独身の叔父叔母の相続│甥姪が相続人になったら知っておくべき知識

2022年08月30日
  • 遺産を受け取る方
  • 独身
  • 相続
  • 甥姪
独身の叔父叔母の相続│甥姪が相続人になったら知っておくべき知識

大阪府による国勢調査の分析結果によると、大阪府在住者のうち50歳前後までに婚姻歴がない方の割合(生涯未婚率)は、男性が3割弱、女性が2割弱となっており、20年前から倍増しています(令和2年国勢調査人口等基本集計結果・大阪府詳細版)。高齢化の進展と相まって、独身のまま年齢を重ねて亡くなる方が増えることを示唆するデータといえるでしょう。

独身の方であっても亡くなるともちろん相続が発生しますが、親子間の相続とは異なり、特殊な要因により相続が円滑に進まないケースも見られます。たとえば、独身の方が高齢になって亡くなると、近親者がほとんど亡くなっており、甥や姪が相続人となるケースも珍しくありません。

独身の叔父や叔母が亡くなって、甥や姪が相続人となるのはどのようなケースなのか、相続でどのような問題が起きる可能性があるのか、弁護士が解説します。

1、独身の方が亡くなった場合の相続のルール

相続の基本的なルールについて、独身の方が亡くなったケースを想定して解説します。
まずは、一般的な相続のルールを確認しましょう。

  1. (1)相続人の決め方

    民法では、相続人となる親族関係と、遺産相続をする優先順位を次のように規定しています。

    順位 親族関係 相続人の範囲
    第1順位
    • 実子だけではなく養子、また認知した婚外子も相続人となる。
    • 被相続人より先に亡くなっている場合は、孫やひ孫が代襲する。
    第2順位 直系尊属
    • 存命の父母、祖父母、養父母のうち親等が近い人が相続人となる。
    第3順位 兄弟姉妹
    • 親の実子だけではなく、養子や認知した婚外子も相続人となる。
    • 父母の一方が異なる「半血」の兄弟姉妹も相続人となる(ただし相続分は半分)。
    • 被相続人より先に亡くなっている場合は、その子が代襲する(代襲は一代限り)。

    優先順位は、文字通り相続できる優先度の高さで、1位の相続人がいる場合、2位以下に財産を相続する権利はありません

    なお、配偶者は必ず相続人となりますが、被相続人が亡くなった時点における法律上の婚姻関係の有無によって相続できるかが決まります。

    したがって、すでに離婚した元配偶者や内縁関係のパートナーは相続人にはなりません。子をもうけている場合はその子が第1順位の相続人となります。

  2. (2)遺言がある場合について

    相続手続きにおいて遺言は故人の最終的な意思として尊重されるため、遺言がある場合、基本的には遺言の内容に従って財産を配分することになります。

    遺言では誰に何を遺贈するのか、一部または全員の相続人の相続分をどうするのか、遺言者が自由に指定することが可能です。

    ただし、第1順位と第2順位の親族や配偶者には遺留分という権利が認められており、財産から最低限の取り分が保障されます。

    しかし、第3順位の兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言の内容によっては、遺産をまったく受け取ることができないということもありえます。

  3. (3)債務は均等に分割して請求される

    借金や保証債務などの債務も相続の対象となりますが、債務は遺言の有無にかかわらず、法定相続分に分割されて各相続人が引き継ぐことになります

    法定相続分とは民法が規定する相続割合のことで、配偶者がいない場合は同順位の相続人で均等の割合となります。

    遺言がある場合や遺産がそれほど多くない場合は相続に無関心になりがちですが、債務は数カ月が経過してから請求されることもあるため注意が必要です。

  4. (4)特別寄与料について

    相続人以外の親族が被相続人の療養看護や介護などに無償で尽力し、被相続人の財産の維持または増加に寄与していた場合は、相続人に対して特別寄与料を請求できる制度が令和元年よりスタートしています。

    特別寄与料は、6親等以内の血族または3親等以内の姻族にあたるけれども相続人ではない者に請求権があり、かなり広い範囲で認められる可能性があります。なお、血族とは血のつながりのある親族であり、姻族とは婚姻によって生じた親族のことです。

    独身の方が亡くなった場合、身近で介護などをしていた遠縁の親族から特別寄与料が請求される可能性についても意識しておいたほうがいいでしょう

  5. (5)独身の方が亡くなった場合の相続のルールについて

    上記した相続のルールを独身の方にあてはめた場合、遺言がない場合は、独身=配偶者がいないということです。

    つまり、実子ないし養子がいる方は子が、いない場合は存命であれば直系尊属(一般的には祖母)が、存命でない場合は兄弟姉妹(その代襲相続人である甥姪も含む)が相続人ということになります。

    特に子がいない独身の方については、遺言をしていないと、直系尊属(父母)よりも兄弟姉妹(甥姪)に相続が発生する可能性が高いことから、場合によっては「被相続人と生前全く付き合いのなかった方」が相続人になるという特殊性があります。

    以上のことから、以下は、甥姪が相続人となるケースにフォーカスして解説していきます。

2、甥姪が相続人となるケースとは

被相続人の甥や姪が相続人となるのは、遺言により遺贈を受ける場合を除いて以下の2つのケースが考えられます。

それぞれのケースについて解説します。

  1. (1)兄弟姉妹を代襲相続するケース

    甥や姪が相続人となるのは、第3順位の兄弟姉妹が相続人となり、さらに兄弟姉妹が先に亡くなるか相続権を失うことにより、代襲相続が起きるパターンです

    代襲相続とは、本来相続人であった人がすでに亡くなるか相続権を失っている場合に、相続人としての地位を子が引き継ぐことをいいます。兄弟姉妹の代襲相続は甥姪までの一代限りとされており、甥や姪の子への再代襲は発生しません。

    代襲相続の原因となる「相続権を失う」場合について、民法では次の2つが規定されています。

    • 廃除
      被相続人に対して虐待や重大な侮辱、その他著しい非行があった場合(兄弟姉妹に関しては、遺言により一切相続させないことが実現できるので、廃除はできない)
    • 相続欠格
      被相続人を死亡させるなど、相続に関して犯罪行為により不当な利益を得ようとするなどした場合


    なお、よく似たケースとして、兄弟姉妹が相続放棄をすることにより相続人ではなくなるパターンもありますが、相続放棄の場合には代襲相続は発生しません。

    甥や姪が代襲相続人となる条件をまとめると次のようになります。

    • ① 第1順位の相続人となる子や孫がいないこと
    • ② 第2順位の相続人となる父母や祖父母などの直系尊属がすべて亡くなっていること
    • ③ 第3順位の相続人となる兄弟姉妹が先に亡くなるか相続権を失っていること
  2. (2)被相続人と養子縁組しているケース

    子をもうけていない独身の方が、家系を継がせたり遺産を相続させたりする目的で甥や姪と養子縁組をすることがあります。

    養子は実子と変わらず第1順位の相続人になるため、被相続人と養子縁組が存続している甥や姪は、「被相続人の子」として無条件で相続人となります。

    なお、養子縁組をしても実の父母との関係がなくなるわけではないため、実の父母との関係でも第1順位の相続人であることに変わりはありません(特別養子縁組は除きます)。

3、遺産分割までの手続きの流れ

甥や姪が相続人となり、遺言がない場合の相続手続きの流れについて、遺産分割までの前半部分を解説していきます。

  1. (1)相続人の調査

    遺産分割はすべての相続人が関与する手続きで行う必要があります。

    そのため、相続人の調査は、自分が相続人であるかどうかだけではなく、相続人が誰と誰で、他に相続人はいないという段階まで戸籍をたどって確認する必要があります。

    甥や姪が代襲相続するケースでは、被相続人、被相続人の父母、被代襲者である兄弟姉妹(甥姪の親)について、出生から死亡までの戸籍を調査する必要があります

  2. (2)財産、債務の調査

    相続の対象となるのは、被相続人に属する財産と債務のすべてです。

    不動産や現金、貴金属などの動産、金融資産、さらに借金や保証債務などあらゆる財産と債務を遺品や書類などから調査します。

  3. (3)遺産分割協議

    相続人が複数人いる場合は、相続人全員で誰が何を相続して遺産分割するのかを協議します。

    遺産分割について、民法では「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」(民法906条)と規定していますが、具体的な方法や期限は決められていません。

    遺産分割は全相続人が合意に至れば成立しますが、相続人のうち一人でも反対者がいると成立しません。

  4. (4)遺産分割調停、審判

    遺産分割協議が調わない場合、家庭裁判所の遺産分割手続きにより解決を図ることになります。

    家庭裁判所の手続きには、遺産分割調停と遺産分割審判の2つがあります。

    • 遺産分割調停とは
      家庭裁判所で調停委員を交えた話し合いにより、合意による解決を目指す手続きです。
    • 遺産分割審判とは
      家庭裁判所の裁判官が全相続人の意見や主張を聞いて、遺産の分割方法を判断する手続きで、イメージとしては民事裁判に近いといえるでしょう。成立した遺産分割調停や、確定した遺産分割審判は強制力があるため、これに従わない相続人に対して強制執行により履行を強制することもできます。


    家庭裁判所では、まずは調停手続きにより各相続人の意見や希望を聴きながら合理的な着地点を探りつつ、調停ができない場合は審判により判断するのが一般的な流れです。

    家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割の審理期間は、最高裁判所の統計によれば6か月以内に終局したものが30%、1年以内に終局したものが64.1%でした(令和2年)。4割弱の遺産分割では、家庭裁判所に申し立てをして解決まで1年以上を要していることになります。

  5. (5)トラブルを回避するには弁護士のサポートが重要

    相続全般にいえることですが、円滑な相続は、法律に従って着実に手続きを進めるのが一番の近道といえます。

    甥や姪が相続人となった場合、親戚付き合いがあまりない親族と相続手続きを行うことになりがちですそのため、相続人が相続手続きに非協力的であったり、お互い疑心暗鬼になったり、自己の利益に固執したりすることによるトラブルが起きやすくなります

    相続が争族になりかねない状況では、より一層法律に従って手続きを進めることが重要で、トラブルが発生する前から弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

    弁護士は、財産や債務、相続人の調査についてもさまざまなノウハウをもっています。また、遺産分割協議や家庭裁判所の手続きをすべて代理することができるため、法律的な判断も含めて手続きをトータルで一任することもできます。

    トラブルの解決だけではなく、トラブルを未然に防ぎ相続を円滑に進めるのも弁護士の得意とするところです。

4、相続税納付までの手続きの流れ

遺産分割までの手続きは、相続人が共同して行う手続きですが、遺産分割後は相続人各自が行う手続きになります。

遺産分割後あるいは遺産分割と並行して行う必要がある手続きについて解説します。

  1. (1)相続財産の名義変更手続き

    相続人が複数いる場合、相続の開始により被相続人の財産は共同相続人が共有する状態となり、各相続人が単独で処分することはできません。

    遺産分割が成立すると、相続人間では誰が何を相続したのか決まったことになりますが、対外的に認めてもらうには名義変更手続きを行う必要があります。

    名義変更手続きは、たとえば不動産であれば相続登記、預貯金や有価証券であれば金融機関における手続きです。

    なお、不動産の相続に関する登記は、令和6年4月より義務化されることが決まっています。不動産を相続したのに何らの登記手続きもしないと10万円以下の過料の制裁を受けることがあります。

    過料とは、「過ち料」と表現されることもあり、金銭の納付を強制されるペナルティです。
    この規定は、令和6年4月以前に発生した相続にも適用されるので、相続登記の義務化はすでにスタートしているといえそうです。

  2. (2)被相続人の準確定申告(相続開始から4か月)

    亡くなった方に課税対象の所得があった場合は、相続人は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をする必要があります。

    亡くなって4か月であれば遺産分割も終了していないことが多い時期ですが、準確定申告は遺産分割の成否とは関係なく行わなければなりません。

  3. (3)相続税の申告、納付(相続開始から10か月)

    相続の対象となる財産の価額から債務を控除した額が基礎控除額を上回る場合は、相続税の申告と納付が必要です。

    基礎控除額の上限の計算式は以下の通りです(令和4年時点)。

    3000万円+(法定相続人の人数)×600万円=基礎控除額


    また、相続税の申告と納付の期限は、相続開始の開始を知った日の翌日から10か月以内です。申告納税期限までに遺産分割が成立していなくても期限が延長されることはなく、いったん法定相続分を相続したものとして申告、納付しなければなりません。

    期限までに相続税を納付しなければ、延滞税などが付加されることになります。

  4. (4)相続税の2割加算

    被相続人の一親等の血族や配偶者以外が相続人となった場合、相続税は税額の2割に相当する金額が加算されます。2割加算される理由は、一親等の血族(子や親)への相続は生活保障的な要素が強いものの、二親等以上への相続は偶然性が高いことと説明されています。

    なお、甥姪であっても被相続人の養子として相続する場合は税額加算の対象外です(孫を被相続人の養子にする場合は加算されます)。

5、まとめ

甥や姪として相続人となる方の中には、ご自身の親の相続も経験して大変な思いをされた方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。できれば相続にはかかわりたくないという心境であっても、法律上、相続人となった場合は、相続手続きに関わることは避けられません。

近年、関係が希薄化した親族が増加したこともあって、相続の処理がされないまま放置される不動産が社会問題化しています。また、相続に無関心であったばかりに、多額の借金を引き継いでしまうということも現実に起きています。

ベリーベスト法律事務所は、相続問題のあらゆるお悩みに対応するため、弁護士、税理士、司法書士がチームとなってサポートするワンストップサービスを提供しております。法律問題から税金、不動産登記など幅広いトラブルにひとつの窓口で対応が可能です。

相続に関する初回のご相談は60分まで無料で承っておりますので、まずはベリーベスト法律事務所 堺オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています