる可能性が高い点は忘れてはなりません。
つまり、冒頭で登場した、居酒屋で知人に対して無理やり体を触り、キスをする行為は、強制わいせつ罪に該当する可能性が高いでしょう。酔っていたからといって罪を免れるものではありません。強制わいせつ罪は、現在、警察が総力を挙げて検挙を目指す「重要犯罪」のひとつとなっています。逮捕されれば厳しい追及を受けることになるでしょう。
なお、強制わいせつ罪で有罪になると、「6ヶ月以上10年以下の懲役(ちょうえき)」に処せられます。刑罰の種類は懲役刑のみのため、略式起訴はされず、起訴されれば、必ず公開された法廷で、裁判の場に立つことになります。さらに、執行猶予付きの判決でない場合、定められた期間、刑務所で服役しなければなりません。
2、強制わいせつ事件の示談とは
強制わいせつ事件では示談が重要といわれていますが、その理由はご存じでしょうか。強制わいせつ事件における示談の意味や、示談をしなかった場合のリスクについて解説します。
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(1)強制わいせつ事件における示談の意味
そもそも「示談」とは、加害者が被害者に対して真摯に謝罪をし、被害者が加害者の謝罪を受け入れて加害者の刑事事件を宥恕(ゆうじょ)することをいいます。当事者同士で話し合い、事件化しないように解決するという意味合いがあります。示談が成立すれば、被害者の処罰感情も和らいだということから、逮捕や起訴を免れたり、たとえ起訴されても下される刑罰が軽くなる確率が高まります。
なお、そもそも示談が重要とされていた背景としては、2017年の法改正まで、強制わいせつ罪が、被害者による告訴(犯罪事実を捜査機関に対して申告し加害者の処罰を求める意思表示をいいます)がなければ起訴できない「親告罪(しんこくざい)」だったことから、示談が成立すれば確実に起訴されることがなかった……という背景があります。
しかし、2017年の法改正以降、強制わいせつ罪は、告訴がなくても起訴できる「非親告罪」へ厳罰化されました。示談が成立したからといって、「絶対に逮捕・起訴されない」ということではないという点に注意が必要です。
それでも現在でも示談を行う重要性にかわりはありません。被害者の処罰感情が消滅すれば、捜査機関も事実上捜査をすすめず、逮捕回避や減刑につながります。 -
(2)強制わいせつ事件の示談金の相場
示談が成立すれば、示談で合意した内容に基づき、加害者には示談金の支払いと、その他の条件を履行する義務が生じます。示談金には、被害者の精神的苦痛に対する慰謝料のほか、治療費、事件に起因する引っ越し費用、労務不能中の生活費などを含むことがありますが、支払うべき費目について具体的に定まっているわけではありません。その他の条件は事件によって異なりますが、被害者に近づかない、連絡しないなどの接近禁止条件や、口外しないといった守秘条件がつくことも多々あるでしょう。
なお、強制わいせつ事件の示談金は犯行の様態により差があるため、明確な基準はありません。行為の内容や被害者の処罰感情、年齢、加害者の資力などに左右される傾向があります。 -
(3)強制わいせつ事件で示談をしない場合
加害者の中には、「示談金を払いたくない」、「払えるお金がない」、さらには「示談しても絶対に不起訴になるとは限らない」などの理由で、示談をしないほうがいいと考える方もいるようです。
しかし、強制わいせつ事件で示談が成立しなければ、逮捕・起訴されることはもちろん、執行猶予判決ではなく実刑判決になる可能性が高まります。なお、日本の刑事事件においては起訴された事件の99%は有罪判決になるという実績があります。よって、起訴されれば必ず前科がつくと考えておいたほうがよいでしょう。
また、逮捕から起訴、さらに実刑判決が下されればそれ以降も、身柄を拘束され続けることになります。現在の仕事や学校などへの影響は大きく、あなたはもちろん、あなたの家族も、これまでと同じような生活を営むことは難しくなるといわざるを得ません。
さらに、示談交渉を行わなければ、被害者が刑事事件とは別に民事裁判を起こす可能性が高まります。事件を周囲に知られたりするリスクもより高くなります。
示談を行わないことは、まずもって、被害者に対して謝罪の意思がないとみなされ、その結果、重い刑事責任を課され、あなた自身の将来へ多大な影響をもたらすことが考えられます。
3、強制わいせつ事件の示談で重要な3つのポイント
前述のとおり、強制わいせつ事件を起こしてしまった場合、示談が成立していなければ、その後の結果が大きく変わってしまいます。
では、示談を成立させるためには、どのようにすればよいでしょうか。重要なポイントを3つ紹介します。
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(1)交渉を弁護士に依頼する
示談交渉は、原則的には加害者と被害者の話し合いによって行われるものです。しかし、強制わいせつ事件を含む性犯罪では、当然のことながら、被害者が加害者に対して激しい嫌悪感情を抱いています。加害者が被害者に直接連絡できることなどほぼありえません。
被害者が知り合いで連絡先を知っている場合でも、加害者が直接連絡することは絶対に避けるべきです。被害者の被害感情をこれ以上悪化させないためにも、交渉は加害者本人ではなく、弁護人に任せるべきです。
まず、弁護士は事件の第三者であり、守秘義務があります。これまで示談を拒否していたケースであっても、弁護士が間に入ることで被害者が示談交渉に応じることが多々あり、示談が成立しやすくなります。また、弁護士であれば、被害者が過剰すぎる示談金を請求してくることがあっても、素早く事態に対応し、適正な金額で説得することも可能です。
さらに、加害者が逮捕されれば、逮捕から48時間はたとえ家族であっても接見できなくなりますが、弁護士ならば接見が可能です。いち早く自由の身になれるよう、アドバイスが行えます。 -
(2)できるだけ早く示談を成立させる
強制わいせつ事件における示談は、いつ成立するかによって、加害者が受けることのできるメリットの大きさが変わります。以下に示すとおり、示談成立が遅くなればなるほど、メリットが小さくなる点に注意が必要です。
- 事件化前 示談により被害届が提出されなければ捜査が開始されるケースは少なく、逮捕もされない可能性が高まります。
- 起訴前 逮捕されてしまっても、起訴前の示談で不起訴処分となれば、即日身柄を釈放され、前科もつかない可能性が高まります。
- 起訴後 強制わいせつで起訴されれば、公判や有罪はほぼのがれることはできないでしょう。ただし、示談を成立しておけば、執行猶予付き判決を下される可能性や、刑期が短くなる可能性が高まります。
このように、示談を成立させることには、時期によってそれぞれ得られるメリットが異なります。前科をつけず、社会生活への復帰を容易にするためには、少なくとも起訴前に示談を成立させることが重要です。加害者になった場合は、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談することをおすすめします。
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(3)宥恕(ゆうじょ)項目を盛り込む
「宥恕」とは、「被害者が加害者を許す」という意味です。前述のとおり、加害者が示談を成立させる大きな目的は、被害者に許しを請い、自らの刑事責任について、逮捕の回避や減刑など、できるだけ悪化させないことにあります。「被害者は加害者を許した」という文言を入れることで、検察官や裁判官の心証に大きな影響を与えます。
通常、示談金など、相手に対する謝罪となる項目のほかに、「宥恕」項目として被害届や告訴の取り下げについても盛り込み、示談を成立させるケースが一般的です。文章として「宥恕項目」を降りこむことで、被害者の処罰感情が緩和されていることを示します。
この点、弁護士であれば示談に精通していますので、加害者の刑事責任を軽減させる示談になるように示談書を作成してくれるでしょう。
4、まとめ
今回は、強制わいせつ罪と示談について、示談の意味や不成立の場合のリスク、交渉のポイントなどを紹介しました。
強制わいせつ事件を起こしてしまったら、2度と同じ過ちを犯さないと誓うとともに、できるだけ早いタイミングで示談を成立させることが重要です。示談の成立によって逮捕や起訴を回避する可能性を高めることができ、いち早く日常を取り戻す余地が生まれます。
適切な示談を成立させるためには、弁護士のサポートは必要不可欠になります。刑事事件対応の経験が豊富な弁護士を頼るようにしましょう。強制わいせつの疑いによる逮捕の心配がある場合は、南海高野線「堺東」駅より徒歩1分のベリーベスト法律事務所 堺オフィスへまずはお気軽にご連絡ください。大阪府堺警察署にも近いため、万が一逮捕されてしまった際も、堺オフィスの弁護士が迅速に対応いたします。
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