養子の遺留分はどうなる? 遺留分の基本と養子に遺留分を残す方法
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厚生労働省が発表している「平成29年人口動態統計 月報年計の概況」によると、日本全体の婚姻件数に対する再婚件数の割合は、夫が19.5%、女性が16.7%という結果になっています。再婚件数の割合は平成7年から比べると5ポイント以上上昇していることから、けして珍しいことではなくなりつつあるといえるでしょう。
もしあなたが子どものいる相手と再婚した場合、いわゆる「連れ子」と呼ばれる相手の子どもと、あなたの間に実の親子関係がないため、再婚相手の子どもには、あなたの遺産に関する相続権はありません。相続権を持たせたいのであれば、養子縁組をする必要があります。養子縁組すれば、法律上は実の親子と同じように取り扱われることになるためです。
この記事では、再婚した相手の連れ子に相続させたいと考えている堺市在住の方向けに、連れ子に相続はできるのか、遺留分はどうなるのかについて解説します。
1、遺留分とは、どのような制度?
まずは大前提となる「相続」や、「遺留分」という制度について知っておきましょう。
相続において、相続財産を残して亡くなった人のことを「被相続人」、相続財産を引き継ぐ人を「相続人」といいます。相続のシーンで登場する「遺留分」とは、被相続人が亡くなったときに一定範囲の相続人がもらえる最低限の財産のことです。
だれが法定相続人となるのか、その相続分はどれくらいの割合になるのかについては、民法に規定されています。遺言書がない限りは、民法に定められた割合にしたがって分割されることになるため、遺留分について考える必要はありません。
ところが、被相続人が亡くなる前に法定相続人以外の者に財産を分けるなど、法的に効力がある遺言を作成していたなどのケースでは、法定相続人が本来相続できたはずの財産が減少してしまいます。場合によっては、相続できる財産がゼロになる可能性もあるでしょう。
しかし、相続できる財産がゼロになってしまうと、これまで被相続人の収入に頼って生活していた専業主婦などが相続人だった場合、その後の生活が成り立ちません。そこで、被相続人が亡くなったとき、一定範囲の相続人が最低限の財産を取り戻せる「遺留分」の制度があるのです。
2、遺留分の特徴や対象となる財産
ここでは、遺留分の特徴や対象となる財産についてテーマを絞って解説します。
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(1)遺留分の特徴
遺留分には、以下の2つの特徴があります。
①遺留分を請求できる人
遺留分を請求できるのは、被相続人と以下のいずれかの関係にある方に限られます。- 配偶者
- 実子
- 実子の代襲相続人(被相続人の孫)
- 直系尊属(親や祖父母)
連れ子の場合はどうなるかといえば、すでに連れ子を養子にしていた場合は、実子と同じ扱いを受けます。ただし、被相続人との関係が上記の範囲にあっても、相続欠格や廃除、相続放棄などにより相続人の資格が失われている方は遺留分を請求できません。
②遺留分を主張できるとき
遺留分を主張できるのは、自分の最低限もらえる財産が侵害されたときです。具体的には、被相続人が以下のような行為をしたときに、相続人は遺留分を主張できます。
●生前贈与
たとえば、被相続人が生きている間に、「すべての土地を特定の相続人ひとりに贈る」という契約をしたなどのケースが考えられます。
●死因贈与
被相続人が死亡したあとに行われる贈与契約が「死因贈与」です。たとえば、被相続人が「私が死んだら、自宅の土地建物を愛人に贈与する」など、前もって財産と贈与する相手を決めた契約を結んでいたケースがこれにあたります。
●遺贈
被相続人が死ぬ前に遺言を作っていることもあります。たとえば、「私が死んだら、すべての財産を愛人に残す」という遺言を作成して、法定相続人以外の者へ財産を引き継がせるケースです。 -
(2)遺留分の対象となる財産
遺留分の対象となる財産は相続財産だけでなく、被相続人が亡くなる前に贈与した財産も対象となります。ただし、どのような贈与でも対象となるわけではありません。遺留分が請求できるのは以下のいずれかのケースです。
●相続が開始する前の1年以内に贈与が行われたケース
たとえば、本人が亡くなる3年前に贈与された財産は、遺留分の対象ではありません。
●遺留分を主張できる者が他の法定相続人に損害を与えることを知って贈与したケース
遺留分権利者に損害を与えることを知っている必要があり、まったく知らなかった場合は対象となりません。
●一部の相続人だけに特別に行った贈与
たとえば、死ぬ前に兄弟ひとりだけにこっそりと多額の現金を渡していたケースが考えられます。ただし、孫にお金をあげたとしても、孫は相続人ではないので該当しません。また、孫に少ないお金を渡したとしても、民法の扶養義務の履行として特に問題にならないと考えらます。
3、連れ子(養子)の遺留分の割合はどうなる?
前述のとおり、遺留分を主張できるのは法定相続人であることが原則です。したがって、血縁関係のない連れ子は法定相続人ではないため遺留分がありません。ただし、連れ子が被相続人と養子縁組すると実子と同じように法定相続人になり、遺留分を主張できます。
養子縁組をした連れ子の遺留分の割合は、実子と同じです。民法の規定によると、相続人が妻(配偶者)と子どもの場合、それぞれ遺留分の割合は4分の1ずつとなっています。
4、遺留分の計算方法はどうなる?
遺留分を計算するには、まず「遺留分の基礎となる財産」を算出しなくてはなりません。
その計算式は次のとおりです。
「遺留分の基礎となる財産=相続開始時の財産+贈与財産-債務(借金)」
次に「遺留分の基礎となる財産×遺留分の割合」という計算式により遺留分を算出します。
実際に受け取れる相続財産が、上記で算出した遺留分よりも少なかったとき、すでに贈与を受けるなどをし、多く相続財産を受け取っている者に対し、遺留分を請求することができます。
5、遺留分を連れ子にきちんと残すための方法
ここまでは、連れ子に認められる遺留分について解説してきました。遺留分を連れ子にきちんと残すためには、以下のことを養子である連れ子本人に伝えておくことが大切です。
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(1)相続内容に納得がいかなければ遺留分を主張する
連れ子が相続内容に納得できない場合には遺留分を主張するように伝えておきましょう。遺留分を主張する場合は、以下の手順で行います。
①遺留分の計算
相続財産を把握して、生前贈与や遺言、特別受益者の存在などを調べます。
②だれが遺留分を侵害しているのか特定する
侵害している相手がわかれば遺留分減殺請求ができます。
③遺留分減殺請求の意思表示をする
遺留分減殺請求の意思表示をした証拠を残すため、内容証明郵便で意思表示をしましょう。
④合意書の作成
侵害していた相手と支払いについて合意できたら、あとの争いを回避するため合意書を作成しておきましょう。
これら①から④の各手順を、法律などを知り尽くしているわけでもない方がひとりで行うことは、非常に困難であると考えられます。弁護士に相談して、スムーズかつ確実に手続きができるようにしましょう。 -
(2)遺留分には行使期間がある
ただし、相続財産が侵害されたからといって、いつまでも遺留分減殺請求権を行使できるわけではありません。遺留分を行使できる期間については、民法に規定されています。
<遺留分減殺請求権を行使できる期間>
遺留分の侵害を知っていた場合……侵害を知ったときから1年以内に遺留分減殺請求権を行使する必要があります。
遺留分の侵害を知らなかった場合……相続が始まってから10年で遺留分減殺請求権を行使できなくなります。
遺留分減殺請求権の行使には時間や手間がかかるので、なるべく早めに手続きをするよう子どもに伝えておきましょう。
6、まとめ
養子縁組をした連れ子には、実子と同じように相続権があります。また、連れ子の遺留分が侵害されていれば、遺留分減殺請求権を行使することも可能です。
ただし、遺留分の確認方法や侵害している者の調査は簡単なことではありません。侵害している相手との交渉は、たとえ連れ子でなくても困難を極めるものです。連れ子にスムーズに相続させたいと考えているのであれば、あらかじめ弁護士へ相談しておきましょう。再婚相手の子どもがあなたの相続の際、遺留分に悩まずに相続できるよう、被相続人となるあなたが元気なうちにできることが多々あります。
養子の遺留分についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所・堺オフィスまでご相談ください。堺オフィスの弁護士が親身になってサポートいたします。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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