他人の犬に噛(か)まれてケガをした! 治療費や慰謝料の請求は?

2020年04月24日
  • 一般民事
  • 他人の犬に噛まれたら
他人の犬に噛(か)まれてケガをした! 治療費や慰謝料の請求は?

令和元年に一般社団法人ペットフード協会が実施した調査によると、日本全国で飼育されている犬の頭数は879万7000頭にのぼることがわかりました。飼育されている犬の頭数は減少傾向にありますが、ペットとして数多くの犬が飼育されていることは間違いありません。

堺市のホームページでは「犬の飼い主さんへ」と題したページで、飼い犬が人をかんだときは届け出が必要であることを周知しています。犬の飼い主は、もし飼い犬が事故を起こしてしまったら、原因を隠さず、再発防止に努める必要があるといえるでしょう。

そこで今回は、他人が飼っている犬にかまれてしまった場合、飼い主に治療費や慰謝料を請求できるのか、具体的な対応も含めて、堺オフィスの弁護士が解説します。

1、他人の飼い犬にかまれた! 飼い主にも責任があるのか?

飼い犬の責任が飼い主にあるというのは、ペット飼育者の常識です。散歩中のふんの始末、隣人への配慮など、多くのマナーを守る必要があります。

ところが、ペットは飼い主のしつけに反して思わぬ行動をするものです。自宅を訪ねてきた客人や散歩中の他人に対していきなり警戒心をむき出しにしてかみついてしまうトラブルもめずらしくありません。

では、他人の飼い犬にかまれてしまった場合、その責任は誰にあるのでしょうか?

  1. (1)飼い主は損害賠償責任を負う

    民法第718条は、ペットや家畜など、動物の所有者に課せられる責任について「動物の占有者は、動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めています。

    動物には、他人に損害を与えてもその賠償をする能力がありません。
    だからといって「無責任な動物がやったことだ」と泣き寝入りさせられるようでは、損害を受けた人が保護されなくなってしまいます。そこで、動物の行為は占有者、つまりペットの場合は飼い主がその責任を負うよう規定されているのです。

  2. (2)犬が他の飼い犬にかみついた場合も飼い主の責任になる

    飼い犬が他人にかみついた場合、その責任は犬の飼い主が負うことになります。では、これが人ではなく他人の飼い犬であればどうなるのでしょうか?

    公園などでは、犬同士のじゃれあいがケンカに発展し、相手の犬にかみつかれてしまうケースもめずらしくありません。

    法律上、ペットは飼い主の所有物として扱われます。つまり、もし飼い犬がかみつかれてケガを負った場合、「持ち物を壊された」ことと同じ扱いになります。したがって、犬同士のケンカで自分の飼い犬がかみつかれてケガをした場合、相手の飼い主が治療費などを弁済することになります。

2、他人の犬にかまれたら慰謝料の請求が可能

もし他人の犬にかまれてしまいケガを負えば、犬の飼い主には賠償責任が生じます。ここで飼い主が負う賠償責任とは、慰謝料と治療費が主になるでしょう。

  1. (1)慰謝料とは?

    慰謝料とは、相手の不法行為によって生じた精神的苦痛に対する賠償金をいいます。犬の飼い主が相当な注意を払っておらず、他人にケガをさせてしまったケースでは、慰謝料の請求が認められるでしょう。

    具体的には、次のようなケースであれば慰謝料の請求が可能になるでしょう。

    • 犬を放し飼いにしていた
    • 犬にリードをつけずに散歩させていた
    • 犬の大きさに合わないリードを使っていたため外れてしまった
    • 敷地外へと飛び出すおそれがあったが、柵を設けるなどの対処をしなかった


    ただし、慰謝料の請求が認められるのは「故意または過失」がある場合に限られます。故意とは「わざと」ですから、飼い主が犬をけしかけて他人にかませた場合は、当然責任が発生するでしょう。
    なお、飼い主が相当な注意を払っており過失も認められないケースであれば、飼い主は慰謝料を支払う責任を免れるという点には注意が必要です。

    また、不用意に犬を触ろうとした、犬の近くで食べ物を見せびらかすようにして食べていたなど、かまれた人にも過失がある場合は、慰謝料額から過失分が相殺される可能性が高まります。ただし犬にかまれる危険性がわからない幼児などがかまれた場合は、この限りではありません。

  2. (2)治療費も請求できる

    他人の犬にかまれてケガを負ってしまえば、入院・通院を含めた治療費の請求も可能です。
    ケガの程度が大きければ継続治療が必要となるケースもあるので、治療費の負担を軽くするためにも、治療費の支払いを請求するのが賢明でしょう。

    また、治療費のほかにも、ケガの治療や療養のために仕事を休まざるをえなくなった場合の休業補償や、壊された物品があれば修理・弁済を求めることも可能です。

    ただし請求の際には医師の診断書など証拠が必要です。どのような証拠が必要かわからない、相手が慰謝料・治療費の請求に応じないなど、お悩みの場合、まずは気軽に弁護士に相談することをおすすめします。

3、他人の犬にかまれたときにとるべき対応

もし他人の犬にかまれてしまった場合は、次の手順で対応しましょう。

  1. (1)治療が最優先

    まず優先するべきは治療です。病院にいって医師による診察・治療を受けましょう。傷口に雑菌が入ってしまうと破傷風に感染するおそれがあるため、早急な治療は大切です。

    また、治療を最優先させることは、感染症の予防だけでなく負傷程度を証明する意味でも重要です。ケガをしてすぐに医師が診察し、その所見から診断書が作成されることで「どれくらいのケガだったのか」を客観的に証明できます。

  2. (2)保健所への通報

    他人の飼い犬にかみつかれたら、保健所への通報も必要です。
    堺市では、大阪府動物愛護条例の規定にしたがってって加害者が動物指導センターを訪ねて「飼い犬咬傷(こうしょう)届出書」を提出する義務を負います。この義務が確実に履行されているのかを確認する意味でも、被害者からも通報しておくべきでしょう。

  3. (3)傷害保険の確認

    被害者自身が入っている傷害保険から、治療費・通院費が支払われる可能性があります。加入保険の内容を確認し、保険会社へ問い合わせてみましょう。ただし、自身の保険金を受け取ると加害者への賠償金が減額されるケースもありうるので、実際に請求するかは慎重に検討しましょう。

  4. (4)証拠をそろえる

    慰謝料・治療費の請求でトラブルに発展する可能性も大いにあります。
    犬にかまれた事実や損害を被ったことを証明するために証拠をそろえましょう。具体的には次のようなものが証拠となります。

    • 医師が作成する診断書
    • 負傷部位を撮影した写真
    • 目撃者の証言
    • 治療にかかった費用の請求書や領収書
    • 壊れてしまった物品の修理費や代替品購入の領収書


    どのようなものが証拠になるのかは、トラブルの状況によって異なります。
    弁護士にアドバイスを受けながら証拠をそろえましょう。

  5. (5)話し合いを進める

    犬の飼い主に対して慰謝料・治療費の支払いを請求するための話し合いを進めていきましょう。飼い主が話し合いに応じる姿勢をとっているのであれば、まずは双方がそろって穏便な解決を目指すのが賢明です。

    ただし、飼い主が素直に支払いに応じるとは限りません。提示した金額から減額を求められる、そもそも飼い主の責任はなかったと主張されるなど、満足できる結果にならないケースも決して少なくはないのです。

    また、飼い主がペット保険や個人賠償責任保険に加入している場合、保険会社と示談交渉を進める必要がでてきます。思いのほか治療が長引いてしまったが、保険金の受け取りが打ち切られてしまった……などのケースも起こりかねません。
    民事トラブル等の経験が豊富な弁護士に早めに相談すれば、将来的なトラブルを最小限に抑えられる可能性が高まります。

4、相手方との交渉が難航した場合の対処法

もし、犬の飼い主が慰謝料や治療費の支払いに応じてくれない場合はどのように対処するべきなのでしょうか?

  1. (1)弁護士に依頼する

    相手方との交渉に難航してしまったとき、頼るべきは弁護士です。
    弁護士は法律の知識だけでなく、数多くの民事トラブルの交渉や解決も手掛けているため、ペットトラブルの解決に向けてのサポートや、代理人として飼い主との交渉も一任できます。

    また、弁護士を介して和解に至れば和解契約書の作成をすることも可能です。
    弁護士の手による充足した和解契約書を作成すれば、万が一、飼い主からの慰謝料・治療費が滞った場合も、契約書の内容に沿った訴えや再度の交渉が可能です。

  2. (2)裁判所の制度を利用する

    話し合いで解決できるのがベストですが、飼い主が慰謝料や治療費の支払いに応じない場合は最終手段として裁判所の制度を利用することになるでしょう。

    裁判所の制度としては、調停委員を介して話し合いで解決する「調停」、60万円以下の金銭支払いを求める「少額訴訟」、法廷の場で双方の言い分を聞いて証拠を取り調べる「訴訟」があります。

    裁判所の制度を利用する際も、やはり弁護士のサポートを受けるのが賢明です。どの方法を選択するのが適切なのかについてアドバイスを受けられるほか、代理人として手続きを代行してもらうこともできます。制度にまつわる煩雑な手続きをスムーズに行うためには、弁護士に一任するのが最善といえるでしょう。

5、まとめ

他人の犬にかまれてケガをしてしまったら、まずは病院で治療を受け診断書をもらいましょう。後日、慰謝料や治療費の支払いをめぐってトラブルに発展してしまったら、治療を受けた際の診断書が役に立ちます。また、飼い主との話し合いで解決できるのがベストですが、もし困難であれば、まずは弁護士に相談しましょう。代理人として飼い主との交渉を進めてくれるだけでなく、交渉が難航した場合は訴訟などの手続きの代行が可能です。

他人の犬にかまれてケガをしてしまうトラブルでお悩みなら、ベリーベスト法律事務所・堺オフィスまでご相談ください。
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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています