親権者が死亡したら子どもはどうなる? 離婚後の扱いと未成年後見人
- 親権
- 親権者
- 死亡
離婚において一度親権者を決定しても、その後病気や事故・事件などの理由で親権者が亡くなってしまうことがあります。その場合、自動的に親権がもう片方の親に移行することはなく、また、親権者は遺言により未成年後見人を指定することができます。なお、裁判所が発表している「令和4年 司法統計年報(家事編)」によると、未成年後見人の選任について行われた家事審判・調停事件の新受件数は、全国で1059件、大阪家庭裁判所では15件あったようです。
本コラムでは、親権者が死亡した場合に子どもの親権はどうなるのかといった基本的事項から、未成年後見人、親権者変更について、堺オフィスの弁護士が解説します。
1、親権者の死亡後、親権はどうなるか
-
(1)自動的に親権が移行することはない
結論からいうと、親権者が死亡したとしても、自動的にもう一方の親に親権が移行することはありません。
離婚により親権者が死亡すると、まずは未成年の後見が開始することになります(民法838条)。後見とは、被後見人の監護(身の回りの世話)や財産の管理を行うことです。病気や障がいのある成人を対象にする“成年後見制度”と、未成年を対象にする“未成年後見制度”の2種類があります。
親権や未成年後見の制度において裁判所がもっとも重視するのは、子どもの利益と福祉であり、最終的には子どもにとって何が一番幸せかという観点から判断されます。なお、子どもが15歳以上である場合には、原則として子ども自身の意思も尊重されます。 -
(2)親権者は遺言で未成年後見人を指定できる
親権者が、亡くなる前に遺言で未成年後見人の候補者を指定していた場合には、原則としてその意思が尊重されます(民法839条1項)。また、未成年後見人は、複数名指定することができます。
たとえば、自分の亡き後にモラハラの加害者である夫に親権を渡したくない場合には、信頼できる兄弟や祖父母を未成年後見人として指定しておくケースが考えられます。
ただし、未成年後見人を遺言で指定したからといって、必ずもう片方の親に親権がいかないとは限りません。
片方の親が「自分に親権を与えるべきだ」として、“親権者変更の審判”を申し立てる可能性があるからです。この場合、裁判所はあくまでも“子ども自身の利益・福祉”を重視し、決定を下すため、遺言の効力が絶対ではないことに注意しましょう。
なお、親権者が死亡すると、遺言書と戸籍謄本を市役所に提出して手続きを行うことになります。ただし、遺言の書き方には厳格なルールがあるため、遺言書の作成を検討されている場合は、事前に弁護士に相談されることをおすすめします。
2、未成年後見人とは
-
(1)未成年後見人の役目
社会人としての知識・経験がない未成年は、成人に比べて判断能力が未熟だとされています。
そのため、未成年には必ず法定代理人(本人の代わりに法律行為をする人)をつけて、法律で保護する定めになっています。実の親や養親がいれば、親権者として法定代理人になりますが、死亡・行方不明・重い病気・虐待などが原因で親権者がいない場合には、親権者の代わりとして未成年後見人をつけることになります(民法820条)。
-
(2)未成年後見人を指定する遺言がない場合
前述の通り、親権者は遺言で未成年後見人を指定することができます(民法839条)。
しかし、遺言による指定がない場合には、未成年者本人・未成年者の親族・その他利害関係人・児童相談所長が、管轄の家庭裁判所に“未成年後見人選任の審判”を申し立てることができます(民法第840条1項、児童福祉法33条の8)。 -
(3)未成年後見人の判断基準
最終的に、誰を未成年後見人にするかは裁判官が判断します。
未成年後見人には以下のケースを除いて、誰でもなることができます。- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
- 破産者で復権していない者
- 未成年者に対して訴訟をし、またはした者、その配偶者、その直系血族(祖父母や父母等)
- 行方の知れない者
申し立てがされると、まず家庭裁判所の職員(家裁調査官)が、本人や未成年後見人候補者と面談をするなどして、生活状況や本人の気持ち、心身の状態、職業・経歴などを調査します。また、未成年者の生活状況をより正確に把握するために、自宅訪問を行うこともあります。そうした情報に基づき、適切な未成年候補者を選任されます。
なお、未成年者が多額の財産を相続した場合等、特殊な事情がある場合には、弁護士などが未成年後見人となり、本人の利益のために適切な資産管理を行うこともあります。 -
(4)未成年後見人選任後の手続き
未成年後見人が選任されたら、以下の手続きを行う必要があります。
- 10日以内に戸籍の届け出をする(戸籍法81条)
- 選任から1か月以内に、未成年者の財産をリストアップした財産目録と年間の収支予定表を作成し、管轄の家庭裁判所に提出する
- 年1回のペースで財産の状況や後見業務についての報告書を提出する
家庭裁判所では、未成年後見人が未成年者の利益のために適切に業務を行っているか監視しています。万が一、横領などの不適切な行為をした場合には、未成年後見人を解任され、民事・刑事責任を追及される可能性があります。なお、未成年者が成人に達した場合には、任期満了により未成年後見人としての任務が終了します。
3、親権者変更とは
離婚の際に決めた親権者は、“子ども自身の利益・福祉のために必要”と認められる場合に限って、変更することができます。
親権者が変更される具体的なケースは以下の通りです。
- 虐待
- 強制労働
- 育児放棄
- 親権者の重い病気・障がい・死亡
- 親権者の逮捕
- 親権者の海外転勤
- 子ども自身による親権者変更の希望
親権者が存命の場合はまず調停を経てから審判に移行しますが、親権者が死亡しており、調停に出席できないことが明らかな場合には、すぐに審判を申し立てることになるでしょう。
親権者変更の審判においては、家裁調査官が本人との面談や家庭訪問時の状況などをまとめた調査結果を裁判官に提出し、その内容をもとに裁判官が親権者変更をすべきかどうか判断します。
4、親権者変更の流れ
-
(1)審判を申し立てる
親権者変更審判の申し立ては、未成年者本人または未成年者の親族が、管轄の家庭裁判所に対して行います。申し立てに必要なものは、以下の通りです。
- 親権者変更審判の申立書
- 親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 収入印紙1200円(未成年者ひとりにつき)
- 連絡用の郵便切手
-
(2)親権者変更の決定の流れ
審判が開始すると、家庭裁判所の職員である家裁調査官が、未成年者と親への面談や生活状況の調査を行います。裁判官は、家裁調査官が作成した報告書の内容やその他一切の事情を考慮して、最終的に親権者を変更するか否かを判断します。
-
(3)親権者が変更されたら
審判の結果親権者変更が認められた場合、新しい親権者は、審判確定から10日以内に市役所で親権者変更の届け出をしなければなりません。手続きに必要な書類は、審判書、確定証明書、当事者の戸籍謄本等です。
5、弁護士に依頼するメリット
未成年後見人選任や親権者変更の審判においては、家裁調査官が大きな役割を果たします。家裁調査官への報告や態度によって結果を左右する可能性がありますから、弁護士にアドバイスをもらうことで、希望する結果につながりやすくなるでしょう。
また、遺言書は、法律で定められた厳格な形式を満たしている必要があります。作成方法を間違えると無効になるおそれもありますから、弁護士に依頼しておくのが安心です。他の手続きを進める中で困ったことやわからないことがあれば、弁護士に相談できるという点も大きなメリットです。
6、まとめ
ひとり親家庭であれば、もし自分が死んでしまったら子どもはどうなるのだろうとお考えになるかもしれません。しかし、親権者が死亡したとしても、自動的にもう片方の親が親権者になるわけではありません。民法上、まずは未成年の後見が開始することになるためです。もし、片方の親からのDVや虐待がありようやく離婚して自身と子どもが離れることができたケースなどで、片方の親に親権がいくことが不安な際には、遺言で祖父母や兄弟などを未成年後見として指定することができます。
ただし、未成年後見人が選任されたとしても、もう片方の親が“親権者変更の審判”を申し立てることも考えられます。いずれの場合でも、裁判所では“未成年者本人の福祉のためになるか”という観点から判断を行います。
子どもの親権についてお悩みのことがあれば、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士までお気軽にご相談ください。離婚問題の解決経験が豊富な弁護士が、お子様の幸せを第一に考え、親身にお話を伺いアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています