執行猶予期間中に逮捕されたら、すぐに弁護士に相談すべき理由
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平成29年11月、大阪府堺市で、通行人の男性に対する傷害容疑で70代男性が現行犯逮捕されました。この70代男性は以前にも近隣住人の通行を妨げた容疑で逮捕され、今回の事件の約1年前に執行猶予付き判決が出ていたと報道されています。
もし、執行猶予中に再度逮捕されてしまったら、その後はどうなってしまうのかご存じでしょうか。本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が、執行猶予期間中に逮捕された場合の流れや、弁護士に相談するメリットについて解説します。
1、執行猶予とは
執行猶予とは、一定期間刑の執行を猶予してその期間に罪を犯すことなく過ごすことができれば、刑を受けることがなくなる制度です。
たとえば「懲役1年、執行猶予3年」という判決が下された場合、執行猶予を取り消されることなく3年が経過すれば、懲役1年に服する必要がなくなります。
執行猶予が付く条件は、法律で定められています。具体的には、「前科がないこと」や「3年以下の懲役・禁錮・50万円以下の罰金」などの条件を満たした場合につく可能性があるでしょう。ただし、条件を満たしていたからと言ってすべての事件に執行猶予がつくわけではありません。
なお、執行猶予付き判決が下されて執行猶予期間を何事もなくすごしたとしても、裁判で有罪となった事実そのものが消えるわけではありません。
2、執行猶予期間中に逮捕されたらどうなるのか
執行猶予期間中に逮捕されたとしても、必ず執行猶予が取り消されるわけではありません。執行猶予期間中でないときに逮捕された場合と同様に、警察での取り調べや検察への送致などを経て、起訴されれば刑事裁判が開かれます。
刑事裁判で、再度執行猶予付き判決が下されれば、前回の執行猶予が取り消されることなく継続します。再度執行猶予期間中にさらに罪を重ねることがなければ刑務所に入らずにすむでしょう。
ただし、執行猶予期間中に罪を犯し再度執行猶予付き判決を勝ち取るためには下記の条件を全て満たさなければなりません。
- 今回の判決が「1年以下の懲役・禁錮」であること
- 情状に特に酌量すべきものがあること
- 前回の執行猶予判決に保護観察がついていないこと
これらの条件を満たしていると、再び執行猶予判決となる可能性があります。再度の執行猶予付き判決を得るためには刑事弁護実績が豊富な弁護士に弁護を依頼して、早い段階で弁護活動を開始することをおすすめします。
残念ながらこれらの条件を満たしていない場合は、再度執行猶予付き判決は得られず実刑判決となります。さらに前回の判決も執行されますので、2つの判決を合計した期間、刑務所に服役することになるでしょう。
再度執行猶予付き判決が下る可能性があるかどうかが判断できない、どうすればいいのかわからないときは、躊躇せずに弁護士に相談してください。
3、執行猶予期間中に逮捕された場合の流れ
執行猶予期間中に逮捕された場合の流れは、基本的には執行猶予期間中でないときに逮捕された場合と変わりません。
逮捕後、72時間は警察と検察による身柄拘束が続き、その後検察官が「勾留請求」を行い、裁判所が認めれば最大20日間の勾留がスタートします。証拠隠滅や逃亡の危険性がないと認められれば勾留を受けることなく、在宅事件扱いとなり身柄が解放されて自宅に帰ることができる可能性もあるでしょう。
ただし、執行猶予期間中に再び罪を犯すことは常習性などの点で悪質性が高く逃亡の危険性があるなどと判断され勾留されてしまう可能性があります。また、起訴が決定した後の「保釈請求」も認められないケースも少なくありません。1つの罪に対して勾留は最大20日間続きます。勾留20日以内に検察官は起訴不起訴を判断して、起訴と判断されると、さらに刑事裁判が終わるまでの期間中も身柄が拘束されます。被告人としての勾留は最初は2か月が期限ですが、1か月ずつ更新されていきます。つまり、保釈が認められなかったら身柄が拘束され続ける可能性があるのです。
逃亡等の危険性がなければ保釈は認められると考えられますが、執行猶予中に罪を犯し、逮捕されてしまうと、「逃亡や証拠隠滅の危険性がないこと」の証明が厳しくなります。保釈請求を成功させるためには、早期に弁護活動を開始しておくことが非常に重要です。
なお、起訴されずに不起訴処分になった場合は、直ちに身柄は解放されます。新たに逮捕された罪については裁かれないため、執行猶予は継続します。たとえば常習性が高いというわけではない情状が酌量できる状態で起きた軽微な犯罪で、被害者との示談が完了しているなどの場合は不起訴処分になることもあります。ただし、個人が状況に適した対応をすることは非常に難しいでしょう。
4、再犯率が高い犯罪とは
警察庁の統計によると、平成29年に刑法犯として検挙された方の中、再犯者が占める割合は48.7%と非常に高い水準でした。初犯者がそもそも減少していることもあり、この20年近くで再犯者率は右肩上がりで急増しているのです。
検挙された罪別で、刑法犯による前科の有無の構成を調べた統計(道路交通法違反を除く)によると、前科がある方が手を染めた割合が高い罪名は、恐喝、強盗、詐欺と続くことがわかります。特に恐喝罪については、全検挙者数における前科がある方の割合が58.9%と、非常に高い傾向があるようです。
さらに恐喝で検挙された方のうち全体18.3%が、過去にも恐喝で有罪判決を受けているのです。このように、刑法に触れる同じ罪を再度犯して検挙された者が多い罪名は、多い順で窃盗、恐喝、詐欺、傷害・暴行、強盗、強制わいせつと続きます。
刑法犯以外では「覚せい剤取締法違反」で検挙された方の再犯率は非常に高いことが知られています。覚せい剤取締法違反で検挙された全検挙者数のうち66.2%が過去に覚せい剤取締法違反で逮捕されています。さらに痴漢型(条例違反に該当)の性犯罪についても、36.7%の方が過去になんらかの性犯罪によって前科がついていることがわかっています。自らの意思だけで更生することは難しい犯罪があることがこの数字からも理解できるでしょう。
病気が原因で罪を犯した場合は、早い段階で専門家に相談した上で治療やサポート体制を整えてください。過剰に重い罪が課されることによる治療の中断を回避できる可能性が出てきます。
5、執行猶予期間中に逮捕されたら弁護士に依頼すべき理由
執行猶予期間中に逮捕された場合は、迅速な弁護士への依頼が必要不可欠です。ここでは、弁護士に依頼すべき理由を説明いたします。
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(1)早期に示談交渉がスタートできる
執行猶予期間中に罪を犯した場合、情状酌量を得るための弁護活動が必要不可欠です。情状酌量とは、本人が反省していることや被害者との示談が完了していること、前科がないことなどの条件をクリアしている場合に、裁判官の裁量によって刑が軽減されることを言います。
過剰に重い刑を科されないようにするためには、被害者がいる事件においては被害者との示談交渉は必須です。被害者と早期に示談するためには逮捕されてから早い段階で被害者とコンタクトを取り示談交渉をしてください。しかし被害者の連絡先は、加害者サイドに知らされることはありません。示談をしたくても物理的に不可能なケースも多く、また加害者や加害者家族が直接交渉しようとすることで事態が悪化するケースは少なくありません。
その点、弁護士であれば、早期に示談成立を目指した活動が行えます。また、不当な条件で示談を成立させることがないよう対応することができます。 -
(2)重すぎる処罰を受けないよう適切な弁護活動を行う
また、執行猶予期間中に罪を犯した場合に、再度執行猶予付き判決を勝ち取るためには、厳しい条件をクリアしなければなりません。
しかし、不起訴処分となれば、刑事裁判は開かれず刑に処されることはありません。これまでついていた執行猶予も継続されるため、残された期間に罪を犯さなければ、刑務所に服役する必要はないでしょう。
そこで、執行猶予期間中に逮捕されたときは、まず不起訴処分を目指すことになります。逮捕直後から不起訴処分に向けた弁護活動をスタートするとともに、示談交渉とともに、再度罪を犯さないための体制作りも重要となります。弁護活動だけでなく本人のサポート体制の構築に向けたアドバイスを行うなど、逮捕後の対応を全て依頼できるのは、刑事事件に関する知見が豊富な弁護士です。まずは相談することをおすすめします。
再度罪を犯した方にとっては、実刑を免れることと共に、再び犯罪に手を染めないように家族を含めた周囲の協力が大切です。それらを総合的に対応できる弁護士を探すことが、更生への第1歩です。
6、まとめ
執行猶予期間中のご家族が逮捕された方は、「すぐに刑務所に入れられるのか」と不安になるかもしれません。しかし、執行猶予期間中だからといってすぐに刑務所に服役しなければならないのではなく、通常の逮捕と同様に勾留、刑事裁判を経て、刑務所に服役するかどうかが決定します。
前述の通り、再度執行猶予付き判決を言い渡されれば、刑務所に服役せずに済みます。しかし、実刑判決が出た場合は、両方の刑期を合計した期間、刑務所に服役しなければなりません。過剰に重い刑を科せられてしまう事態を避けるためには、弁護士に依頼して早期に示談を完了させ、再犯防止に向けた体制づくりの構築が必要不可欠です。
ベリーベスト法律事務所 堺オフィスでは、状況をお伺いした上で個別の状況に合わせた最適な対策をアドバイスします。お気軽にご相談ください。
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