盗撮ハンターにあってしまったら? 対抗手段を弁護士が解説
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令和2年5月、都内で「盗撮ハンター」と呼ばれる手口の恐喝犯が逮捕されました。
盗撮ハンターは、実際に盗撮犯をみつけて「いま盗撮しただろう?」と、示談金の名目で多額のお金を脅し取ります。この事例では、盗撮事件の被害者となった女性も恐喝グループの一員でしたが、同様の事例には被害者の彼氏や兄を装う役が登場する「劇団型」と呼ばれる手口も報告されています。
盗撮ハンターは大阪や堺などの関西圏をはじめ、全国の都市部でも同様の被害が発生しているものと予想されますが、恐喝を受けた被害者も実は盗撮事件の加害者であるという特性から、トラブルが表面化しにくいという現実があります。
このコラムでは「盗撮ハンター」がどのような罪にあたるのかを解説しながら、盗撮ハンターの被害に遭って脅されている場合にとるべき行動について、ベリーベスト弁護士事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。
1、盗撮ハンターの概要や被害の特徴
「盗撮ハンター」と聞くと、警察官や「万引きGメン」と呼ばれる私服警備員などをイメージしてしまいそうですが、その正体は犯罪者です。しかも、悪事をはたらくだけでなく、被害者に心理的なプレッシャーを与えることで犯行が発覚しないように計算しているという点で、悪質性が非常に高い手口だと言えます。
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(1)盗撮ハンターとは
「盗撮ハンター」とは、盗撮の犯行におよんだ加害者を捕まえて、示談金や慰謝料の名目で多額のお金を脅し取る手口を言います。
その多くは数人のグループを結成しており、盗撮犯を捕まえる役、目撃者役、興味をもった通行人・やじうま役のほか、なかには被害者役や被害者の彼氏・兄弟役まで登場するパターンもありという、手の込んだ手口です。盗撮事件が起きやすい繁華街や商業施設でターゲットを探して実際に盗撮犯を捕まえるケースもありますが、最近では盗撮マニアが集まりやすい場所を選んでわざと盗撮しやすい状況を作って盗撮犯を誘う悪質なケースも発生しています。
スマートフォンの普及率が高まって誰もが簡単に盗撮できる時代になったことに目をつけた「最新版の美人局(つつもたせ)」といったところでしょう。 -
(2)盗撮ハンター被害の特徴
盗撮ハンター被害のもっとも特徴的な点は、被害者が「盗撮事件の加害者」であるという点です。偶然にも盗撮ハンターに犯行を目撃されてしまったという展開だけでなく、盗撮ハンターのグループのわなにかかってしまったとしても、被害者が盗撮におよんだ事実はかわりません。
多くの被害者が「逮捕される」「実名報道されてネットで拡散される」「会社にもバレる」といった不利益を恐れてしまうため、盗撮ハンターの言いなりになってお金を脅し取られてしまいます。しかも、多額のお金を脅し取られたにもかかわらず、自らが盗撮事件を起こした事実も露見してしまうので警察への相談さえもできません。
このような構図があるため、盗撮ハンター被害は警察に発覚しにくく、多額のお金を脅し取られても泣き寝入りしている被害者が多いという特徴があります。
2、「盗撮」はどのような罪に問われる?
盗撮ハンターの被害者は、盗撮事件を中心に考えると加害者です。では、盗撮はどのような罪に問われるのでしょうか。
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(1)都道府県の迷惑防止条例違反にあたるケース
各都道府県が定めている「迷惑防止条例」には、盗撮や痴漢といった粗暴行為を禁止する規定が設けられています。地域によって規定に差がありますが、全国に先駆けて迷惑防止条例を制定した東京都を例に挙げると、次のような場所での盗撮行為が禁止されています。
●住居・便所・浴場・更衣室など、人が通常衣服の全部または一部をつけない状態でいるような場所
●公共の場所・公共の乗り物・学校・事務所・タクシーなど、不特定または多数の者が利用し、または出入りする場所または乗り物
なお、迷惑防止条例による盗撮行為の規制について、公共の場所や公共の乗り物内のみに限定されていました。しかし、学校や事務所などのように公共性がない場所おける盗撮を罰することができなかったので、平成30年に東京都で改正がおこなわれたことを皮切りに、全国でも改正がおこなわれたという経緯があります。
大阪府の「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」でも改正が加えられ、公共の場所以外での盗撮も処罰の対象になりました。 -
(2)軽犯罪法違反にあたるケース
軽犯罪法とは、軽微な秩序違反行為を取り締まる法律です。
全33の違反行為のうち、第23号には「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような所をひそかにのぞき見た者」を処罰の対象としています。盗撮行為そのものを規制しているわけではありませんが、盗撮の前提として「のぞき行為」が規制されているわけです。 -
(3)盗撮に科せられる刑罰
迷惑防止条例における盗撮行為の罰則は、都道府県によって差がありますがおおむね「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が規定されています。
「のぞき行為」を禁止する軽犯罪法の罰則は「拘留または科料」です。拘留とは30日未満の刑事施設への収容、科料とは1万円未満の金銭徴収を意味します。
いずれの場合も、これまでに刑罰を受けたことがない「初犯」であれば、法定刑の範囲内で軽い刑罰が科せられるケースが多いでしょう。しかし、これまでに刑罰を受けたことがある「再犯」の場合は、以前の事件に対して反省していないと評価されて重い刑罰が科せられます。また、迷惑防止条例違反では「常習」についてより重い刑罰が設けられており、東京都や大阪府では懲役の上限が「2年」に引き上げられます。
3、盗撮ハンターが問われる罪
盗撮が違法行為であるとはいえ、盗撮の加害者をターゲットにしてお金を脅し取る盗撮ハンターの罪が許されるわけではありません。盗撮ハンターは、次に挙げる罪に問われることになります。
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(1)恐喝罪
暴行・脅迫を用いて金品などを脅し取る行為は、刑法第249条の「恐喝罪」に該当します。
盗撮ハンターのように被害者側にも違法行為があるような場合でも、恐喝罪の成立は妨げられません。また、被害者が脅しに屈せずお金を渡さなかった、警察に相談して金銭被害が発生しなかったようなケースでも、恐喝未遂として処罰が下されます。法定刑は「10年以下の懲役」です。 -
(2)脅迫罪
生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加えることを告知すると、刑法第222条の「脅迫罪」が成立します。
盗撮ハンターの手口に照らせば、金銭の要求がなくても「家族や会社に言いふらすぞ」などと被害者を脅せば脅迫罪に該当するでしょう。法定刑は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。 -
(3)詐欺罪
うそを申し向けて金銭をだまし取ると、刑法第246条の「詐欺罪」が成立します。
盗撮ハンターと実際の盗撮被害者がまったくの無関係で、被害者がそのようなことを言っている事実もないのに「被害者は100万円で示談をしてもいいと言っている」とお金をだまし取ったケースでは、詐欺罪が成立するでしょう。法定刑は恐喝罪と同じで「10年以下の懲役」です。 -
(4)その他
ナイフなどの刃物をみせながら金銭を脅し取った場合は強盗罪(刑法第236条)、殴る・蹴るなどの暴力行為があれば暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)が成立する可能性があります。
4、盗撮ハンターに捕まった! 正しい対処法とは
盗撮の現場を盗撮ハンターにおさえられてしまったり、少し離れた人気のない所で「さっき盗撮していましたよね?」と声をかけられてしまったりしても、慌てる必要はありません。正しい対処法をとることで、無用な被害は防ぐことが可能です。
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(1)盗撮ハンターの目的は「お金を得ること」だけ
盗撮ハンターの目的は、ただ「お金を得ること」の一点に尽きます。正義感を装って近づいてきても、被害者のためを考えて事件解決に協力するわけでもなければ、本当に警察に届け出をすることもありません。
もし警察に届け出をしてしまえば、自分たちが金銭を脅し取ろうとしていたことが発覚してしまうのだから「警察に届け出をする」という言葉を信用する必要はありません。その場で金銭の要求があれば、自ら警察に通報したほうが安全です。 -
(2)初犯であれば盗撮の刑罰は軽くて済む可能性が高い
盗撮はれっきとした犯罪です。しかし、初犯であれば盗撮の刑罰は意外と軽いもので済まされるケースもあります。迷惑防止条例違反にあたる場合の法定刑は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」ですが、これまでに前科・前歴もなく、悪質性が高くなければ、不起訴処分や数10万円程度の罰金刑も十分に期待できるでしょう。
盗撮ハンターは、盗撮犯を脅す材料を得るために、盗撮に関するさまざまな知識を身につけています。迷惑防止条例違反の罰則も理解しているので「罰金は100万円だから、100万円で示談にしてやる」などと申し向けてくるケースが多いようですが、刑事裁判で最高額の罰金100万円の判決が下されることはごくまれです。
単純に金額だけに注目すれば、盗撮ハンターの餌食になってしまうよりも刑事事件として処理されたほうがはるかに負担は軽いでしょう。 -
(3)緊急性が高い場合は警察に相談する
盗撮ハンターに捕まってしまい、高額な示談金や慰謝料を要求された場合は、迷わず警察に相談しましょう。とくに、身体・生命への危害を示唆するような言動があるなど緊急性が高い場合は、直ちに警察に通報するべきです。
盗撮の事実が露見してしまうとしても、悪質な恐喝などの被害を防ぐことができます。 -
(4)恐喝グループへの対応は弁護士に任せる
盗撮ハンターの多くは、被害者を「個人情報を握られてしまった」と萎縮させる目的で、運転免許証を差し出させてスマートフォンで撮影したり、住所や電話番号を聞き出したりします。一度でも金銭を支払ってしまうと、繰り返し金銭の要求を受ける恐れもあるので、恐喝グループと個人でやり取りを続けるのは危険です。
弁護士に相談して恐喝グループとの対応を一任すれば、不当な金銭の要求に屈することなく繰り返し被害に遭う事態を防ぐことができるでしょう。さらに、すでに支払ってしまった金銭の返還を要求しながら、実在する被害者との示談交渉を進めることで盗撮事件の解決も期待できます。
5、まとめ
盗撮ハンターの被害は、大都市圏を中心に拡大しています。多額の金銭を脅し取られたとしても「自分の罪を隠すためには仕方がない」と泣き寝入りしてしまう被害者が多数なので、警察が認知できず潜在化してしまうケースも多数です。盗撮ハンターの被害に対抗するには、盗撮の罪に関する正しい知識を身につけるとともに、恐喝グループの言いなりにならないための対策を講じる必要があります。
盗撮ハンターの被害に遭ってしまい示談金や慰謝料の請求を受けている方は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスにご相談ください。また、すでに盗撮ハンターに金銭を支払った方も、まずはご一報ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、盗撮ハンターへの正しい対応をアドバイスするとともに、盗撮事件の解決に向けて全力でサポートします。
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