有責配偶者からの婚姻費用請求は認められる? 請求できない費用とは
- 不倫
- 有責配偶者
- 婚姻費用
厚生労働省が公表している「令和2年人口動態総覧」によると、堺市における同年の離婚件数は1310件でした。
離婚になる原因はさまざまですが、とりわけ多いと言われているのが、配偶者の不倫(不貞行為)です。
不貞行為をしてしまったけれど、別居中の配偶者に生活費や養育費などの婚姻費用を請求したい場合、法律上どのような判断がされるのでしょうか?ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも婚姻費用とは?
-
(1)収入が多い方の配偶者が少ない方に支払う生活費
婚姻費用とは、夫婦のうち収入が多い方が少ない方に支払うべき生活費のことです。
民法第760条には、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と定められています。また、民法第752条には、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とも記載されています。
これは、夫婦に経済力の差がある場合、お互いに支え合って、同じレベルの生活を相手にも保障しなければならないという生活保持義務を意味しています。
さらに、別居中の配偶者が子どもを育てている場合、原則として、配偶者だけでなく子どもの生活費(養育費)も一部負担する義務を負うことになります。 -
(2)婚姻費用の支払い義務は離婚が成立するまで続く
原則として、婚姻費用の支払い義務は、正式に離婚が成立するまでの間は継続します。離婚を前提に別居している場合であっても同様です。
ただし過去の婚姻費用については、さかのぼって請求することはかなり難しいでしょう。婚姻費用を受け取っていなくても、過去の生活が成り立っていたと判断される可能性があるからです。 -
(3)婚姻費用の金額と請求の方法
婚姻費用の金額は、養育費と同様に、夫婦それぞれの収入と子どもの人数によって決定されます。
もし、支払者が婚姻費用を払いたくないばかりに、意図的に収入を引き下げた場合は、例外的に、潜在的稼働能力や平均収入をベースに婚姻費用金額を算出することもあります。
婚姻費用の金額について、当事者の話し合いで決着がつかない場合には、通常は家庭裁判所で調停・審判を行って決定されます。
2、有責配偶者は婚姻費用の分担請求をできるか?
有責配偶者とは、不倫(不貞行為)や家庭内暴力など、離婚原因を作った配偶者を意味します。
夫婦関係を破たんさせた責任は有責配偶者にありますので、有責配偶者から別居中の生活費を請求することは道義上許されないと判断されることもあります。
一方、あくまでも有責配偶者自身の“生活費”に対する請求権であって、有責配偶者が子どもを育てている場合、“養育費”を求める権利はあると考えられています。
なぜなら、養育費を受け取るのは子どもの権利であり、両親の不貞行為は子どもには関係がないからです。
また、不貞行為の有責配偶者であることが、親権獲得において絶対的に不利な条件になることはないとされています。不貞行為の事実よりも、これまでの養育実績や子どもへの愛情が重視されます。
3、有責配偶者からの婚姻費用分担請求の事例
-
(1)有責配偶者の妻からの婚姻費用請求が一部認められた事例
不貞行為の有責配偶者である妻が、子ども2人を連れてアパートに別居した後、実家に身をよせて家業の手伝いをして生計を立てていた事例では、妻から夫への婚姻費用請求が一部認められました(名古屋高裁 金沢支部 昭和59年2月13日)。
まず別居後間もない期間については、「無収入の相手方(妻)がみずから稼得する途を探求するなど生活の建直しに少なくとも必要相当の期間であると考えられるから、右期間中の生活保障は抗告人(夫)に求めるほかない」という事情を考慮して、有責配偶者である妻自身の生活費の分担については一部を認めました。
しかし妻が実家に身をよせてからは、父親の飲食店を手伝いながら同居家族による子育てのサポートも得られるようになり、生活が安定したため、妻自身の生活費の分担義務は否定し、子ども2人の養育費分についてのみ婚姻費用の支払い義務のみ認めています。 -
(2)有責配偶者の妻からの婚姻費用請求が認められなかった事例
家庭内暴力の有責配偶者である妻が単身で別居していた事例では、妻から夫への婚姻費用の請求を「信義則に反する」「権利濫用にあたる」として、認めませんでした(東京高裁 平成31年1月31日)。
夫と子どもが妻と別居するに至った背景には、妻による激しい家庭内暴力がありました。その内容は、酒に酔って子どもの首を絞める、止めに入った夫に包丁を振り回すなど極めて危険なものでした。
一方で、妻がほとんど一人で子育てしてきたこと、子どもの問題行動に日頃から悩んでいたが夫が非協力的であったことなど、妻側にも同情すべき事情もあったとされています。
しかし、妻の年収が約330万円あること、夫が住宅ローンを負担している自宅に妻が住み続けていることなどを総合的に考慮した結果、上記の判決となりました。
4、婚姻費用にお悩みの場合は弁護士に相談を
-
(1)婚姻費用分担請求調停の申立て
婚姻費用の話し合いでトラブルが発生したら、弁護士に早めに相談することをおすすめします。
婚姻費用の交渉は、まずは当事者間で行いますが、合意に至らない場合には管轄の家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。
調停とは、家庭裁判所が選出した調停委員2名(男女各1名)と裁判官から成る調停委員会で話し合いをする手続きです。調停期間中、夫婦で直接顔を合わせることはありません。DVなど直接会いたくない事情がある場合は、裁判所に伝えれば配慮してくれるでしょう。
申立てに必要な書類は、以下の通りです。- 申立書とその写し
- 事情説明書
- 連絡メモ
- 進行に関する照会回答書
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 源泉徴収票、給与明細、確定申告書等の写しなど収入を証明する書類
その他必要に応じて追加提出を命じられることもあります。
-
(2)約1か月間隔で平均半年間かけて調停が行われる
申立てをしてから約1か月後に、第1回目の期日が指定されます。その後は約1~1.5か月に1度のペースで、複数回調停が行われます。目安は3か月~半年間、ほとんどのケースが1年以内に終了しますが、まれに1年以上かかることもあります。
弁護士に調停手続きを依頼すると、書類作成だけでなく、調停委員とのコミュニケーションについても実務経験に基づくアドバイスを受けたり、同席を依頼することも可能です。調停での交渉を一任することもできますが、本人が同席して主張することで、より調停委員の同意を得られる可能性もあるので、相談してみましょう。 -
(3)不成立なら自動的に審判へ移行
調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続きに移行します。
話し合いである調停とは異なり、審判では裁判官が適切な婚姻費用の金額を決定し、支払い命令を下す手続きです。審判の結果は、家事審判書に記載されます。もし、相手側から不服申立てされた場合は、高等裁判所で再審理が必要かどうか判断されます。
5、まとめ
婚姻費用には、配偶者自身の生活費とその配偶者が育てている子どもの養育費が含まれています。離婚を前提に別居している場合であっても、原則として離婚成立時までは婚姻費用の支払い義務が発生します。
有責配偶者による婚姻費用の請求は、本人の生活費についてはやむを得ない事情がない限り「信義則に反する(道義的に許されない)」として認められない傾向にありますが、一方子どもの養育費の分担義務については免れないとされています。
婚姻費用をはじめ財産分与や親権など離婚手続きでお困りの際は、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスまでご連絡ください。離婚トラブルの解決実績がある弁護士がまずは状況を丁寧にヒアリングし、解決策をご提案いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています