子ども連れて家出すると親権獲得に不利? 弁護士が解説
- 親権
- 子ども
- 連れて
- 家出
司法統計の「家事調停事件の事件別新受件数」によると、平成29年の大阪地方裁判所における「婚姻中の夫婦間の事件」についての申立数は3016件、「離婚その他男女関係解消に 基づく慰謝料」については39件でした。
堺を管轄としている大阪地方裁判所でも、離婚や夫婦間トラブルに関する申し立ては少なくありません。また子どもがいる場合、離婚への成立を協議するだけでなく、話し合いにより親権者を決めておく必要があります。
しかしさまざまな事情により冷静な話し合いができない場合、やむを得ず子どもを連れて別居をしなければならない方もいらっしゃるでしょう。
相手の合意なく子どもを連れて家を出た場合、親権獲得に影響はでるのか、また連れ去りとして違法とはならないのか、堺オフィスの弁護士が、わかりやすく解説します。
1、子連れの家出は「連れ去り」として違法になるケースがある
-
(1)合意なく子どもを連れていくと違法になる可能性
配偶者の合意がないまま子どもを連れ去った場合、下記のようなケースは違法と判断されることがあります。
- 離婚して会えなくなった子どもを待ち伏せし、連れ去った
- 面会交流のあと、子どもを元配偶者の元へ帰宅させない
この違法性の判断において、もっとも重視されるのは“子ども自身の利益と福祉”です。父母の個人的感情や要望よりも、子どもにとって安全で健全な環境はどちらなのかということが基準となるでしょう。
なお、離婚成立前の子連れ家出や別居が、未成年者を略取し、または誘拐した者(刑法第224条)に該当するのではないかと疑問を感じる方もいるかもしれません。しかし、離婚前であれば夫婦双方に親権があるため、未成年者略取・誘拐には当たらないと考えられています。 -
(2)配偶者にされる可能性がある申し立て
子連れ別居を強行した場合、配偶者は家庭裁判所に以下のような申し立てをして、あなたに対抗してくるかもしれません。
子連れ別居の正当性を家庭裁判所に対して主張できるよう、可能な限り証拠をそろえておくと良いでしょう。基本的な証拠のそろえ方については後述しますが、より具体的に知りたい方は弁護士に相談するのもおすすめです。- 子の引き渡しを求める調停・審判の申し立て
- 監護者の指定を求める調停・審判の申し立て
- 審判前の保全処分の申し立て(仮処分)
2、子連れ別居が正当だと判断されるケース
-
(1)子どもを守るためにやむを得ず別居した場合
子どもを守るためにやむを得ず子連れ別居を開始した場合、配偶者の同意のない子連れ別居も“正当である”と判断される傾向にあります。
たとえば配偶者からのモラハラ・DV・児童虐待から子どもを守るために別居したのであれば、正当であると判断されやすいでしょう。
ただし、上記のような事情であっても証拠がなければ、相手から主張が虚偽であると主張されてしまうかもしれません。暴力を受けた際の診断書や、暴言の録音などなるべく記録を残すよう心がけることが肝要です。
ご自身の行為に正当性があるかどうか不安な場合は、まずは弁護士等に相談することをおすすめします。さまざまな離婚問題を解決に導いた弁護士に相談することで、何をすべきか具体的な道が開けるでしょう。 -
(2)子連れ別居について参考にすべき判例
子連れの家出および別居に関する判例として、通称、100日面会交流事件(最高裁平成29年7月12日判決)をご紹介します。
この事件は、母親が2歳の娘を連れて父親の合意なく別居をスタートしたことに端を発し、父母間の親権を巡った訴訟に発展したものです。
別居前は仕事が多忙なため育児にあまり関わってこなかった父親でしたが、母親の行為を「違法な連れ去り」だと非難し、裁判では自身の親権を強く主張しました。そして「自分が親権者になったら、母と娘を年間100日面会交流させる」とする面会交流計画を立てて裁判所に提出し、寛容な父親であることをアピールしました。
その結果、1審・千葉家裁松戸支部ではこの面会交流計画が評価され、父親に親権を認める判決が下されました。この判決は、「寛容性の原則」(フレンドリーペアレントルール)に基づく異例の判決として、注目を集めました。
フレンドリーペアレントルールとは、面会交流に対してより寛容な意思をもつ方が、親として適している、と考える判断基準のひとつです。
しかし、2審の東京高等裁判所と3審の最高裁判所では、父親の“寛容な面会交流計画”よりも、母親の育児実績や子どもの意思、子どもが置かれている環境などが総合的に評価され、最終的に親権者は母親となりました。
2審の東京高裁は、1審の判決を覆した理由について「相手方に子との面会交流を認める意向を有しているかは、親権者を定めるに当たり総合的に考慮すべき事情のひとつであるが、父母の離婚後の非監護親との面会交流だけで子の健全な成育や子の利益が確保されるわけではないから、父母の面会交流についての意向だけで親権者を定めることは相当でなく、また、父母の面会交流についての意向が他の諸事情より重要性が高いともいえない」と説明しました。
父親側は「これでは連れ去った者勝ちだ」と反論しましたが、本判決では別居前の父母の状況や子どもの置かれている環境の健全性、子ども自身の意思などから、“あくまでも総合的に判断”していることがポイントとなっています。
3、親権者はどのように決まる?
-
(1)子ども自身の意思、現状維持の原則などから総合的に判断
では、親権者はどのようにして決まるのでしょうか。
実は、法律上は親権者を決める明確な基準は存在しません。親権者は“子ども自身の利益・福祉”を最優先事項として、さまざまな事情から総合的に判断されるのです。
具体的な考慮要素は下記の通りです。- 子ども自身の意思
- 生活の現状維持
- 子どもへの愛情
- 収入・資産などの経済力
- 父母の生活態度・健康状態
- 子育ての支援・協力体制(祖父母・叔父叔母など)
- 住宅や学校などの生活環境
まず重要な考慮要素のひとつとして挙げられるのが、“子ども自身の意思”です。
15歳以上であれば、子どもの考えや意思が大きく尊重されるでしょう。10歳前後の子どもであれば、どちらの親がより育児に関わってきたかが重視されます。また、乳児に関しては母性的な役割をもつ親が有利とされています。
また “生活の現状維持”も考慮される要素のひとつです。急激な生活環境の変化は、子どもの心身に多大な負担をかけます。そのため、子どもの養育環境はなるべく現状維持が望ましいとされているのです。
“子どもへの愛情”は、「食事を作って食べさせていた」「入浴をさせていた」「体調不良時に看病していた」など、生活の中で子育てに携わってきたという客観的な事実が重視されるでしょう。
なお、不貞行為の有責配偶者であるか否かは、親権者決定に影響を及ぼさないと考えられます。ただし、不特定多数の異性を自宅に連れ込むなど、著しく荒廃した性生活を送っている場合には、“父母の生活態度・健康状態”に問題があるとして、親権を得られなくなる可能性もあります。 -
(2)離婚後の親権者変更制度もあるが、容易ではない
一度決まった親権者を離婚後に変更するのは、決して容易ではありません。親権者変更は父母の合意のみでは認められず、親権者の住所地を管轄する家庭裁判所に“親権者変更の調停・審判”を申し立てる必要があります。
また、変更する際には“子どもの利益・福祉”を守るためにやむを得ないといえる理由がなければなりません。たとえば、親権者が病気になった、親権者が虐待・育児放棄をしている、すさんだ生活をしており養育環境が非常に悪い、子ども自身が親権者変更を望んでいるなどです。
4、家出する前に可能な限り取るべき対策とは
-
(1)「正当な子連れ別居」と主張するための証拠を集めておく
まずは正当性を示す証拠を集めておきましょう。たとえば配偶者からDV・モラハラ・虐待などがあったことを示す録音データ、日記、メッセージ履歴、医師の診断書などです。
どのような証拠が有効かは、事前に弁護士等に相談することで、より的確なアドバイスを受けることができます。また離婚の原因であるDVなどについても、経験豊富な弁護士に相談することで、精神的な負担が軽くなるケースもあります。 -
(2)暴力を受けている場合は配偶者暴力支援センターへ相談
配偶者からの暴力に悩んでいる方は、各都道府県に設置されている、配偶者暴力相談支援センターに相談することもひとつの方法です。相談記録が残るため、裁判に発展した際に証拠として提出できる可能性もあるからです。
配偶者暴力相談支援センターでは、カウンセリング、緊急時の一時保護、自立して生活するための情報提供、保護命令の説明などを行っています。保護命令とは、配偶者から暴力を受けている(または受けるおそれがある)人の生命・身体を守るために裁判所が出す命令のことです。保護命令を申し立てるには、配偶者暴力相談支援センターか、警察に事前に相談することが条件となっていることにご注意ください。
5、まとめ
配偶者の同意なく子連れ別居をした場合でも、必ずしも違法とはなりません。さまざまな事情から総合的に正当性が判断されますので、子連れ別居を決行する前に、正当性を主張するための根拠となる証拠を集めておくことが大切です。
事前に弁護士に相談することで、子連れの家出や別居で不利にならないための証拠集めのアドバイスだけでなく、慰謝料・養育費・財産分与など離婚手続き等のサポートを受けることができます。
離婚や親権問題はひとりで悩みを抱え込みがちな問題です。信頼できる弁護士に相談することで精神的な安定を得ることが、離婚への一歩となるはずです。ぜひ堺オフィスの弁護士までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています