時効援用にデメリットはある? 借金を帳消しにする条件・手続きとは
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総務省の全国消費実態調査(平成27年度)によれば、堺市のある大阪では、2人以上の世帯の負債現在高(借金)について、約553万円という結果が出ています。住宅や車のローンなど負債の背景はさまざまですが、決して低くない金額の借金を負っていることが伺えます。
刑事事件において、一定期間の経過により犯罪行為を処罰できなくなる、いわゆる時効がありますが、民事事件にも消滅時効という制度があります。
つまり、借金も消滅時効を援用できれば、借金を返済するという義務から解放されるのです。ただし、時効援用にはさまざまな障害やリスクが伴うので、自力で時効援用をするのは簡単なことではありません。そこで今回は、時効援用の概要やデメリット・具体的な手続きについて、債務整理の経験が豊富な堺オフィスの弁護士が解説します。
1、消滅時効と援用
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(1)消滅時効と時効援用
消滅時効とは、法律で規定された一定期間が経過した場合に、債権者の権利(債権)を消滅させる制度のことです。
たとえば、債務者に金銭を貸した債権者が、弁済などを要求せずに一定期間が経過した場合、債務者は借りた金銭を弁済しなくてもよくなります。弁済とは、借りた金銭や物品を返すことを意味する法律用語です。
注意点としては、単に一定期間が経過しただけでは債権は消滅しないということです。債権を消滅させるには、「消滅時効によって債権は消滅しています」ということを債権者に意思表示する必要があります。これを時効援用といいます。
債務者が時効援用をしなければ、債権者は借金を弁済するように債務者に請求することができます。つまり、債務者が消滅時効を利用して借金を帳消しにするには、必ず時効援用をしなければならないということです。
なお、民法の改正によって、令和2年4月1日以降に生じた債権(借金)については、改正前の時効期間などが異なる場合があります。
たとえば、令和2年3月31日までに発生した債権の場合- 旅館や飲食店の支払代金であれば1年
- 売掛金であれば2年
- 商行為によって生じた債権であれば5年
となっていました。
令和2年4月1日以降に発生した債権においては、基本的に以下のようなルールが適用されます。- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
なお、借金の返済期日の翌日から時効までのカウントが始まります。以下に詳しく解説します。
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(2)初日不算入の原則
時効の完成日については、民法が初日不算入の原則を定めている(民法140条)ので注意が必要です。初日不算入とは、行為があった当日は日数のカウントに含めないということです。
たとえば、借金を最後に弁済した日が4月1日の場合、消滅時効のカウントの開始日はその翌日の4月2日からです。したがって、消滅時効が完成するまでの期間が5年の場合、最後に弁済した日から5年が経過した日ではなく、最後に弁済した日の「翌日から」10年が経過した日です。
なお、あまり想定しにくい例ではありますが、行為があったのが午前0時ちょうどの場合は24時間が確保されているので、時効のカウントはその日から始めることが民法に規定されています。
2、時効援用の注意点とデメリット
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(1)完成時期を誤解する可能性がある
時効援用のメリットは債務が消滅することです。たとえば、100万円の借金を抱えている場合に時効援用ができれば、100万円の借金は帳消しになります。
ただし、時効援用をするには、時効が完成するまでの期間が満了していなければなりません。期間が満了する前に時効援用をしても、消滅時効の効果を得ることはできません。
当たり前のことのようですが、時効のカウントダウンがスタートする時期を誤解してしまうと、時効が完成する前に債権者に時効援用の通知をしてしまう可能性があります。
たとえば、5年の経過で時効が完成するケースにおいて、時効のカウントダウンが開始する事由が発生したのが令和2年4月であったのに、令和元年4月に事由が発生したと思い込むなどです。この場合、時効が完成したと誤解して令和6年3月に時効援用の措置をとっても、実際にはまだ時効が完成していないため、債務を消滅させることができません。いつ借金をしたかは、しっかり把握しておきましょう。 -
(2)信用情報機関に登録される可能性がある
借金を長期間滞納すると、信用情報機関に事故情報として登録される可能性があります。いわゆるブラックリストに載るというケースです。
借り入れやカードの申し込みがあると、金融機関や消費者金融は信用情報を調査して事故情報がないかを審査します。そのため、事故情報が抹消されるまではローンやクレジットカードの審査に通らなくなる可能性が高くなります。
時効援用をする場合は、時効が完成するまでの期間は債務の滞納を続けている状態なため、事故情報が登録されたままですので、新たな借り入れやクレジットカードを利用することは難しいでしょう。また、時効援用ができれば債務自体は消滅しますが、信用情報機関に貸し倒れとして新たな事故情報が登録される可能性もあります。
3、時効援用の条件は厳しい?
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(1)時効がストップする可能性がある
消滅時効のカウントダウンが開始した後に、債権者ならびに債務者が一定の行為を起こした場合、それまで蓄積していた期間がゼロに戻ってしまうことがあります。
たとえば、消滅時効が5年の債務において、残りの期間が3か月の時点で時効をストップさせる行為を債権者ならびに債務者がすると、それまで蓄積されていた4年9か月の期間はゼロに戻ってしまいます。ゼロに戻った期間は復活しないので、時効援用をするためには、また新たに時効が完成するのを待たなければなりません。
時効がストップする行為としては以下の2種類があります。- 裁判の手続き
- 債務承認
以下より、詳しく解説していきます。
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(2)裁判の手続きとは
以下のような裁判所による手続きが行われると、時効はストップします。
- 訴訟の提起
- 支払督促の申し立て
- 和解および調停の申し立て
債権者が借金の返済を求める訴訟を起こしたり、支払督促などの申し立てを裁判所にすると、時効がストップしてしまうということです。なお、裁判所を通さない内容証明郵便の送付による請求にも、6か月は時効をストップさせる効力があるため注意が必要です。
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(3)債務承認とは
債務承認とは、自分が債務を負担していること(借金をしていること)を債務者が認める行為です。債務承認をしてしまうと、債権者が裁判の手続きをしたり内容証明郵便による請求をしなくとも、時効がストップしてしまいます。
具体的には、以下のような行為が債務承認に該当してします。
- 債務の一部を弁済する
- 弁済を猶予してくれるように依頼する
たとえば、100万円の借金の時効完成まで後1か月というときに、債権者に「一部でもいいから弁済しろ」と請求されて支払ったり、「来月には一部支払うから少し待ってほしい」と、債務者から申し入れた場合は債務承認にあたります。
4、自分で時効の援用の手続きをするには
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(1)時効援用の手続きの方法
時効援用の手続きについて厳密な法律の規定はなく、自分で手続きをすることも不可能ではありません。また、相手にどのような文章を送ればよいかについて法律で決まった書式はなく、相手に送達する方法にも制限がないので、電子メールで送ったり、電話や口頭で伝えるだけでも理論的には時効援用の方法になります。
ただし、自分では時効援用について伝えたつもりでも、債権者が知らないと否定されるおそれもあるため、時効援用をしたことを客観的に証明できるような方法を選択することが重要です。
具体的には、時効援用の通知書を内容証明郵便で債権者に送付する方法があります。内容証明郵便とは郵便方法の1種で、文書の内容を郵便局が証明してくれる手続きです。内容証明郵便は、文書を送付したことを客観的に証明できるので、実務でもよく用いられます。 -
(2)時効援用の通知書の記載内容
時効援用の通知書の書式に厳密な決まりはありませんが、時効援用をしたことを客観的に証明するために、以下の情報を記載することをおすすめします。
- 債権者(お金を貸した側)の名称と所在地
- 債務者(お金を借りた側)の氏名、住所、連絡先
- 契約日、借入日、契約番号など債権を特定できる情報
- 時効完成を示すための最終取引日
- 「消滅時効を援用する」との記載
上記の情報を通知書に記載することで、誰が誰に対して、どの債務について消滅時効を援用するのかが明らかになります。
5、債務(借金)問題に悩んだら弁護士へ相談を
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(1)時効援用にはリスクがある
消滅時効を援用して借金を帳消しにするには、以下のようなリスクを覚悟しなければなりません。
- 消滅時効の開始日を誤解すると、時効が完成する前に債権者に通知してしまう可能性がある
- 5〜10年の長期間にわたり時効の完成を待つ精神的な負担
- 長期間返済を滞納することで信用情報機関に事故情報が登録されてしまう
- 時効完成を待つ間に遅延損害金がたまっていき、時効援用ができなければ債務として残る
- 債権者が訴訟を起こせば、時効がストップする
多くの融資を行う金融機関や消費者金融が、時効援用が完成するまでの間に債務回収のための行為を起こさないとは、通常は考えられません。
時効援用だけにこだわることはリスクが大きいので、借金問題で悩んだ場合は、債務整理の経験豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。 -
(2)弁護士は時効援用以外の方法を検討できる
たまってしまった借金をなくす方法は時効援用だけではありません。
債権者に申し入れをして返済スケジュールや利息などを見直してもらう任意整理や、裁判所で手続きをして借金などの債務を免除してもらう自己破産など、債務整理の方法は複数あります。債務整理の経験が豊富な弁護士であれば、リスクが大きく長期間待たなければならない時効援用にこだわらず、ケースごとに適した債務整理の方法を提案することができます。
6、まとめ
消滅時効を援用すると、借金を弁済しなければならない債務が消滅するので、時効援用さえできれば借金を帳消しにすることは制度上は可能です。
ただし、債権者が借金の支払いの訴訟を起こすなど、時効が完成するまでの間に時効中断が生じてしまうと、それまで蓄積していた期間はゼロに戻ってしまいます。債務の一部を支払ったり弁済を免除してもらったりするだけでも、債務承認として時効がストップしてしまうので、時効援用だけに期待するのは大きなリスクがあります。
借金を無理なく弁済したり、債務を消滅させるための方法は、時効援用だけではありません。債務整理に詳しい弁護士であれば、任意整理や自己破産などさまざまな方法の中から、そのケースに適した方法を提案することができます。ベリーベスト法律事務所は、債務整理の問題について何度でも無料で相談を受け付けています。債務整理問題のさまざまなケースを取り扱ってきた弁護士が真摯(しんし)に対応しますので、まずはお気軽にご相談ください。
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