弁護士が解説! 初犯でも実刑判決を受ける場合はあるのか
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令和元年6月、大阪府警堺警察署が堺市内で発生した特殊詐欺事件に関連しているとみられる指名手配中の男を逮捕したという報道がありました。
もし、あなたの家族が思いもよらず突然逮捕されてしまったとすれば、どうすればいいでしょうか? どのような刑罰を受けるのか、逮捕歴もなく初犯であったとしても、実刑判決を受けるおそれがあるのか、心配をするのは当然のことです。
そこで、今回は初犯でも実刑判決を受ける場合があるのかについて、堺オフィスの弁護士が解説していきます。
1、実刑判決と前科
身内が逮捕された場合、どのような罰を受けるのか、前科がついてしまわないかと不安になることでしょう。しかし、「実刑判決」や「前科」という言葉をニュースなどで知っていても、それがどのような状態を表すのかを正確に知っている方は少ないのではないでしょうか。
そこで、まずこの言葉について説明していきます。
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(1)実刑判決
実刑は懲役や禁錮など、身体を拘束される「自由刑」で執行猶予が付かなかったものを対象とした用語です。罰金や科料といった刑罰は対象となりません。つまり、実刑判決とは「直ちに刑務所に収監する」という判決になります。
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(2)執行猶予
執行猶予とは、刑罰の執行を一定期間猶予するという意味です。
つまり、執行猶予付き判決を得た場合、その期間中に再び罪を犯す等して執行猶予が取り消されない限り、刑務所に収監されることはありません。ただし、執行猶予付き判決を得るには条件があります。条件については後述します。 -
(3)前科
前科は、刑法などの用語ではありませんが、一般的には確定判決で刑の言い渡しを受けたことをいいます。
たとえば、「懲役5年の実刑判決」、「懲役3年、執行猶予2年の判決」、「罰金50万円の判決」などのように、刑の言い渡しを受けた場合は「前科がついた」といえます。
2、初犯でも実刑になる?
判決が下される際、「執行猶予の対象となるか?」は重要な問題です。身柄の拘束を受ける期間が延びれば延びるほど、日常生活に戻る時期が遅くなり、社会復帰が難しくなる可能性が高まるためです。
前述のとおり、執行猶予付き判決を下されるためには一定の条件があります。刑法第25条1項の規定によると、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金刑を受けた場合、情状により1〜5年以下の範囲で執行猶予を付することができるとされています。
つまり、法令で刑罰の下限が3年を超える犯罪であれば、たとえ初犯であっても減刑されない限り確実に実刑判決を受けます。
また、刑法第25条の規定では「情状により」という条件となっています。情状とは、被告人の性格・年齢・境遇・犯罪に至った背景や経緯などをもとに総合的に判断されるものです。
刑事裁判における情状は、裁判官が自由な心証に基づいて判断を下しますが、次のような事情があれば心証が悪くなり、実刑判決を受ける可能性が高まります。
- 犯行が悪質、身勝手で、酌量する余地がない
- 罪に対して反省の色が見られず、再犯の危険性が高い
- 身寄りがなく、社会生活を続けながらの更生に期待できない
執行猶予は、刑法第25条の条文でも「することができる」と明記されているとおり、必ず猶予が認められるというわけではありません。また、ここで説明した条件に当てはまらないとしても、裁判官が実刑に処するべきだと判断すれば、たとえ初犯であっても実刑判決が下される可能性があります。
3、逮捕後の刑事手続きの流れ
刑事事件で逮捕されてしまった場合、次のような流れで手続きが進められます。
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(1)逮捕
警察によって身柄を拘束され、事件に関する取り調べを受けます。警察は、逮捕から48時間以内に身柄を釈放するか、または検察官に身柄を引き渡すかを判断します。
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(2)送致
警察から検察官へと身柄が引き渡されることを送致と言います。検察官は被疑者の取り調べを行い、送致から24時間以内に身柄の拘束を続ける必要があるかを判断します。さらに身柄の拘束をしたまま捜査する必要があると判断した場合は裁判所に対して勾留請求を行い、身柄拘束の延長を求めます。
逮捕から勾留の有無が決定する最長72時間は、たとえ家族であっても面会はできません。 -
(3)勾留(こうりゅう)
裁判所が勾留を認めた場合、原則10日間、最長で20日間の身柄拘束が継続します。
もちろん勾留は無差別に行われるものではありません。まず、被疑者が罪を犯した嫌疑があることが第1条件になります。そのうえで、住所不定の場合や証拠隠滅、逃亡のおそれがある場合に限り、勾留が行われます。 -
(4)起訴
勾留満期を迎えるまでに、検察官は起訴を判断します。刑事裁判が提起された時点で被疑者は被告人となり、引き続き被告人勾留を受けます。
刑事裁判が行われ、犯罪事実の有無や量刑が審理されます。刑事裁判の最終回では、無罪か有罪か、また有罪であれば量刑も言い渡されます。
4、実刑判決や前科のデメリット
刑事事件を起こして実刑判決を受けたり、刑罰が決定して前科がついたりすると、次のようなデメリットがあります。
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(1)実刑判決のデメリット
実刑判決を受けてしまうと、刑務所に収監されます。長期間にわたって社会生活から隔離されるため、会社や学校に通うことはできません。解雇や退学といった厳しい処分を受ける可能性が高くなります。
また、社会的な反響が大きな事件では、判決の結果まで報道される場合があります。ニュースなどで報道されてしまえば、近隣住人にも逮捕や有罪判決の事実が知れ渡ってしまい、ご家族にも精神的な負担が強いられるおそれがあります。 -
(2)前科がつくことのデメリット
前科がついてしまうと、一定の職業に就くことが規制されます。たとえば、試験に合格して医師免許を取得しても、前科の内容次第では免許が保留される場合があります。
なお、前科は公開されず、また特定の機関を除いては照会もできないため、一般企業が簡単に知ることはできません。ただし、事件が報道されていれば、インターネットで氏名を検索するだけで事件の概要が明らかになってしまう時代ですから、採用を見送られる可能性は否定できないでしょう。
5、実刑判決や前科を防ぐために弁護士に相談を
刑事事件で逮捕された場合、実刑判決や前科がついてしまうのを防ぐには、逮捕から72時間以内が最初の勝負だといわれています。この72時間以内に犯罪の疑いがない、犯行内容が軽微であるなどの判断がなされれば、そのまま釈放される可能性があります。また、被害者との示談を成立させて反省の意がくみ取られれば、被害届の取り下げも期待できます。
しかし、これら一連の行動を、法律や刑事事件の流れを知らない方が、短期間に行うことは難しいものです。そこで、逮捕された場合は早急に弁護士を雇い、今後の方針を相談する必要があります。
被害者との示談成立の有無は、刑罰の決定において非常に重要なポイントとなります。警察や検察、裁判官は、被害者の処罰感情を重視するためです。しかし、多くのケースで、加害者や加害者家族が直接被害者と示談交渉することは難しいでしょう。第三者であり、刑事事件における示談交渉の経験が豊富な弁護士に任せたほうが、スムーズに行えます。
依頼を受けた弁護士は、示談交渉のほかにも、警察や検察に随時働きかけることができます。刑事事件は時間との勝負です。ご家族が逮捕された場合は一刻も早く弁護士に相談することが望ましいでしょう。刑事事件に対応した経験が豊富な弁護士であれば、早期釈放や、起訴猶予を目指した弁護活動を行います。
6、まとめ
これまでに犯罪経歴がない初犯であっても、容疑をかけられている犯罪の内容によっては執行猶予の条件に合致せず、いきなり実刑判決を受けてしまうおそれがあります。
実刑判決を避けるには、被害者との示談を成立させ、検察官の起訴を回避することが急務になります。なお、起訴され刑事裁判に発展したとしても、示談が成立しているかどうかは重視され、成立していた場合は執行猶予付きの判決が期待できます。
突然、家族が犯罪の容疑で逮捕されてしまった場合は、まずは弁護士に相談してください。ベリーベスト法律事務所 堺オフィスでは、刑事事件の弁護や被害者との示談成立の実績が豊富な弁護士が、突然の逮捕にお困りのあなたを強力にサポートします。
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