親族を成年後見人に推薦したい! 条件とメリット・デメリットは?

2022年04月20日
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親族を成年後見人に推薦したい! 条件とメリット・デメリットは?

堺市では、家庭裁判所が審判により決定した成年後見人の報酬を負担することが困難な方に向けて、報酬の全部または一部を補助する給付金事業を行っています。

成年後見人を弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家に依頼すると費用がかかるため、親族を成年後見人に推薦したいと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、親族を成年後見人とすることはメリットがある一方デメリットもありますので、十分に比較検討をしてから決めることをおすすめします。

この記事では、親族を成年後見人とすることのメリット・デメリットや条件について、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。

(参考:「成年後見制度利用支援事業」(堺市))

1、成年後見人には親族を選ぶべきか?

成年後見人は、認知症などによって判断能力が低下した本人のために、財産を管理したり、療養看護に関する契約を締結したりする役割を担います。

身近な親族を成年後見人とするか、客観的な立場にいる専門家に依頼するかは迷うところですが、現状では誰が選ばれているのでしょうか。

  1. (1)成年後見人として親族が選任されるケースは2割程度

    裁判所の統計資料によると、成年後見人・保佐人・補助人として、本人の親族が選任されるケースは、全体の19.8%となっています(2021年)。

    残りの80.2%については、弁護士・司法書士・社会福祉士が大半を占めている状況で、その他士業や市民後見人なども一部含まれています。

    「親族を成年後見人に」と希望する方もいらっしゃる一方で、現実には「専門家に任せる」と決断している方が非常に多いことがうかがえます。

    (出典:「成年後見関係事件の概況 令和3年1月から12月まで」(裁判所))

  2. (2)親族を選任することが望ましいケース

    厚生労働省が所管する専門家会議では、
    「後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい」
    との見解が示されています。

    十分に信頼できるのであれば、成年後見人を親族としても問題ないといえるでしょう。費用がかからない余地がある点が魅力ですし、本人との信頼関係も築きやすいでしょう。

    (参考:「適切な後見人の選任のための検討状況等について」(厚生労働省))

  3. (3)推薦した親族が常に選ばれるわけではない

    ただし、親族を成年後見人に推薦したとしても、必ずそのとおりに選任されるわけではありません。成年後見人は、あくまでも家庭裁判所の判断によって選任されるものだからです。

    前掲の統計資料によると、実際に親族が成年後見人等に選任されたケースが19.8%であったのに対して、候補者として親族が推薦されたケースは23.9%でした。

    つまり、親族を候補者として推薦した場合でも、家庭裁判所の判断により、親族ではなく弁護士などの専門職後見人が選任されることがあるのです。

    親族を候補者として成年後見開始の申立てを行う場合には、別の人が成年後見人に選任される可能性についても留意しておきましょう

    (出典:「成年後見関係事件の概況 令和3年1月から12月まで」(裁判所))

2、親族を成年後見人とするメリット

親族を成年後見人とする場合、費用や本人との関係性についてメリットがあります。

  1. (1)成年後見人報酬が発生しない

    弁護士などの専門家を成年後見人とする場合、1か月当たり数万円の報酬が発生します。

    これに対して、本人の親族が成年後見人となる場合には、親族が報酬付与の申立てをしないことが多いため、成年後見人報酬は設定されないケースがほとんどです。家計をなるべく節約したいと考えている場合、親族を成年後見人とすることは、大きなメリットがあるといえるでしょう。

    なお、仮に親族が報酬付与の申立てをしたとしても、弁護士等の専門職が選任された場合を参考に、事案に応じて減額されることがあります。

  2. (2)本人との信頼関係・安心感を築きやすい

    弁護士や行政書士は、本人にとってはいわば他人ですので、財産の管理などについて指図されるのは抵抗があるという方もいらっしゃるかもしれません。

    この点、もともと本人との信頼関係ができている親族であれば、本人から拒否反応を示されることもなく、安心して円滑に成年後見の事務を行うことができるでしょう。

3、親族を成年後見人とするデメリット

上記のメリットの一方で、成年後見人を親族とした場合、使い込みのリスクに注意する必要があります。

また、民法に沿って後見事務を行う手間がかかる点や、後見監督人が選任されて費用が発生するケースがある点にも注意が必要です

  1. (1)財産を使い込まれるおそれがある

    成年後見人に選任される親族は、本人と非常に近しい関係性にあるケースが多いです。実際、前掲の統計資料によると、成年後見人に選任される親族のうち、53.1%が本人の子どもとなっています。

    「ゆくゆくは子どもである自分が親の財産を受け継ぐ」と考えるのは自然なことです。成年後見人としては、「家族のお金=自分が自由にしていいお金」というような意識で、気軽に財産を使ってしまう可能性もあります。

    その結果、親族という関係性が裏目に出て、成年後見人が本人の財産を浪費してしまう可能性も否めません。

    しかし、あくまでも本人の利益のために財産を管理することが、成年後見人の使命です。弁護士や司法書士などの専門家を成年後見人とすれば、高い職業倫理に基づき、成年後見人としての責務を十分に果たしてくれることが期待できるでしょう。

  2. (2)後見事務の手間がかかる

    成年後見人は、民法のルールに従って後見事務を処理する必要があります(民法853条以下)。

    ルールは多岐にわたるので、法律の専門家ではない成年後見人が、後見事務を正しくこなすハードルは高いでしょう。

    また、後見事務の遂行状況については、家庭裁判所に対する報告も行わなければならないため、毎年その対応に手間がかかります。親族が成年後見人となった場合は、専門家のサポートを受けずに、すべての対応を自分で行わなければならないことが難点です。

    成年後見人が現役世代で働いていたり家事労働があったりすれば精神的にも時間的にも負担となります。

    弁護士などを成年後見人とした場合には、民法の規定に従って適正に後見事務を処理してくれるので、親族の負担は大きく軽減されるでしょう。

    (参考:「後見人等に選任された方へ 東京家庭裁判所後見センター」(裁判所))

  3. (3)後見監督人が選任されることがある

    成年後見人報酬が発生しない余地があることは、親族を成年後見人とすることの大きなメリットです。

    しかし、家庭裁判所によって「後見監督人」が選任された場合には、後見監督人報酬が発生するため、このメリットは失われてしまいます。

    後見監督人は、成年後見人の職務を監督する職責を担っており、家庭裁判所の判断によって選任されることがあります。前掲の統計資料によると、成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人が選任されたケースは、全体の約3.2%に当たります。

    後見監督人が選任されるのは、成年後見人と本人の関係性に若干の問題がうかがわれるなどと家庭裁判所が判断したケースがほとんどです。全体から見た割合はそれほど高くないですが、事前に後見監督人が選任される可能性についても考慮しておきましょう。

4、成年後見人の条件|欠格事由について

成年後見人として親族を推薦する場合、成年後見人の欠格事由に該当しないという条件があります。

以下のいずれかに該当する親族については、成年後見人になることができませんので、候補者から外しましょう(民法第847条)。

  • ① 未成年者
  • ② 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
  • ③ 破産者
  • ④ 被後見人に対して訴訟をし、またはした者ならびにその配偶者および直系血族
  • ⑤ 行方の知れない者

5、まとめ

成年後見人を親族とする場合、専門家に支払う報酬を節約できるメリットがあります。その一方で、本人の財産が使い込まれてしまうリスクがあるほか、後見事務の手間がかかるのが難点です。

これに対して、弁護士が成年後見人に就任した場合には、負担がかかることなく、安定的に後見事務を遂行できる点が大きなメリットです。

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