悪臭・異臭がツライ! 悪臭の近隣トラブルを法的に解決する方法

2021年09月28日
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悪臭・異臭がツライ! 悪臭の近隣トラブルを法的に解決する方法

近所の飲食店から食べ物の臭いが漂ってくる、ゴミを軒先に放置している臭いで窓を開けられなくなる、洗濯物に臭いが染み付いてくる、など悪臭に関する近隣トラブルは意外と多いものです。

令和3年に発表された環境省の調査によれば、令和元年度における悪臭の苦情の件数は、大阪府が840件でした。都道府県別では全国で4番目に多い苦情件数であり、堺市を含む大阪において悪臭トラブルが多いことがうかがえます。

一方、実際に悪臭に苦しんでいても、被害をどう証明すればいいのか、どこに相談すればいいのか、迷う方もいるでしょう。

そこで今回は、悪臭に関するトラブル解決のために、悪臭を規制する法律や判断基準などをベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。

1、意外に多い臭いの近隣トラブル

近所から漂ってくる嫌な臭いで窓を開けられないなど、悪臭に関する近隣トラブルは意外と多いものです。

環境省の調査データをもとに、悪臭に関する苦情の件数や、悪臭のトラブルが発生しやすい場所などを見ていきましょう。

  1. (1)悪臭に係る苦情の件数と推移

    環境省の調査によれば、令和元年度に全国の地方自治体が受理した悪臭に係る苦情の件数は、全部で1万2020件でした。

    前年の苦情件数は1万1324件であり、前年度比で696件増加しています。

    苦情件数の推移を見ると、件数がもっとも多かったのは平成15年度の24587件で、以降は連続で減少が続いていましたが、平成30年から上昇傾向となっています。

  2. (2)悪臭トラブルが発生しやすい場所

    調査資料によると、発生源の中で苦情の割合がもっとも多いのが“野外焼却”で、これは畑や空き地などの野外でゴミなどの廃棄物を燃やす行為です。

    野外焼却は法令で認められる場合などの例外をのぞいて、原則として禁止されています(廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条の2)。

    次に苦情が多かったのは“サービス業・その他”で、店舗などのサービス業に伴って悪臭が発生しているトラブルです。

    たとえば、自宅の近隣の飲食店から常に食べ物の臭いが漂ってくるので、窓を開けて換気するのが困難になるなどのケースです。

    3番目に多かったのは、個人住宅・アパート・寮で、住宅やアパートなど住居から発生する悪臭です。庭や住居内でのゴミの放置やため込みなどが挙げられるでしょう。

    また、住宅喫煙することが、他の住民にとっては悪臭になるなどのトラブルも考えられます。

2、悪臭防止法とは

悪臭を防止するための法律として、悪臭防止法があります。

  1. (1)悪臭防止法の概要

    悪臭防止法は昭和46年に公布されました。工場や事業場などで発生する悪臭を規制することで、悪臭を防止する対策を推進すると同時に、生活環境の保全や、国民の健康の保護に役立つことを目的とする法律です。

    同法が成立する以前にも、悪臭を規定する法律として、昭和42年に公布された「公害対策基本法」がありました。

    しかし、当時は悪臭による健康被害への影響があまり周知されていなかったことや、悪臭を発生させる物質の測定が困難であったことなどから、公害対策基本法においては、悪臭に対する明確な規制基準が定められていませんでした。

    その後、悪臭を防止するための技術の発展や、悪臭を防止する必要性についての世論の高まりなどを背景として、悪臭に対する規制基準を規定する法律として、悪臭防止法が制定されました。

  2. (2)悪臭防止法の規制基準

    悪臭を防止するための規制基準として、悪臭防止法は以下の2種類の基準を採用しています。

    • 特定悪臭物質の濃度による規制
    • 臭気指数による規制


    特定悪臭物質の濃度による規制とは、不快な臭いの原因となり、生活環境を損なうおそれのある22種類の物質の濃度を基準として、悪臭を規制する方法です。特定悪臭物質の例としては、アンモニアや硫化水素などがあります。

    特定の物質の濃度によって規制する方法は、基準としては明確でわかりやすいものの、対象となる物質以外が原因で悪臭が発生している場合には、十分に規制できないという欠点もありました。

    そこで、特定の物質以外を原因とする悪臭を防止するための基準として、1996年施行の法改正において、臭気指数による規制の制度が新たに設けられました。

  3. (3)臭気指数による規制

    臭気指数とは、臭いの強さを数値によって表したものです。一定数の人間の嗅覚に基づいて臭いの濃度を測定し、数値化しています。

    地方自治体は臭気指数が一定の数値以上になった場合に、悪臭防止法に基づいて規制措置をとっています。

    たとえば堺市においては、全ての工場や事業場に対して、敷地境界線上において臭気指数が10以上になった場合に、規制の対象としています。

  4. (4)個人は規制の対象外

    悪臭防止法の規制対象は、企業の工場や事業所などから発生する悪臭ですそのため、個人の自宅やマンションなどで発生する悪臭については規制の対象になりません

3、個人の悪臭問題の解決方法

悪臭防止法の規制対象にならない悪臭については、どのような処置が可能なのでしょうか。解説していきます。

  1. (1)個人の悪臭問題を解決するには

    自宅にゴミをため込んで悪臭を発生させるなど、個人が発生させている悪臭は悪臭防止法の規制対象になりません。

    そのため、まずは悪臭を発生させている本人や、悪臭を発生させている物件の管理会社に相談する必要があります。

    この際、近隣住人同士だと感情的なトラブルが発生する可能性があるので、弁護士などの第三者を介して行うことが重要です。

  2. (2)相手が応じない場合は民事訴訟

    相手が話し合いに応じない場合や解決に至らない場合には、不法行為に基づいて民事訴訟を提起し、悪臭の差し止めや、損害賠償を請求する方法があります

    不法行為とは、故意または過失によって他人に損害を与えた場合に、民事上の責任として損害を賠償する責任が課される制度です(民法709条)。

    全ての悪臭が不法行為に該当するわけではありませんが、一般に受忍すべきと考えられる限度を超えた悪臭を発生させている場合には、不法行為として損害賠償の対象になると裁判所は判断しています。

    実際に、再三の注意を受けたにもかかわらずマンションの室内で喫煙を続けていた居住者について、煙が流入していた他の住民に対しての不法行為が成立することを認めた裁判例があります。

4、悪臭の証拠を集めるには

悪臭の被害を証明するには、悪臭の証拠集めが重要です。悪臭を測定して臭いを客観的に数値化すれば、民事裁判などで悪臭の被害を認めてもらいやすくなります。

市販の臭気測定器を使って自分で測定することもできますが、使用方法や使用場所などを誤ると証拠として認められない可能性があるので、取り扱いには注意が必要です。

また、臭いによる被害を証明するには、単に1回測定するのではなく、一定期間に継続して測定する必要があります。

臭気の測定を専門とする業者に依頼すれば、測定費用はかかりますが、裁判などで証拠として認められやすい、精度の高い測定を実施してくれることが期待できます。

5、まとめ

悪臭を規制する法律として悪臭防止法がありますが、工場や事業所から生じる悪臭を規制する法律なので、個人が発生させている悪臭は規制対象になりません。

個人の悪臭の解決方法としては、不法行為として民事訴訟を提起するなどの方法があります。

いずれにせよ、悪臭のトラブルを解決するには、悪臭が受忍限度を超えているかなどの法的判断や、悪臭を客観的に証明するための証拠集めが重要です

悪臭に関するトラブルでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスにご相談ください。近隣トラブルの解決の経験豊富な弁護士が、円満な解決にむけて尽力いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています