放火容疑で逮捕された家族のためにできることはあるのか
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- 放火罪
放火は長年、火災原因の1位、2位を争うほど多く発生しています。
出典元:総務省消防庁「平成29年(1~12月)における火災状況(確定値)」
堺市でも、平成29年度には54件の放火(疑いを含む)が発生し、前年の平成28年度と比べ20件も増加しているという報告があるほどです。
出典元:堺市消防局「放火発生マップ」
中には、自分の子どもや家族が近所の家に放火をしてしまい、現行犯逮捕されてしまった。家族として何かするべきことはないかと思い、お困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は放火罪とはどのようなものか、放火罪の刑罰はどの程度の重さなのか、また放火罪で逮捕されたらどのように対処すべきかについてベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説していきます。
1、放火罪と失火罪の違いとは
放火罪と失火罪のもっとも大きな違いは、出火の原因が「故意」によるものか、それとも「過失」によるものなのかということです。
以下で詳しく解説していきます。
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(1)放火罪とは
放火罪は、故意に出火させることです。
わざと火をつけ、出火させる行為は放火罪になります。また、発火するような仕組み、たとえばわざと燃えるような状況を作り出し、火災を発生させた場合でも放火罪にあたります。すでに火がついている所に燃焼剤を注ぐなどして既発の火力の勢いを増大させたような場合も放火罪で処罰されます。
消化義務を負う者が、目の前で小さな出火があり、燃え広がるおそれがあったのにもかかわらず、消火しない、消防署への通報をしないといった消化義務を怠った場合も放火罪に問われるおそれがあります。 -
(2)失火罪とは
一方で失火罪とは、過失によって出火させてしまうことです。コンロを消し忘れたまま外出する、寝タバコしてしまったなど、火の取り扱いを誤って出火させてしまった場合は失火罪で処罰されます。火遊びなどで出火させてしまった際も、失火罪に当たり得ます。
2、放火罪と失火罪の刑罰について
故意に放火している放火罪の方が、刑罰が重いことは想像できるかと思いますが、放火罪と失火罪では刑罰の重さはどう変わってくるのでしょうか。
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(1)放火罪の刑罰は?
放火罪は放火した対象によって刑罰が変わってきます。
①人がいる建物→現住建造物等放火罪(刑法第108条)
法定刑は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役となります。
②人がいない建物であるが、人が住居に使用している建物→同上(刑法第108条)
放火の際、建物内に人がいなくても、その建物が人が住居に使用しているものであれば、人がいる建物に放火した場合と同じ罪の重さとなり、法定刑は死刑または無期もしくは5年以上の懲役となります。
③人がいない建物(人が住居に使用している建物でもない)→非現住建造物等放火罪(刑法第109条)
法定刑は、2年以上の有期懲役となります。
ただし、自己所有物に放火した場合は6ヶ月以上7年以下の懲役と軽減されており、さらに、公共の危険が生じなければ罰しないとされています。
④建物以外への放火→建造物等以外放火罪(刑法第110条)
法定刑は、他人の所有物を焼損・公共の危険を生じさせれば、1年以上10年以下の懲役とし、自己所有物の場合1年以下の懲役または10万円以下の罰金とされています。
現住建造物等放火罪は、放火罪の中でもっとも重い刑罰が規定されています。
非現住建造物等放火罪では、放火した建物が自分の所有物か、他人の所有物なのかによって刑罰の重さは変わります。
また、建造物等以外放火罪では、放火によって不特定・多数人の生命・身体・財産に脅威を及ぼす状態(公共の危険と言います。)が生じたことが犯罪の成立する要件となっています。公共の危険が生じなかった場合は、放火罪ではなく、器物損壊罪等で処罰されるでしょう。 -
(2)失火罪の刑罰は?
次に失火罪について見ていきましょう。
失火罪の法定刑は、50万円以下の罰金です(刑法116条)。
さらに失火罪が規定されている刑法116条は、1項と2項に分けられており、それぞれ要件が異なっています。
刑法116条1項
焼損したものが現住建造物等(人がいる建物、人がいなくても人が住居に使用している建物、刑法108条に規定されている物)または他人所有の非現住建造物等(刑法109条1項に規定されている物)の場合です。
刑法116条2項
焼損した物が自己所有の非現住建造物等(刑法109条2項に規定されている物)または建造物等以外の物(刑法110条で規定されている物)の場合です。
2項の場合は、「公共の危険」が発生したことが犯罪成立の要件となっています。1項の場合は、公共の危険の発生は不要とされています。 -
(3)失火罪でもし人を死亡させてしまったら
失火罪は焼損が生じた時点でその罪が成立しますが、失火により人を死亡させた場合、失火罪に加えて以下の刑罰も適用される場合があります。この場合、両方の罪で裁かれる可能性があります。
①重過失致死傷罪(刑法211条)
重大な過失によって人を死傷させた場合、法定刑は5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金となります。
②業務上過失致傷罪(刑法211条)
業務上必要な注意を怠り、人を死傷させた場合、法定刑は5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金となります。
③過失致死罪(刑法210条)
過失により人を死亡させた場合、法定刑は50万円以下の罰金となります。 -
(4)失火による民事責任について
失火による刑事罰は、以上のような罰則がありますが、失火により発生した損害に対する民事的な責任(失火責任法に基づく損害賠償)はどうでしょうか。
失火による民事的な責任は、失火責任法と呼ばれる法律で規定されています。
失火責任法とは、過失で火災を起こしてしまった場合(失火の場合)、その民事責任(損害賠償責任)を制限する法律です。
通常、故意または過失によって他人の財産に損害を与えた場合、民法709条により不法行為による損害賠償責任を負います。
しかし、失火責任法では重大な過失が認められない限り、失火による損害賠償責任を負わないと定めています。
逆にいうと、重大な過失があった場合は、損害賠償責任が発生するということです。
失火責任法において賠償責任が生じる重大な過失とは、具体的に、寝タバコで火を起こした、石炭ストーブの残火のある灰をダンボール箱に投棄し火災が発生したなどといった行為が重過失にあたるとされています。
3、放火は殺人と同罪?
先にお伝えしたとおり、放火罪といっても対象物によって刑罰の重さは変わってきます。
人がいる建物に放火した場合は、現住建造物等放火罪(刑法第108条)に該当し、死刑または無期もしくは5年以上の懲役が科せられます。
殺人罪の刑罰もこれと同様で、死刑または無期もしくは5年以上の懲役が科せられます。
放火と殺人は同罪ではありませんが、現住建造物等放火罪の実刑が下ると、殺人罪の法定刑と同じ非常に重い刑罰で処断されます。
4、放火罪で逮捕された後の流れ
放火罪は刑事事件です。放火罪に限らず、基本的に刑事事件は以下のような流れで進んでいきます。
- ①逮捕
- ②検察庁への送致
- ③勾留
- ④起訴・不起訴の判断
放火罪で逮捕された場合、警察は48時間以内に事件を精査し、身体と事件記録一式を検察庁へ回付し(送検と言います。)、その後の検察では24時間以内に事件を精査し、必要であれば勾留請求を行います。
最大で72時間の身柄が拘束された後、検察官からの勾留請求により裁判官が勾留を決定すると10日間身体が拘束され、勾留が延長となるとさらに10日間(合計で最大20日間)にわたり勾留されてしまいます。
勾留後、この20日間で起訴・不起訴について検察官は判断することになりますが、起訴されれば99.8%有罪となり、有罪となると前科がついてしまいます。
5、逮捕後の起訴・不起訴について
放火罪は非常に重い犯罪であり、ほぼ確実に起訴されます。
場合によっては、放火未遂・被疑者が放火したという十分な証拠が得られないという理由で不起訴処分が下されるケースもあります。
放火となると、起訴されるケースが高いといわれていますが、起訴された場合、執行猶予はつくのでしょうか。
たとえば、次のようなケースでは執行猶予がつく可能性があります。
- 犯行時心神耗弱状態だった
- 人が死傷しておらず、焼損の規模が小さい
- 被害者と示談が成立している
- 初犯で強く反省している
- 再犯の可能性が低い
ですが、あくまでも最終的に執行猶予を付するかどうかを決めるのは、裁判所の判断によります。上記のケースが必ずしも執行猶予がつくとは限りません。
6、放火罪で逮捕されたときの対処方法
ご家族からすれば、放火で自分の子どもや家族が逮捕されたとなると、気が動転してどうしてよいか分からなくなるかもしれません。
しかし、ご家族が逮捕されたらできるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
逮捕されてから48時間以内は、たとえご家族であっても被疑者に面会することはできません。
弁護士だけが、被疑者と面会することが可能です。弁護士が本人と直接話をすることで状況を把握し、釈放へ向けて最適な対策を講じることができます。
また、弁護士が早い段階から弁護活動を行うことで、相手方に示談交渉することが可能です。示談が成立すれば、不起訴処分を獲得できる可能性が高まりますので、なるべく早く相手と示談をすることも非常に重要となります。
7、まとめ
以上、放火罪で逮捕されたらまずやるべきことについてお伝えしました。
家族が放火で逮捕されたらまずやるべきことは、弁護士に依頼することです。
上記でご説明してきたとおり、放火の法定刑は重く、実刑を受ける可能性も高い傾向にあります。
そのため、ご家族だけの力だけで解決に導くのは非常に困難だといえるでしょう。
放火の場合は、被疑者国選または被告人国選弁護人がつくのが通常ですが、ご自身で弁護士を選ぶことも可能です。
ケースにもよりますが、刑事事件の経験豊富な弁護士が弁護につくことで不起訴処分を獲得できる可能性が高くなります。
刑事事件は時間との勝負ともいわれるほど、スピードが命だといわれています。
ご家族が逮捕され何をどうしてよいか分からない方は、まず弁護士に相談し、今後の対策を立てていくことが、実刑を受けない一番の近道になるといえるでしょう。
ご家族が放火罪や失火罪で逮捕されてしまい、お困りの方はベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています