効力のある遺言書を遺すには? 書き方や注意点を徹底解説!

2019年01月29日
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効力のある遺言書を遺すには? 書き方や注意点を徹底解説!

親族が亡くなった際、トラブルが生じる最大の原因は遺産の相続です。しかも、平成29年の司法統計によれば、このようなトラブルの3割以上は遺産総額が1000万円以下のケースであるとされ、1000万円以下と5000万円以下のケースを合計すると、なんと全体の7割以上を占めるとされています。

相続にかかわるトラブルは遺産の多寡にかかわらず、どの親族間においても起こりうる危険があるといえるでしょう。


では、生前に相続人間での争いを回避することはできないのでしょうか。実は、このような相続トラブルを回避するためには、遺書を遺しておくことが非常に有効です。そこで今回は、その遺書の作成方法や注意点について、堺オフィスの弁護士が徹底解説します。

1、遺言書の書き方。種類と特徴

遺言は、亡くなった人が生前の財産を自由な意思で遺すことができる、意思表示です。相続は、財産を持つ人(被相続人)が亡くなった時点からスタートすることになるため、遺言に書かれた内容が本当に本人の意思のあらわれかどうかを明確にしておく必要があります。そのため、民法では、法的に効力のある遺言書の書き方が詳細に定められています。

  1. (1)自筆証書遺言

    自筆証書遺言とは、その名のとおり、遺言の内容をすべて自書することを要する遺言をいいます。民法第968条第1項で規定された遺言方法で、同条第1項、第2項に定められた条件を満たす必要があります。

    具体的には、遺言の内容(全文)、日付、氏名を自書したうえで押印することが必要です。また、修正加除などの変更については遺言者の署名押印が必要です。なお、印鑑は実印である必要はありません。また、開封時には「検認(けんにん)」という作業を家庭裁判所で行う必要があります。

    財産が多数ある場合に、特定の財産(たとえば、特定の土地や有価証券)を特定の者に相続させる旨の遺言をすべて自書することは相当な負担がかかります。この点、平成30年7月6日に成立し、平成31年7月1日に施行予定の改正相続法は、パソコンでの財産目録の作成や通帳のコピーの添付が可能となることが決定しました。なお、自書ではない別紙を添付する場合はすべてのページに署名押印が必要です。施行以降に自筆証書遺言書を作成する際は、これまでより利用しやすい制度となるでしょう。

    ただし、一度作成した自筆証書遺言の内容を変更する場合には、その場所の指示、署名、押印が必要になります。

  2. (2)公正証書遺言

    次に、公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらう遺言のことです。公正証書遺言は、民法第969条によって定められている遺言書方式で、第1号から第5号までにわたるすべての条件を満たす必要があります。

    公正証書遺言では、公証人という法律のプロとその公証人以外の証人ふたりが同席したうえでなされる厳格な手続きが伴います。その分、遺言そのものが無効となる可能性や、偽造・紛失という危険を回避することができるもっとも確実な手段であるといえます。

    公正証書遺言の作成には、遺言者の「口授」が前提とされますが、言葉を発することが難しい方は口授の代わりに自書の方法で遺言の趣旨を示し、耳が聞こえない方は読み聞かせの代わりに通訳人の通訳を介するなどして作成が可能です。ただし、未成年者、推定相続人や受遺者、受遺者の直系血族、公証人の四親等内の親族や使用人などは証人となることができないため、それに含まれない成人を立てなければならないことに注意が必要です。

    すでに公的な確認を行いながら作成する遺言書方式であるため、遺言を開封する際には公証役場でコピーを取り寄せるだけで、作業は完了します。裁判所の検認手続きが不要となる点もメリットとなるでしょう。

  3. (3)秘密証書遺言

    秘密証書遺言とは、遺言の内容を秘密にしたまま、その「存在」のみを証明してもらう方法による遺言をいいます。民法第970条1項の第1号から第4号に定められた方式に従い、作成する必要があります。

    概略をいいますと、自分自身で作成して封をした遺言書を公証役場へ持参し、公証人1名および、証人2名以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述することによって成立します。

    遺言の内容を誰にも知られたくない場合を想定した制度ではありますが、実際にはほとんど利用されていないのが現状です。その遺言の存在のみを証明してもらう方法であるため、公正証書遺言と異なり、公証人と証人は遺言の内容を確認していません。さらに、保管は自分自身で行う必要があります。そのため、書式によっては無効となる可能性や、紛失や改ざんの懸念がある遺言方式でもあるといえるのです。

    内容の確認がなされていないため、開封の際には裁判所による「検認」手続きが必要です。

  4. (4)特別方式遺言書

    特別方式遺言とは、緊急の必要に迫られている場合に、簡易的に作成される遺言をいいます。病気で死亡の危急に迫った場合、伝染病のため隔離された状況にある場合、船舶遭難者で死亡の危急に迫った場合など、緊急性が認められる類型に応じて異なる要件が設定されています。

    緊急時のみに認められた遺言書方式であるため、遺言者が普通の遺言の方式によって遺言することができるようになってから6ヶ月たっても生存しているときは、その内容は無効となります。

2、法的に有効な遺言・無効な遺言

せっかく遺言書に書いて遺したとしても、法的に無効となってしまう遺言書が少なからず存在します。手間をかけて作成するのであれば、確実に実行してもらえる遺言書にしたいものです。

  1. (1)法的に有効な遺言について

    遺言によって、法的な効力を持たせられる内容についても、民法で定められています。法的な効力を持たせられる内容は以下のとおりです。

    ●相続分の指定
    相続人が遺産を取得する割合は、あらかじめ法で定められています(これを「法定相続分」といいます)が、その割合を自由に定めることができます(民法第902条1項)。ただし、一定の範囲の相続人を保護する趣旨から規定された遺留分という割合によって、被相続人の妻や子ども、直系尊属は、一定額の遺産を必ず確保できるようになっており、これに違反する割合を設定しても遺言は無効となりませんが、遺留分減殺請求の対象となります。

    また、被相続人を虐待するなど、相続人としてあるまじき行為がなされた場合には、相続人としての資格を失わせる、廃除という措置も遺言によって行うことができます(民法第892条)。なお、廃除は被相続人が生前にも請求することができます。

    ●財産の分割方法の指定

    被相続人は、遺言によって遺産の分割方法を定めることができます(民法第908条)。たとえば、家族で住んでいた家を妻に、預貯金を子どもにといった方法で遺産を相続するようにといった定めをすることができます。

    また相続人でない者に対して財産を譲り渡すこと(遺贈)も、遺言によって指定できます。

    ●身分に関する遺言
    親族など身分に関するものとしては、遺言によって、婚姻していない女性との間に設けられた子どもの認知をし、自分の相続人として加えることができます。そのほか、未成年の子どもがおり、自分がその単独親権者である場合には、未成年後見が開始するため、誰がその後見人となるべきか、遺言によって指定することも可能です。

    ●遺言執行者の指名
    遺言に従って財産の処分をするために特定の人物にその手続きや遺産の管理が委ねられる場合があり、その人物を遺言執行者といいます。この遺言執行者の指名も、遺言によってすることが認められています(民法第1006条1項)。

    ●そのほか
    家系図、仏壇、墓石などの祭祀(さいし)財産については、信仰に関連したものであることから、相続財産とは別に扱われています。通常は慣習に従って承継されることになりますが、その承継者を遺言によって指定することも可能です(民法第897条第1項)。

  2. (2)法的に無効となる遺言について

    遺言で法的効力を持たせられる内容は限定されており、概ね「(1)法的に有効な遺言について」で示した内容のとおりでして、それ以外の事項について法的な効力を持たせることができません。具体的には、「母を大切にしてほしい」など、感情の部分は強制できないものとなります。しかし、『付言事項』として気持ちを書き遺すことは可能です。家族へあなたの気持ちが伝わり、スムーズな相続を実現できる可能性が高まります。

    また、前述のとおり、普通方式の遺言書にはそれぞれ書き方などが詳細に定められています。法で定められている条件を満たさない遺言書は法的な効力を失うことになるため、作成の際は注意が必要です。具体的には、以下のような点を注意するとよいでしょう。

    ●自筆証書遺言
    自筆証書遺言は、遺言の内容から日付、氏名まで、すべて「自書」が要求されます。したがって、記述が欠けていたり、他人が記載したりした遺言書は、すべて無効とされます。ただし前述のように、平成31年の改正された法律が施行した以降であれば、パソコンで財産目録を作成するなど、一部については自書によらずに作成することが可能とされています。遺言書としてはもっとも簡単に作成が可能な反面、作成ミスに注意が必要です。

    ●公正証書遺言
    公正証書遺言は、公証人やそのほかの証人が関与して公的な形で作成されることから、無効とされるケースは極めてまれといえます。ただし、前述したように、相続に関係がある者など証人となることができない者が証人となってしまうと、無効となります。まずは証人としての適格について注意が必要です。

    ●特別方式遺言書
    緊急時になされる特別方式遺言の場合も、法律により規定された手続きに不足がある場合には無効とされてしまうので、遺言が特別方式遺言の中でどの方式によるのか、その手続きが正しく行われたかについて注意が必要です。

3、遺言を作成するメリットについて

遺言は、家族へ贈ることができる最後のプレゼントともいえるものです。もちろん、あなた自身にも大きなメリットがあります。

  1. (1)自分で思うように財産を分配することが可能

    自分の相続人となるべき人々の中でも、疎遠となってしまった方、最後まで面倒を見てくれた方、長年連れ添った配偶者など、個々人に対する感情はさまざまでしょう。ある者には遺産を多く、ある者には少なく分配したいということもあると考えられます。そのようなときには、相続分や分割方法の指定により、思いどおりの形に財産を分配することができます。

  2. (2)遺された家族が相続で揉めるのを防ぐ

    冒頭でも述べたように、遺産にまつわるトラブルはどのような家庭でも起こる可能性があります。自分の遺産がきっかけで遺族が争うことは、とても悲しいことではないでしょうか。遺言を遺しておけば、そのような事態を避けることができます。

  3. (3)法定相続人以外にも財産を分けることができる

    相続人以外にも、恩師やお世話になった友人・知人に対し、遺贈という形で感謝の気持ちを表すこともできます。また、人物のみでなく、たとえば慈善事業を行うNPO法人などに対し財産を遺贈することも可能です。

4、まとめ

遺産をめぐるトラブルはさまざまです。これまで円満な関係を築いてきた親族の仲が相続をきっかけにこわれてしまうなどのケースも多々あり、「家族仲がいいから」、「それほどの財産はないから」、「自分はまだ元気だから……」といって後回しにしてしまうと、不要な火種になってしまうこともあります。遺していく人々のためにも、遺言の作成を検討することをおすすめします。

しかし、遺言書の作成にはかなりの手間がかかります。確実、かつ適正な効力を持つ遺言書の作成は、非常に労力がいる作業となります。独学で作成しても、誤っていたとなれば取り返しがつきません。調査の手が必要なときや、詳細について確認したいことがあれば、弁護士に頼ることをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 堺オフィスでは、相続問題に対応した経験が豊富な弁護士が、あなたの遺言書作成をサポートします。状況によって、弁護士だけでなく、行政書士や税理士などとの連携も可能です。ベストな相続を実現するためにも、まずは相談してください。

ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています