離婚における財産分与の手続きとは? 住宅や保険金はどうなる?
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離婚を検討中の人にとって、気になることのひとつはやはり“お金”でしょう。
かつては協力し合いながら生活を営んでいた夫婦であっても、いざ別れるとなるとなるべくなら相手に財産を渡したくないというのも自然な感情です。離婚後の新しい生活のためにも、手元にたくさんお金を残しておきたいものです。
しかし問題は、夫婦お互いが「渡すお金は少しでも少なく、もらうお金は少しでも多くしたい」と考えていることです。“離婚のお金問題”はふたりの利害が真っ向から対立するため、話し合いが難航することが少なくありません。
令和元年度の司法統計「離婚後の財産分与事件数 終局区分別申立人別 全家庭裁判所」によると、全国の家庭裁判所に申し立てられた財産分与事件は1691件でした。
財産分与とは、「婚姻生活中に夫婦が共同で築いた財産を分け合う手続き」のことです。
少しでも財産分与の話し合いを自分にとって有利に進めるためには、どうすればよいでしょうか? 財産分与の基礎知識と手続きについて、堺オフィスの弁護士が解説します。
1、財産分与とはどんな手続き?
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(1)夫婦でともに築いた財産を分け合う
財産分与とは、夫婦が結婚生活の中で協力し合いながら築いた財産を分け合う手続きです(民法768条)。
財産分与は、夫婦間の合意さえあればどんな割合でも良いとされていますが、実際にはなかなか話し合いがまとまらず調停や審判などに移行することもあります。
その場合には、財産形成への貢献度(寄与度)に応じて財産分与の割合が決められますが、特別な事情のない限り2分の1ずつ分け合うルールが確立されています。
なお財産分与請求権の消滅時効は、離婚後2年です。この期間を過ぎると、財産分与を元配偶者に求めることができなくなってしまうので、注意しましょう。 -
(2)財産分与の対象となる財産
基本的に、結婚後に仕事で得た収入は全て夫婦の財産となります。たとえば夫名義の預貯金や不動産、有価証券であっても、「仕事で得た収入を元にそれを貯められたor獲得できたのは妻の支えがあったからこそだ」という風に考えるのです。
財産分与の対象になるのはプラスの財産だけではありません。生活のための借金・住宅ローン・教育ローンなどのマイナスの財産についても、財産分与において考慮されます。
一方で、婚姻期間中であっても、離婚を前提とした別居後に獲得した財産は財産分与の対象にならないとされています。 -
(3)財産分与の対象とならない財産
配偶者の支えとは関係なく取得した財産は、完全に個人の財産と考えます。これを“特有財産”と呼んでいます。
たとえば、
- 結婚前から所有していた財産
- 結婚後に実親などから相続・贈与された財産
- 日用品(衣類など高価でなく夫婦の一方が使用するもの)
- 特有財産から得られた収入によるもの(たとえば、相続した駐車場の賃料収入など)
などです。
そして、マイナスの財産にも対象とならないものがあります。個人的な趣味や遊興費などのための借金は、生活費・教育費のための借金などと違って財産分与において考慮されません。たとえば、ギャンブル、夜遊び、高額な楽器の購入などです。
これらの場合は、当たり前ですがすべて自力で返済することになります。 -
(4)相手が有責配偶者でも財産分与しなければならない?
不倫やDV・モラハラなどの離婚原因を相手側が作った場合であっても、財産分与をしなければならないのでしょうか?
前述の通り財産分与は“財産形成の貢献度に応じて分け合う”制度ですから、離婚原因を作った有責配偶者であっても原則として2分の1ずつ財産分与を請求できるとしています。
有責配偶者への慰謝料請求は別途行うこともありますが、実際には有責配偶者は本来の財産分与の取り分から慰謝料を差し引いた金額を受け取ることになることも多いでしょう。
2、離婚にともなう財産分与の種類
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(1)清算的財産分与
財産分与の形式にも、いくつか種類があります。もっとも一般的なのが、この“清算的財産分与”です。「夫婦が協力し合って築いた財産を、貢献度(寄与度)に応じて分け合う」という本来の趣旨に添って、原則2分の1ずつ分配します。
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(2)扶養的財産分与
長年専業主婦(主夫)として家計に貢献してきた人の場合、離婚したからといってすぐに経済的に自立することは容易ではありません。また病気・障がいなどで働くのが難しいこともあります。その場合、離婚によって生活に困窮することのないよう、財産分与の金額を考慮するのが“扶養的財産分与”です。 財産分与で一度に渡す金額を多めにする以外にも、離婚後の家賃を負担する、住む家を提供する、毎月一定額を振り込むなどの方法もとられることがあります。
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(3)慰謝料的財産分与
夫婦いずれかの不倫・DV・モラハラなどで離婚することもあるでしょう。この場合に問題となるのが慰謝料の支払いですが、財産分与の手続きとセットで済ませてしまうこともあります。
もっとも、財産分与の金額の中に慰謝料分が全て含まれているのか明確でない場合、後日争いになる可能性もあります。 -
(4)婚姻費用
婚姻費用とは、婚姻生活を営む上での費用、つまり生活費のことです。夫婦は、経済的に支え合う法律上の義務を負っています。未払いの婚姻費用があった場合には、財産分与の手続きの中で一緒に支払われることもあります。
3、ケース別の分与方法と割合
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(1)共働き夫婦も専業主婦(主夫)も原則2分の1
前述の通り、財産分与は合意さえあればどんな割合でも問題ありませんが、裁判手続きに移行した場合には原則2分の1ずつとなります。
そしてこれは、共働き夫婦でも一方が専業主婦(主夫)でも同じです。専業主婦(主夫)も、家事・育児に専念することによって夫(妻)の収入に大きく貢献しているからです。「すべて自分が稼いだお金なのに」と主張する方も多いですが、もし専業主婦(主夫)の配偶者がいなければ自分ひとりで家事・育児をしなければならなくなる(場合によっては外注など支出も生じます)ので、その分収入が減る可能性があるということを忘れないようにしましょう。
専業主婦(主夫)が2分の1ずつ財産分与を受けられる根拠については、過去の判例でも「夫婦が婚姻期間中に取得した財産は、夫婦の一方の所得活動によるものではなく、他方の家計管理や家事・育児等を含む夫婦共同生活のための活動の成果として得られたものというべきである」と説明されています(広島高等裁判所平成18年(ネ)第564号離婚等請求控訴事件平成19年4月17日)。
ただし専業主婦(主夫)が家事・育児を放棄して遊び歩いていたなど特殊な事情がある場合には、“2分の1ルール”が当てはまらない可能性もあります。どうしても相手に2分の1も渡したくない、と思う場合は弁護士に相談してみましょう。 -
(2)現金を分与する場合
財産分与にもさまざまな方法がありますが、もっともシンプルなのが現金を相手に渡す方法です。
現金で財産分与をするメリットは、支払う側も受け取る側も原則として非課税であるということです。
現金以外のものを配偶者に分与する場合は、渡す側に“譲渡所得税”がかかる場合があるので注意が必要です。 -
(3)不動産など金銭以外のものを分与する場合
不動産、自動車、有価証券、美術品など金銭以外の財産については、相手に現物を渡すこともあります。その場合は、渡す側に譲渡所得税が課せられる場合があります。離婚の際の財産分与で財産を受け取った側には、原則として贈与税は課税されません。ただし、不動産を受け取った場合には、不動産取得税や登録免許税が課税されることはあるでしょう。
ただし居住用不動産については、離婚後に譲渡すれば特別控除や軽減税率が適用される制度もあります。これは親族以外への譲渡にしか適用されませんので、離婚前に夫婦間で譲渡すると通常通り課税されることに注意してください。 不動産に住宅ローンが残っている場合は、離婚時点での評価額から住宅ローンの残高を差し引いた金額が財産分与対象額となります。
たとえば「評価額3000万円-住宅ローン残高2000万円=財産分与対象額1000万円」。夫婦のどちらか一方が引き続き住宅に住む場合は、出ていく方に500万円を支払うことになります。 -
(4)退職金・生命保険
熟年離婚では、退職金・生命保険についてもしっかりと把握しておきたいところです。退職金は“給料の後払い”としての性質も持っているため、給料と同じ理由で財産分与の対象になると考えられています。
具体的には、勤続年数のうち婚姻期間に相当する分を夫婦の共有財産として計算しています。
ただしこれは“定年間近で支給の確度が高い”場合のみが該当します。まだまだ定年が先の若い夫婦が離婚した場合には、退職金は考慮されない可能性があります。
生命保険については、返戻金の生じるタイプのものが財産分与の対象となります。
4、財産分与の手順
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(1)対象財産のリストアップ、評価額を算定
まず財産分与の対象となる財産をリストアップします。不動産については、類似物件の取引価格、国税庁の路線価、国土交通省の公示価格などを参考に評価額を調べます。よくわからない場合は、弁護士や不動産会社に聞いてみましょう。株式や投資信託などの金融商品は離婚成立時、または離婚を前提とした別居開始時の評価額が基準となります(もっとも、市場価格がある上場株式と異なり、非上場株式の評価額は容易に算定できないことも多々あります)。自動車は、中古車価格を調べるか、中古車販売店に査定を依頼します。住宅と同じく、ローン残高があれば差し引きます。家具・家電製品は購入価格を参考にしましょう。
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(2)まずは夫婦間で直接話し合いを試みる
財産分与の割合や支払い方法について、まずは夫婦で話し合いをします。一括で支払うのが難しい場合には、分割を提案することもあります。分割の回数・支払金額・支払い方法などの条件が決まったら、必ず書面に残しておきましょう。
ふたりだけで冷静に話し合うのが難しい場合には、弁護士に入ってもらうのが非常に有効です。離婚案件の経験が豊富な弁護士は、財産分与における交渉にも慣れています。夫婦の利害を調整しながら、建設的な協議をしてくれるはずです。 -
(3)調停・裁判
協議がまとまらない場合には、家庭裁判所での調停を経て、離婚裁判に移行する可能性があります。前述の通り、裁判では原則として“2分の1ルール”が採用されています。しかし特殊な事情があることが証明できれば、ご自分の取り分をもっと増やせるかもしれません。
たとえば、専業主婦の妻が育児・家事を放棄して遊んでいたという客観的な証拠を提出するなどのケースです。
“2分の1ルール”にどうしても納得がいかない、という場合は弁護士に相談してみましょう。
5、弁護士に依頼するメリット
財産分与は、夫婦の利害が激しくぶつかる手続きです。豊富な法律知識と交渉術を身につけている弁護士に依頼すれば、時間的・精神的な負担を大きく軽減できるはずです。
また、預貯金・不動産・自動車・有価証券・美術品などさまざまな性質の財産を評価・分与する手続きは、非常に複雑で難易度が高いものばかりです。財産分与の実務に慣れている弁護士なら、正しい方法でスピーディーに対応してくれます。
わからないことがあればすぐに的確なアドバイスももらえるため、ご自分ひとりで悩むよりも効率的だと言えるでしょう。
6、まとめ
財産分与は、共働きであっても一方が専業主婦(夫)であっても、“2分の1ルール”が原則です。しかし特別な事情が認められれば、2分の1以上を手元に残せる可能性があります。また相手側が不倫・モラハラ・DVなどの離婚原因を作った有責配偶者であれば、2分の1から慰謝料を差し引いて支払う形を取れるかもしれません。
どうしても“2分の1ルール”に納得がいかない場合は、ベリーベスト法律事務所・堺オフィスにぜひご相談ください。財産分与の疑問点についても、親身になってお答えします。
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