介護をした親族が相続で寄与分をプラスしてもらうには? 弁護士が解説

2020年04月28日
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介護をした親族が相続で寄与分をプラスしてもらうには? 弁護士が解説

高齢化が進む日本では同時に介護問題が深刻化しており、堺市も例外ではありません。堺市における65歳以上の要介護者認定者数は、平成29年9月末時点で5万1513人にものぼっており、今後も増加が見込まれています。

長期間におよび介護をしてきた家族が亡くなったとき、生前の介護を担ってきた親族は、この介護の貢献度を財産の相続に反映してもらいたいと考えるのも自然なことでしょう。
法定相続人以外の人が介護を担っていた場合に、財産を受け取る術があるのかも、気になるかもしれません。

介護などの貢献が相続に影響を与える「寄与分」については、近年の遺産相続で大きな問題となっており、より公平な相続を期するために民法改正がなされました。「寄与分」に関する手続きや証拠について解説するとともに、令和元年7月から施行された民法改正について堺オフィスの弁護士が説明します。

1、「寄与分」とは?

「寄与分」とは、相続人が被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合の貢献度をいいます。

寄与分が認められる人は、無償の療養看護や労務を継続的に提供した「相続人」です。

相続人とは、相続権を法的に認められた人のことで、配偶者、直系卑属(子ども、孫など)、直系尊属(親、祖父母など)、兄弟姉妹のうち高順位者の者を指します。
法律では相続人ごとの相続割合(財産の取り分)が定められていますが、寄与があった場合には相続割合にプラスして財産を受け取ることができます。
寄与分の条件は、民法第904条の2第1項第1号に以下のように定められています。

民法第904条の2第1項第1号

共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2、寄与分を事例で確認

たとえば、夫、妻、長男、次男の4人家族で、夫が亡くなり、相続財産が5000万円ある例で確認していきましょう。

相続人と、法定相続分による相続額は次のようになります。
※かっこ内は相続割合です。

<相続財産総額 5000万円>

  • 夫(被相続人)
  • 妻(被相続人の配偶者)……2500万円(1/2)
  • 長男(被相続人の直系の子)……1250万円(1/4)
  • 次男(被相続人の直系の子)……1250万円(1/4)


このケースで、夫は生前重い病を患っており、その際誰よりも支えてあげたのが次男だったとしましょう。
具体的には、毎日看護をおこなう、治療費のほとんどを出すといった支援です。
妻や長男は被相続人に多少の支援しかしていないにもかかわらず、相続割合に基づいて受け取ることができますが、次男としては納得できないことがあるはずです。
こうした不公平感をなくすための制度が「寄与分」です。

では上記のケースで、次男が直接支援してきた金額や、提供した無償労務を換算した額が500万円あったと仮定します。
相続財産5000万円から寄与分を差し引きます。
残り4500万円を、法定相続分に基づいて計算すると次のようになります。

  • 妻……2250万円(1/2)
  • 長男……1125万円(1/4)
  • 次男……1125万円(1/4)+寄与分500万円=1625万円


次男は、法定相続分に加えて寄与分が加算された額を相続することができます。

3、寄与分を主張するための手続きは?

では、どのような手続きを経て寄与分を主張していくのか確認していきましょう。

  1. (1)遺産分割協議

    寄与分の存在と金額については、遺産分割協議と呼ばれる話し合いによって、法定相続人全員の承認を得なくてはなりません。
    しかし、寄与者以外の法定相続人にとっては、寄与分が認められることで自分の取り分が減ることになりますので、話し合いでもめてしまうケースもありえます。

  2. (2)家庭裁判所に遺産分割調停・処分審判を申し立てる

    遺産分割協議で話がまとまらない場合は、家庭裁判所へ申し立てをおこない、調停、審判などによって最終的な相続分が決まることになります。
    家庭裁判所では、寄与の程度や時期、相続財産などを総合的に考慮し、寄与分の認定と金額の決定をおこないます。

4、寄与分の証拠となるもの

単に主張さえすれば寄与分が認められるわけではなく、寄与をした証拠が必要となります。寄与の継続性や金額の裏付けとなる明確な証拠を複数揃えて証明していくことが大切です。

