児童手当は財産分与の対象? 子どもの資産を守るためにできること

2020年09月24日
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児童手当は財産分与の対象? 子どもの資産を守るためにできること

大阪府の「平成30年人口動態調査結果 離婚件数、届出月・市町村別」によると、堺市における同年度の離婚件数は1514件と公表されています。府内では、大阪市(5772件)に次いで2番目に離婚が多い自治体となっています。

さらに裁判所が公表している「平成30年度 家事審判・調停事件の事件別新受件数 家庭裁判所別」によると、大阪府内における調停事件のうち「財産の分与に関する処分」は145件、「親権者の指定又は変更」は499件でした。

離婚の際には、お金の問題を避けて通ることはできません。とりわけ子どもがいる夫婦の場合には、子育ての費用をめぐって揉めるケースが少なくないでしょう。また、親権獲得を希望する場合、コツコツためてきた児童手当も財産分与の対象になってしまうのか不安になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、子どもの将来のためになるべく有利な財産分与をするためには気を付けたいポイントを、堺オフィスの弁護士が解説します。

1、離婚における財産分与

  1. (1)財産分与とは

    財産分与とは、夫婦が婚姻生活中に共同で築いた財産を、貢献度に応じて公平に分け合う手続きです。原則として、財産分与の割合は2分の1ずつです。
    たとえば、専業主婦の場合でも、家事・育児に専念することによって家計を支えてきたため、2分の1ずつ分け合うことが一般的です。


    ただし、家事・育児を理由なく放棄していたなどの場合には、その分を差し引いて考慮されることもあります。また、夫婦のいずれか一方がスポーツ選手・経営者などの特別な才能を持ち、高額の収入を得ていた場合にも、共同財産の形成において、貢献度が2分の1ずつとはみなされないケースが多いでしょう。

    なお、財産分与の請求権は、離婚時から2年で消滅します。この2年間のタイムリミットは、時効ではなく除斥期間です。除斥期間とは、一定の期間が経過すると権利が完全に消滅してしまう制度です。時効のように、権利者の行為によって時効のタイムリミットが猶予されるということはありません。したがって、できる限り早めに、納得できる決着に向けて行動することが大切です。

  2. (2)財産分与の対象となる範囲

    財産分与の対象となるのは、夫婦の共有財産のみです。共有財産とは、前述の通り、婚姻生活を送る中で協力しながら築いた財産のことです。

    財産の名義は、共有財産かどうかの判断基準にはなりません。したがって、夫名義の不動産・預貯金であっても、婚姻生活中に得た収入によって得たものであれば、共有財産とされます。

    反対に、財産分与の対象とならないのは以下のような財産です。

    • 結婚前にためておいた財産
    • 実親からの相続財産
    • 個人的に贈与された財産


    これらは“特有財産”と呼ばれ、財産分与の対象とはなりません。

    なお、“個人的に贈与された財産”には、配偶者からプレゼントされた貴金属やブランド品等も含まれます。また、夫婦で住宅を購入した際の資金の一部にどちらかの実家からの援助を受けていた場合には、その分を特有財産としてみなし財産分与の際に考慮される場合もあります。

  3. (3)借金・住宅ローン等のマイナス財産の扱い

    借金・住宅ローン・教育ローンなどのマイナスの財産も、財産分与の対象とされる可能性があります。マイナス財産についても、夫婦が婚姻生活を送る中で作ったのかどうかが判断基準となります。

    したがって、

    • 結婚前に作った借金
    • 個人の趣味・遊興費のための借金(ギャンブル、ゲーム、飲み代等)
    • 高級ブランド、高級車を無理して購入するなどの浪費


    などは婚姻生活とは無関係なので、財産分与の対象にはなりません。

2、児童手当は財産分与の対象か?

  1. (1)児童手当とは

    児童手当とは、子育て家庭を支援するために国から支給される手当のことです。誕生してから中学校を卒業するまでの間、年齢に応じて月額1万~1万5000円が毎年6月・10月・2月にまとめて支給されています。

    受け取った児童手当には手を付けずに、子どもの将来のためにコツコツと貯金している家庭も多いでしょう。離婚の際には、子どものためにためておいた児童手当まで財産分与の対象となるのか、以下より詳しく解説します。

  2. (2)子どものための児童手当も財産分与の対象になるのか

    児童手当は、子ども本人ではなく、子育てをしている親の支援を目的に支給されます。したがって、一般には婚姻期間中の夫婦の共同財産として、財産分与の対象となるとされます。子どもの将来のために児童手当をためておいた場合でも、財産分与しなければならなくなる可能性があるのです。

    しかし、児童手当が財産分与の対象となるのは、あくまで法律上の扱いであり、実際には交渉次第で児童手当を親権者が取得できるケースも少なくありません。まずは弁護士に相談し、財産分与を含めて少しでも有利に進められるよう検討してみましょう。

  3. (3)別居中・離婚後の児童手当の受給者

    離婚を前提に別居している場合、子どもを監護している側の親が児童手当を受給します。ただし、母親が子どもを連れて別居を始めた場合、児童手当の振込先口座が父親の銀行口座のままになっていることも多いでしょう。その場合には、振込先の変更手続きが必要です。

    振込先口座の変更は、原則として本人の同意が必要となりますが、離婚調停を申し立てている場合にその客観的な証拠を提示すれば、例外的に本人の同意がなくても変更できます。証拠の必要書類や支給要件は、市区町村のホームページなどに明記されています。

    離婚が成立した後は、親権者が児童手当の受給資格を取得します。母親が親権者となったにもかかわらず、父親が児童手当の受給事由消滅届を提出しないケースもあります。その場合は、親権者が変更されたことを客観的に証明できる調停調書などを市役所に提出すれば、父親の同意がなくても変更手続きができます。

3、児童手当以外の子どもの財産の扱い

  1. (1)両親が子ども名義で作った預貯金

    児童手当以外の、子どものための財産については、どのような扱いになるのでしょうか。

    夫婦が働いてためたお金を子ども名義の銀行口座にためておいた場合には、財産分与の対象となるとされています。しかし、夫婦の収入が原資であったとしても、“子どもに対する贈与”と判断される特段の事情がある場合には、例外的に子どもの財産として財産分与の対象外となることもあります。

    なお、教育資金贈与信託についても、子ども固有の財産と判断されます。教育資金贈与信託とは、子どもや孫の教育資金を信託銀行に信託する契約のことで、1500万円までは贈与税が非課税とされます。

  2. (2)学資保険

    学資保険は、子どもが進学・入学したタイミングで満期保険金・祝い金を受け取ることができる民間会社の保険です。学資保険についても、保険料を夫婦の共有財産から支払っている場合には、財産分与の対象となると考えられます。

    ただし、夫婦の祖父母が孫のために保険料を負担している場合には、夫婦の共有財産からの支出とは言えませんので、財産分与の対象とはならないと判断されるでしょう。

  3. (3)祖父母・親戚からのお年玉・お小遣い・入学祝いなど

    お正月やクリスマス、入学・進学祝いなど、イベントや行事のタイミングで祖父母・親戚から子どもがお祝い金をもらうことがあります。この場合については、両親の収入とは無関係のところから発生したお金ですから、財産分与の対象外と考えられます。

    したがって、祖父母・親戚からのお年玉・お小遣い・入学祝いなどは、子ども自身が所有する財産として、親権者が子どものために管理することになるでしょう。

    具体的なケースとして、障がい児1名を含む子ども3名を母親が親権者として引き取ったケースの財産分与において、子どものためにためておいたお年玉・祝い金・障がい児手当金等は全て子ども本人に帰属させるべきものであり、財産分与の対象外であると判断された裁判例があります(東京地裁平成16年3月18日判決)。

4、財産分与を有利に進めるために

  1. (1)離婚前の段階から全財産を把握する

    財産分与を有利に進めるために大切なのは、離婚の話し合いをする前の段階から共有財産のリストアップをしておくことです。離婚を切り出してから把握しようとしても、相手に財産隠しをされてしまうおそれがあるからです。

    預貯金口座、証券口座、不動産登記簿などは事前にチェックしておきましょう。さらに、預金通帳や給与明細書、源泉徴収票などのコピーも、証拠としてできる限り収集しておくことをおすすめします。共有財産であるか判断することが難しいと感じたら、弁護士に相談してみましょう。

  2. (2)子どもへの贈与用の口座を作る

    子ども名義の預貯金をためる際には、日頃から内訳が分かるようにしておくことも大切です。できれば、夫婦の収入による子ども名義の預貯金と、子どもへの贈与によるものとを別々に作っておくことが望ましいでしょう。

    子ども名義の預貯金が、祖父母・親戚からのお年玉・祝い金・生前贈与等のみによって形成されたものであると客観的に証明できれば、子ども固有の財産として守ることができる可能性があります。

  3. (3)弁護士に交渉を依頼する

    児童手当や学資保険、子ども名義の預貯金は、法律上財産分与の対象になります。しかし弁護士の交渉次第では、子どもの財産として取得できる可能性があります。

    財産分与の割合は原則として2分の1ずつですが、夫婦の合意さえあれば柔軟に割合を変更することができます。特に、幼い子ども数人を母親がひとりで育てることになった場合には、収入のある方(多くの場合夫側)が扶養的な意味で2分の1よりも多めに財産分与をするケースも少なくありません。これを“扶養的財産分与”と言います。

    したがって、法律上は児童手当等が財産分与の対象となるとしても、必ずしも諦める必要はありません。離婚後も安定した暮らしを続けるために、早めに弁護士に相談しましょう。

5、まとめ

子どもの将来のためにためておいた児童手当、夫婦が共同でためた子ども名義の預貯金は、法律上財産分与の対象になるとされています。しかし財産分与の割合は夫婦の話し合いによって自由に決めることができるので、弁護士の交渉次第で財産分与の対象外にするよう説得できる可能性があります。

離婚後も、子どもたちと安定した生活をするためには、適切な財産分与の交渉が必須です。児童手当や子どもの財産が財産分与の対象になるかもしれないとお悩みの際は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスまでご相談ください。離婚問題の実績豊富な弁護士が、しっかりとお話を伺い問題解決に向けて尽力します。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています