不倫の時効について知っておきたい! 慰謝料請求の権利との関係は?
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何年も前の不倫を理由に配偶者や元配偶者から慰謝料を請求された場合、どうすればいいでしょうか。
不倫をしたことは確かだが、夫婦で話し合ってやり直すことにしたのになぜ何年も経ってから?離婚の際に慰謝料の話が出なかったのになぜ今さら?と思う方も多いでしょう。
不倫を理由とする慰謝料請求にも時効がありますから、簡単に支払いに応じてはいけません。そこで今回は、不倫を理由とする慰謝料請求の時効について、時効期間や時効の効果を得られる方法、時効期間経過後に気を付けることなどを解説します。
1、不倫慰謝料の消滅時効について
配偶者が不倫をした場合には慰謝料を請求することができるということは、よく知られています。
しかし、なぜ不倫をすると慰謝料請求できるのでしょうか?この根拠によって時効期間が決まることになるので、まずこの点から解説します。
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(1)そもそも慰謝料請求とは?
配偶者が不倫した場合に、慰謝料請求ができるのは、一方の配偶者と第三者が肉体関係を持つという行為が、他方の配偶者の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為に当たるといえるからです。
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(2)慰謝料請求の時効が消滅する期間について
不倫が不法行為の一種となると、不法行為についての他の法律の規定も適用されます。それが、慰謝料請求の時効についてです。
民法724条は、「不法行為による損害賠償請求権は、次のふたつの場合、時効によって消滅する」と定めています。
- ①損害および加害者を知った時から3年
- ②不法行為の時から20年
①は、不倫は配偶者と不倫相手が共同して行った不法行為といえるので、加害者を知ったといえるためには、単に配偶者が誰かと不倫をしたことを知っただけでは不十分で、不倫相手を知ったことまで必要とされます。具体的には、相手の顔だけではなく、名前や住所なども知っていることが必要とされます。
②については、法律の規定上は曖昧ですが、消滅時効ではなく、除斥期間とされています。
※除斥期間とは…一定期間、権利を行使しなければ、その権利が消滅することをさします。
除斥期間は、一定の期間の経過によって権利が消滅する点では時効と共通していますが、時効と違って中断(時効期間がリセットされる)という制度がありません。したがって、不倫したときから20年が経過すると、慰謝料請求はできなくなります。
このことは、配偶者が不倫したことや不倫相手を知っていたかどうかは関わりません。 -
(3)慰謝料請求できないケースについて
また、時効が経過している以外にも、下記のようなケースは慰謝料請求することができません。
- お互いが既婚者だと分からず肉体関係を持った。
- すでに十分な慰謝料を払っている。
- 長期間別居をしているなど、婚姻関係が破たんしている。
など
このような場合、必ず慰謝料を支払う必要はありませんので、相手から慰謝料を請求されても断ってよいでしょう。
2、消滅時効の効果を得るためには
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(1)時効の援用が必要
それでは、時効期間がすでに経過していた場合、どうすればいいのでしょうか。
消滅時効の期間が経過しても、当然に権利が消滅するわけではありません。
時効は、時効によって利益を受ける者が時効の効果を主張しなければなりません。これを時効の援用といいます。
ですから、不倫したことや不倫相手を知ったときから3年が経過した後に慰謝料請求を受けた場合には、「消滅時効が完成しているので、支払いません」といった主張をする必要があるのです。
なお、除斥期間(不法行為を行ってから20年)については、消滅時効と異なり、当事者が除斥期間を主張しなくても裁判所が職権で適用します。 -
(2)時効は中断させることができるので注意
また、損害および加害者を知った時から3年が経過している場合でも、常に消滅時効を主張できるわけではありません。
除斥期間についての説明でも触れたとおり、時効には中断という制度があります。
法律で定められた中断事由がある場合、それまで進行してきた期間の効力がなくなり、また最初から時効期間が始まることになるので、損害および加害者を知った時から3年が経過していても、時効は完成しません。
時効の中断事由には、次のようなものがあります。(民法147条)
- ①請求
- ②差押え、仮差押えまたは仮処分
- ③承認
ここでいう①は、単に相手方に支払ってほしいと言うだけでは足りず、裁判所が関与する手続(訴訟、支払督促、和解の申立て、調停の申立てなど)で請求する必要があります。
裁判外での請求は、「催告」にあたり、催告から6ヶ月以内にこれらの裁判所が関与する手続において請求をすれば、時効中断の効力が認められます(民法153条)。
時効の完成が迫っている場合、まず催告をし、そこから6ヶ月以内に訴訟を起こすことで時効中断の効力が認められるので、裁判外の請求により時効期間を6ヶ月伸ばすことができるとみることもできます。
たとえば、損害および加害者を知った時からすでに2年11ヶ月が経過しているという状況を想定してください。
この場合、1ヶ月以内に不倫慰謝料を請求する訴訟を提起すれば、「請求」にあたり、時効が中断します。
また、1ヶ月では訴訟の準備ができない、あるいはできるか不安だという場合には、まず相手方に不倫慰謝料を内容証明郵便で請求しておき(=催告したことを記録に残すため内容証明郵便を利用する)、そこから6ヶ月以内に訴訟を提起することで、時効が中断するのです。
3、不倫慰謝料の時効期間経過後に気を付けること
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(1)離婚についての慰謝料は請求することができる
不倫を理由とする慰謝料請求について消滅時効が完成し、時効が援用された場合には、いかなる請求もできなくなるのでしょうか。
これまで解説したとおり、慰謝料は精神的な損害に対して支払われるものです。
配偶者の不倫自体で精神的な苦痛を受けることは言うまでもなく、そのために慰謝料の請求ができるのですが、配偶者の不倫が原因で婚姻関係が破綻し、離婚に至った場合、離婚したことによって精神的な苦痛を受けたとみることができます。
そこで、不倫をした者に対し、離婚したことによる慰謝料を請求することが可能です。
時効の起算点は「損害および加害者を知った時」で、損害(=離婚による精神的苦痛)を知るのは離婚したときですから、離婚した時から3年以内に請求すればいいということになります。
もし、離婚した元配偶者から離婚に対する慰謝料を請求されていて、どうすればいいか分からないとお困りの方は、一度弁護士へご相談ください。 -
(2)「慰謝料を払う」「払うから少し待ってほしい」などと言ったらどうなる?
時効期間が経過した後に慰謝料請求を受けたのに対して、「慰謝料を払う」「払うから少し待ってほしい」などと言った場合、その後に時効の主張(援用)をして支払いを拒否することができるでしょうか。
支払うので期間を猶予してほしいと言うことは、慰謝料の支払義務(債務)があることを前提とする行為です。このような行為を「債務の承認」といいます。
時効完成後に債務を承認した場合の効果について、明文の規定はありませんが、最高裁の判例によれば、債務者は信義則上、時効の援用ができなくなるとされています。
いったん債務を承認しておきながら、時効を援用するのは矛盾行為であること、債務の承認を受けた相手方の信頼を保護する必要があることがその理由で、債務者が承認の際、時効の完成を知らなかったとしても結論は変わりません。
4、まとめ
不倫による慰謝料請求の時効について解説しましたが、参考になりましたでしょうか。
もし、配偶者や元配偶者から何年も前の不倫について慰謝料を請求されたという方がいらっしゃったら、焦らず、本当に払わなければならないかを慎重に考えてください。
本文で解説したとおり、時効完成後に債務を承認してしまうと、時効の完成を知らなかった場合でも時効の主張ができなくなるという不利益があります。うかつに返答して時効が主張できなくなることに不安を感じている方は、具体的な返答をせずに、一度弁護士に相談するといいでしょう。
ベリーベスト法律事務所堺オフィスでは、不倫慰謝料についての豊富な取り扱い実績があります。弁護士に相談して不倫慰謝料の問題を解決したい方は、お気軽にお問い合わせください。
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