具体的には次のようなものが証拠となり得ます。

  • 家族経営店の帳簿、確定申告書、タイムカード
  • 療養・介護にかかった費用の領収書やメモ
  • 生活費や自宅購入資金を振り込んだ場合の明細書、通帳
  • 看護や介護をした場合の日誌、日記
  • 被相続人の健康状態が分かる診断書、カルテ、要介護認定書類
  • 介護のために仕事を休んだことが分かる勤怠書類


なお、寄与は親族として通常おこなわれる貢献では足りず、「特別な貢献」があったことを証拠で示す必要があります。
「特別な貢献」の考え方としては、無償か、少なくとも通常よりかなり低い報酬でおこなっていること、相当の負担を伴っていることが求められます。

5、令和元年7月施行の民法改正で寄与分はどうなる?

平成30年7月6日に成立した民法改正(一部を除き令和元年7月1日から施行)によって、「特別寄与料」の制度が新設されました。従来の寄与分では相続人以外の貢献を考慮されないことが問題視されており、その解消のために設けられた制度です。

  1. (1)特別寄与料のよくあるケース

    よくあるケースとしては、被相続人の介護を法定相続人である息子の代わりに、息子の嫁が担っていたような場合です。
    息子の嫁は法定相続人ではありませんので、どれだけ献身的な介護をしても、養子縁組や遺言などの手続きをしない限りは、原則として、直接財産を受け取る術がありませんでした。
    しかし、上記の改正によって、被相続人の息子の嫁の貢献が「特別寄与料」として認められることになりました。

  2. (2)特別寄与料が認められる範囲

    改正によって特別寄与料の請求が認められるのは、「配偶者」「6親等内の血族」「3親等内の姻族」です。
    具体的には次のような人たちであり、「特別寄与者」といいます。

    • 被相続人の子の配偶者(1親等の姻族)
    • 先順位の法定相続人がいる場合の兄弟姉妹(2親等の血族)
    • 被相続人の再婚相手の連れ子(1親等の姻族)


    あくまでも親族に限られますので、次の人たちは特別寄与者にはなりません。

    • プライベートでも親切にしてくれたヘルパー
    • 生活全般の面倒を見てくれた家政婦
    • 毎日様子を確認しにきてくれていた近所の人
    • 療養看護に努めた愛人
  3. (3)特別寄与料を請求できない場合もある

    特別寄与者であることが認められても、寄与に応じた対価を受け取れない場合があります。

    • 被相続人の生前に、すでに相応の対価を受け取っている
    • 被相続人が遺言書にて特別寄与者に財産を与えることを拒否している
    • 時効が成立している(相続の発生を知ってから6か月、相続開始から1年)


    特に時効についてはあまり猶予がないといえますので、特別寄与料の請求ができそうであれば、早めに行動に移す方がよいでしょう。また、対象者が相続人以外にも広げられた点を除けば、手続きや証拠の有無、認定の判断材料などは、従来の寄与分と大きく変わりません。特に遺産分割協議においては、相続人以外の立場であることから承認を得るためには、証拠を集め、早い段階で弁護士などのサポートを得ることが望ましいです。

6、まとめ

被相続人の生前に、介護などを通じて「特別な支援」をおこなっていた場合には、寄与分の請求を検討するべきです。民法改正による特別寄与料制度の新設によって、相続人以外の人にも請求権が発生したことも、押さえておきたいポイントです。

とはいえ、寄与分や特別寄与料は、他の相続人との争いの元となりやすいものです。そのため、多くの証拠の収集によって、客観的に認められるよう十分な準備をした上で交渉する必要があります。

不要な争いを避け、貢献に応じた財産をスムーズに受け取るためにも、弁護士に相談し、証拠収集に十分なアドバイスを得た上で、交渉することをおすすめします。親族同士の争いを避けるには、第三者である弁護士に交渉を託すことは非常に有効です。
ベリーベスト法律事務所 堺オフィスでは、相続全般について相談を受付けております。寄与分を含む相続問題でお困りであればご連絡ください。

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