警察官のバイクを殴打したらどうなる? 公務執行妨害への疑問や対処法を解説

2019年03月26日
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警察官のバイクを殴打したらどうなる? 公務執行妨害への疑問や対処法を解説

平成29年11月、堺市内で警察官のバイクをバットで殴打した男が公務執行妨害罪容疑によって現行犯逮捕されました。事件当時、堺市内では強盗事件が発生しており、警察官が目撃証言に似た男を発見して職務質問していたさなかだったと報道されています。

公務執行妨害罪は、公務員への直接的な暴行や脅迫だけでなく、バイクを殴打するなどの間接的な暴行においても成立し得る犯罪です。あなたの家族が警察官への公務執行妨害罪で逮捕されたと聞けば、前科がつくのか、どのような罰を受けるのか、警察官相手だから罪が重くなるのかなど、さまざまな不安や疑問を抱えるでしょう。

この記事では、警察官への公務執行妨害をテーマに、犯罪の概要や疑問点、家族ができることなどを、堺オフィスの弁護士が解説します。

1、公務執行妨害はなぜ犯罪になるのか

公務執行妨害は、刑法第95条で定められている犯罪で、職務を執行中の公務員に対して、暴行または脅迫を加えると成立します。

たとえば、以下のようなケースが該当すると考えられるでしょう。

  • ケンカを止めに入った警察官を突き飛ばした
  • 市役所で職員の対応に腹を立て、胸ぐらをつかんだ
  • 自宅監査に訪問した税務署員を玄関先で強く押し返した
  • 泥酔して地面に倒れ、駆けつけた救急隊員を殴った


一般的に公務執行妨害罪と聞くと警察官相手の犯罪とイメージされる方が多いですが、公務員は警察官に限らず、多数の職種があります。公務員の職務を補助する立場の人や、公務の委託を受ける民間業者なども、ここでいう公務員に該当することがあります。

なお、公務員個人を守るために公務執行妨害が規定されているわけではありません。公務員が行う職務は、国もしくは自治体によって依頼を受けたものです。つまり、「国民の生活にとって必要な職務の執行を妨害」したことやしようとしたことを犯罪と規定することによって、国民生活全体を守ろうとしています。

2、職務外と職務中の違いとは

同じような行為をしても、公務員が職務外か職務中かによって問われる罪が変わります。

たとえば、警察官がプライベートで居酒屋に来ていれば職務外です。酔っぱらって絡んだ相手がたまたま警察官だった場合、暴行を加えていれば暴行罪が成立しますが、公務執行妨害罪にはあたりません。単純な暴行罪の罰則は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。

一方、冒頭の事例のように職務質問中であれば明らかに公務中にあたります。したがって、暴行を加えれば公務執行妨害容疑で逮捕される可能性があるでしょう。公務執行妨害として有罪になれば「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」に処されます。

暴行罪と公務執行妨害罪とを比較すると、後者のほうが重い罰則だと理解できるでしょう。仮に、職務外の警察官に加えた暴行と同じ程度の暴行だったとしても、警察官が職務中であれば罪が重くなるわけです。

3、バイクをバットで殴打するのがなぜ公務執行妨害?

公務執行妨害罪の具体例を見ると、公務員の身体へ直接暴行することが罪にあたると思われるかもしれません。しかし冒頭の事例では、警察官の身体ではなく、バイクを殴打したことで公務執行妨害罪に問われています。なぜなのでしょうか。

バイクを殴打すること自体は、警察官の身体へ直接暴力を加えているわけではありません。しかし、公務執行妨害でいうところの「暴行」は、暴行罪における暴行よりも広く捉えられています。暴行が警察官の身体へ向けられている必要はありませんし、現実に公務を妨害できたという事実も求められません。公務を妨害しようとしたという行為が罪に問われることになります。

警察官のバイクを殴打するほか、押収された証拠物を壊す行為も公務執行妨害の暴行に該当します。警察官にツバを吐きかけたりするなどのケースでも公務執行妨害罪にあたることがあります。

4、警察官への公務執行妨害は処分が厳しくなる?

警察官への公務執行妨害行為は、他の公務員への妨害と比較し、処分が厳しくなりやすいといわれているようです。ただし、相手が警察官だからといって、厳しく罰せられる法的根拠はありません。もし、理由があるとすれば、次の2点が考えられるでしょう。

ひとつは、警察官に対する公務執行妨害行為は、何か別の犯罪が疑われる者への職務質問や任意同行を求める際に発生することが多い傾向があるためです。元々犯していた罪に対する罰則が重かったことで、結果的に厳しく処分されることになる可能性があります。

たとえば冒頭の事例では強盗が疑われています。強盗罪の罰則は「5年以上20年以下の懲役」となっており、公務執行妨害罪より重い罰則です。当初の逮捕容疑は公務執行妨害罪でも、取り調べの中で強盗罪が成立すれば、強盗罪の法定刑を根拠に裁かれることになります。つまり、逮捕された本人が別の罪を犯していれば、その罪が何かによって、最終的な処分が重くなることも考えられるでしょう。

また、警察官は職務の性質上、ケンカの通報を受けて駆けつけた、パトロール中に暴れている人物を発見したなど、騒動のさなかへ立ち向かう場面が多くあります。暴行や脅迫が起こりやすい状況で職務にあたることになりますし、傷害など別の罪が発生することもあるでしょう。なお、傷害罪に定められている罰則は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。公務を妨害しようとした結果、相手がケガをすれば、傷害罪で罪が問われることになるでしょう。結果、厳しい処分事例が多いように感じるのかもしれません。

5、事件解決に向けて示談が有効なのか?

刑事事件の中には示談が有効に働くものが多数あることが知られています。家族としては、警察官と示談を成立させ、事件解決を図りたいと考えるかもしれません。しかし、公務執行妨害罪は示談ができないという大きな特徴を持っています。

前述でも説明したとおり、公務執行妨害罪の被害者は「公務そのもの」であり、公務員個人ではないためです。国や地方自治体、さらには国民全体が被害者と言い換えることもできるかもしれません。特定の相手が存在しないため、示談交渉そのものができないことになります。

もっとも、職務を妨害する際に傷害罪などの別の罪を犯していれば、その罪に関しては理論上示談が可能です。しかし、犯罪者を検挙する立場にある警察官が個別の示談に応じる可能性は極めて低いといえるでしょう。

6、家族ができること

示談ができない以上、家族は他の方法で早期の事件解決に向けて動き出す必要があります。方法としては、本人に反省を促すこと、家族が身元引受人になり証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを主張していくことなどが考えられます。

公務執行妨害罪は、犯情が軽微なものであれば、本人がしっかり反省をすることで、再犯の可能性が低いと評価され、早期の身柄釈放につながります。家族の存在によって身元が明らかになれば、長期間の身柄拘束は必要がないと判断されることもあるでしょう。

しかし、逮捕から最長72時間は、家族であっても原則本人と面会できません。それでも、弁護士であれば自由な面会が可能です。したがって、状況を本人に確認したり説得をしたりするためには、弁護士に対応を依頼することが現実的な方法となります。

弁護士であれば、反省文や意見書の提出など捜査機関への働きかけのほか、捜査に違法性がある場合は犯罪が成立しないと主張することも可能です。まずは刑事事件対応の経験が豊富な弁護士に相談したほうがよいでしょう。

7、まとめ

もしあなたの家族が警察官への公務執行妨害容疑で逮捕されてしまえば、起訴か不起訴化が決まるまでだけでも最長で23日もの間、身柄を拘束されるおそれがあります。会社や学校に影響も与えてしまうこと考えられるでしょう。

家族としては「どうすればよいのか分からない」と困惑してしまうかもしれませんが、逮捕されてしまった家族本人は行動できません。家族であるあなたがすぐにでも対応をとったほうがよいでしょう。まずは冷静になり、できるだけ早く弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所・堺オフィスの弁護士は、不当に重い罪が科されないよう全力でサポートいたします。まずはご連絡ください。状況を見極め、適切な弁護活動を行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています