通勤・勤務中のケガで労災を使いたくない! 方法や注意点とは?

2022年06月09日
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通勤・勤務中のケガで労災を使いたくない! 方法や注意点とは?

大阪労働局の統計によると、2020年中の大阪府内における労働者の死傷災害は8726件で、前年比80件の減少となりました。

業務中・通勤中にケガをしたら労災申請する方が多いでしょう。一方、幸い軽傷で済んだので大事にはしたくないというケースもあるかと思います。業務中または通勤中のケガであれば、労災(労働災害)に該当する可能性が高いですが、労災認定は必ず申請しなければならないのでしょうか。

今回は、労災事故によるケガや病気が発生した場合に、労働者は労災申請を使わない方法はあるのか、もし労災申請をしなかったらどうなるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 堺オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「大阪府における労働災害の現況 令和2年確定値 死傷災害発生状況」(大阪労働局))

1、労災申請を行うかどうかは労働者の自由

一般に「労災申請」「労災認定の申請」とは、「労働者が労働基準監督署に対して、労災保険給付の請求を行うこと」を意味しています。

業務上の原因で、または通勤中にケガをしたり、病気にかかったりした被災労働者(被災者)は、労災保険給付を請求する権利があります。しかし、これはあくまでも被災労働者の「権利」であって、「義務」ではありません。

したがって、業務中または通勤中にケガをしたり、病気にかかったりした場合でも、労働者が必ず労災保険給付を請求しなければならない、というわけではないのです。

よって、労災によるケガや病気が軽く、大事にしたくないという場合には、労働者の判断により、労災申請を行わないことも認められます

2、労災保険給付を請求しないことのデメリット

ただし、労災保険給付を請求しない(労災を申請しない)場合、被災労働者は経済的なデメリットを受けてしまうおそれがあります。

労災保険を使わないという選択をする場合には、そのデメリットを十分に理解したうえで判断することをおすすめします。

労災保険給付を請求しないことの主なデメリットは、以下のとおりです。

  1. (1)治療費などは全額自己負担となる|健康保険は使えない

    業務上または通勤中に発生したケガや病気について、労災申請を行わない場合、治療費などは全額自己負担となることに注意が必要です

    一般的なケガや病気であれば、健康保険を適用することで、自己負担率を1割から3割に抑えられます。

    しかし、労働災害に当たるケガや病気については、健康保険を適用することができません。つまり、医療機関を受診する際には、費用全額を自己負担しなければならないのです。

    もし誤って、労働災害について健康保険を適用して治療を受けてしまった場合には、労災保険への切り替え等の手続きが必要になります。

    医療機関の治療費等は、全額が自己負担となると、想定以上に負担が重くなる可能性があります。そのため、医療機関を受診せざるを得なくなった場合には、改めて労災保険給付の請求をご検討ください。

    (参考:「お仕事でのケガ等には、労災保険!」(厚生労働省))

  2. (2)後から請求しようと思っても、請求権が時効消滅する可能性がある

    労災発生後時間がたってから労災保険給付の請求を行う場合、請求権が時効消滅してしまうおそれがあります。

    労災保険給付請求権には、給付の種類によって、以下の消滅時効が設定されています。

    給付の種類 時効期間
    療養(補償)等給付 費用の支出日の翌日から2年
    休業(補償)等給付 賃金の支払いを受けなかった日の翌日から2年
    遺族(補償)等給付 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
    葬祭料(葬祭給付) 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年
    傷病(補償)等給付 なし(監督署長の職権により、自動的に支給される)
    障害(補償)等給付 傷病が治癒(症状固定)した日の翌日から5年
    介護(補償)等給付 介護を受けた月の翌月1日から2年


    いったん労災申請を行わないことを決意したとしても、後からケガなどの重大さが判明したため、方針転換して労災申請を希望するケースが考えられます。

    請求権が時効消滅した場合、労災によって発生した損害は、すべて被災労働者の自己負担となってしまうおそれがあるので注意しましょう。

    ただし、労災保険の請求時効を迎えていても、会社に対して損害賠償請求を行うことができる可能性はあるので、お困りの際には弁護士まで相談することをおすすめします

3、会社には労災事故の報告義務がある

被災労働者に労災申請の義務はありませんが、会社には労災の発生に関する報告義務が課されています。

自社の従業員について労災が発生した場合、会社は労働基準監督署長に「労働者死傷病報告」を提出して、その事実と内容を報告しなければなりません(労働安全衛生法第100条第1項、労働安全衛生規則第97条第1項)。

会社が報告義務を怠った場合(いわゆる「労災隠し」)、犯罪として「50万円以下の罰金」が科される可能性があります(労働安全衛生法第120条第5号)。

被災労働者としては、上記の報告義務との関係で、会社から労災に関する報告等を求められる可能性があることに留意しておきましょう。

4、被災労働者が労災申請を行わない場合の注意点

これまで解説したポイントを踏まえると、労災によってケガをした、または病気にかかった被災労働者が、労災を申請しない判断をする場合には、以下のポイントに注意すべきでしょう。

  1. (1)ケガや病気の経過を慎重に観察する

    労働災害によるケガや病気を治療する際には、健康保険ではなく労災保険を適用しなければなりません。

    労災保険を使わないということは、おそらくケガや病気の程度が軽微であり、治療を受けるまでもないと判断しているのだと思います。

    しかし、一見して軽微なケガや病気でも、身体の見えないところで深刻な症状が発生していて、時間がたってから顕在化するケースがあります。

    労災によるケガや病気が軽微に思われたとしても、何か身体に変調が生じていないかについて、しばらくの間は注意深く観察しましょう。

    そして、少しでも異常を感じた場合には、労災保険の適用を受けたうえで、労災保険指定医療機関を受診することをお勧めいたします。

    (参考:「労災保険指定医療機関検索」(厚生労働省))

  2. (2)医療機関を受診する場合には、労災であることを正直に言う

    ケガや病気が労災に起因することを隠して、医療機関で治療を受けることは許されません。
    最初はケガや病気のきっかけを隠していたとしても、問診の中で発覚して問題になる可能性があります。

    もし労災に起因するケガや病気について、健康保険を適用した治療を受けた場合には、労災保険への切り替えを行う必要があり、煩雑な対応を求められます。

    労災保険への切り替えは、一部の医療機関では、窓口担当者が代行してくれます。しかし、被災労働者が自ら労働基準監督署に請求を行わなければならないケースもあり、その場合は治療費等の全額を、被災労働者が立て替えなければなりません

    このような面倒な対応を避けるためにも、労災に起因するケガや病気について医療機関を受診する場合には、最初から労災であることを正直に伝えましょう。

  3. (3)労災保険の消滅時効を頭に置いておく

    前述のとおり、消滅時効期間が経過してしまうと、被災労働者は労災保険給付を請求できなくなります。

    労災申請はしないと決意している場合でも、念のため、各労災保険給付請求権の消滅時効期間は把握しておきましょう。

    そして、時効期間が経過する前に、今一度労災申請をしなくて良いかをよく検討して、最終的な判断を行うことをお勧めいたします。

  4. (4)会社に対しては労災の事実を報告する

    被災労働者が労災保険給付の請求を行わない場合でも、会社から労働災害の内容等について報告を求められた場合には、誠実に協力しましょう。

    前述のとおり、会社は労災の事実と内容について、労働基準監督署に報告する義務を負っています。被災労働者が会社に対する適切な報告を怠った場合、会社が報告義務違反に該当するおそれがあり、会社に対して迷惑をかけてしまう事態になりかねません。

    それだけでなく、会社に適切な報告をしなかったことが、就業規則等の違反に該当し、懲戒処分の対象となるおそれもあります。

    労災保険給付を請求するかどうかは被災労働者の自由ですが、会社への労災報告は仕事の一部であると捉えて、日々の業務と同じく誠実に取り組むことが大切です

5、まとめ

労災申請は被災労働者の権利であり、義務ではありません。したがって、被災労働者ご自身の判断により、労災保険給付を請求しないことも認められます。

ただし、労災保険給付を請求しない場合には、治療費が全額自己負担になるなどのデメリットが生じることに注意が必要です。

また会社には、労働基準監督署に対する労災の報告義務が課されています。もし会社から、労災の状況やケガの症状などについて報告を求められた場合には、誠実に協力しましょう。

ベリーベスト法律事務所では、労災に関する被災労働者の方からのご相談を随時受け付けております。会社に対する損害賠償請求を中心として、経験豊富な弁護士が親身になってアドバイス・サポートいたします。

仕事中または通勤中にケガをした、病気にかかった労働者の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 堺オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています