借金があると生活保護は支給されない? どうすべきか弁護士が解説!

2020年01月24日
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借金があると生活保護は支給されない? どうすべきか弁護士が解説!

厚生労働省は、生活保護を取り巻く現状について、全国の生活保護受給者数を約210万人・保護率1.66%と発表しました(平成30年10月)。一方、堺市の保護率は3.09%(平成28年度)であり、全国平均を上回る厳しい状況となっています。堺市では、生活保護受給世帯の中高生向けに、進路や将来の夢を応援する冊子「ココから!」を作成するなど保護世帯に向けた施策を講じています。

生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する大切な制度です。しかし、「借金があると生活保護を受けることができない」というウワサがなぜか出回っているため、生活保護の受給資格がないものとあきらめている方もいるのではないでしょうか。

生活保護は、現在の生活はもちろん、将来の設計も支える制度です。借金があるからといって、必ずしも生活保護を諦める必要はありません。ここでは、借金と生活保護の関係について、堺オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、生活保護とは?

まずは「生活保護費」の制度について、概要を学んでおきましょう。

生活保護費の制度は、国民が生活に必要な最低限度のお金を手にすることができない場合、公費によってその生活を扶助する制度です。その精神は、日本国憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」という規定に基づいており、国が国民の生活を保護する最後の砦だといわれています。

生活保護費として支給されるのは「生活のため」に必要なお金で、次のような名目で支給されています。

  • 生活扶助……衣食や日用品の購入資金、光熱費を支給
  • 住宅扶助……定められた範囲内での住宅の家賃を支給
  • 医療扶助……本人負担なし(費用は医療機関に直接支払われる)
  • 介護扶助……本人負担なし(費用は介護事業者に直接支払われる)
  • 教育扶助……小中学校の教科書代や学用品代として定められた額を支給
  • 出産扶助……分娩の介助、処置などに必要な実費を支給
  • 生業扶助……仕事をするために必要な資金や物品の購入に必要な費用を実費で支給
  • 葬祭扶助……仮装や埋葬、納骨などの費用を実費で支給


支給される保護費の金額は、その地域の物価に応じた等級と世帯構成によって決まるため、全国一律というわけではありません。また、世帯の中でも状況の変化に応じて支給額が変動することもあります。

最低で約9万円、多くて30万円前後になり、世帯によって大きな差がありますが、これは「生活に必要な金額が違う」ためであり、不平等なわけではありません。

2、生活保護の受給要件

生活保護の制度は、単に「お金がない」というだけでは利用できません。ここで、生活保護を受給するための要件を確認しておきましょう。

  1. (1)十分な収入を得ることができない

    生活保護の制度は、一時的な保護をしながら最終的には自立を目指す制度です。勤務先の倒産や解雇、病気や怪我による失業などの理由で働くことができない、または働くことができても生活費を捻出できるほど稼ぐことができない場合には、生活保護によって生活を扶助する、という考え方です。

  2. (2)生活を支援してくれる親族がいない

    親族が資金援助をしてくれるのであれば、生活を支援するための公費を受けることはできません。一般的に生活保護を申請すると、扶養義務がある範囲の親族に対し、扶養ができないかどうか問いかける書面が送られます。すべての親族から扶養や援助を断られたとき、生活保護を受けることができるでしょう。

  3. (3)財産がない

    働くことができなくても、これまでに蓄えた預貯金があったり、不動産のように換金できるものを所有していたりすれば、まずはこれを生活資金にすべきという考え方です。「生活保護を受給するとマイホーム・マイカーを持てない」という理屈の根拠と考えられています。

    ただし、身体に障害があり自動車がなければ通勤が困難など、車なしでは生活できないケースがあります。お住まいの地区や状況によっては自家用車の所有が認められることがあるかもしれません。相談してみてもよいでしょう。

  4. (4)他に頼る手段がない

    年金やその他の手当てで収入が得られる場合は、まずはそれらを活用しなくてはいけません。それでも、生活保護で受けられる水準に満たない場合は、その差額分だけ生活保護を受けられる可能性があります。役所で相談してください。

3、借金がある場合は生活保護を受給できない?

働いていても借金返済のために収入のほとんどが消えてしまえば、生活が成り立たない事態に陥り、公的な扶助を求めたいと考える方もいるでしょう。ここでは、借金と生活保護の関係について説明していきます。

  1. (1)借金があっても生活保護は支給される

    結論からいいますと、借金があっても生活保護は支給されます。ただし、いくつかの制約があるので、それらを確認していきましょう。

  2. (2)生活保護費を借金返済に充てることはできない

    借金があっても生活保護費を受給することはできますが、生活保護費を「借金返済に充てる」ことはできません。

    生活保護はあくまでも最低限の生活を送るために支給されているものであって、借金返済のために費やされることで生活が成り立たないのであれば制度の趣旨に反することになるからです。

    基本的には、支給された生活保護費の使途は自由ですが、借金返済に充てていることが発覚すれば、ケースワーカーから指導を受けることになります。もしケースワーカーの指導に従わなかった場合は、支給がストップすることもあり得るので注意が必要です。

  3. (3)新たな借金はできない

    生活保護費を借金返済に充てることはできないのですから、生活保護を受給しながら新たな借金を重ねることもできません。

    生活費が足りない部分を補うために生活保護があるのですから、生活保護費をあてにして借金をすれば、利息と返済のために次月からの生活が侵されることになるからです。なお、新たな借金は「収入」とみなされるため、福祉事務所への申告が必要になります。「バレなければ大丈夫」と安易に考えていても、福祉事務所側では口座情報などを調査する権限があるため、いずれは発覚します。発覚すれば、やはりケースワーカーからの指導、支給の中止という展開もあるため、厳に慎むべきでしょう。

4、生活保護と自己破産の関係

前述したように、借金を抱えたまま生活保護を受給することは可能ですが、生活保護を受給するようになったからといって、債権者からの督促されなくなるわけではありません。そこで、ケースワーカーから「自己破産」をすすめられる場合があります。

これは、一度借金を清算して、返済の不安のない状況で生活保護を受けながら生活を立て直したほうがよいという趣旨です。以下に詳しく見ていきましょう。

  1. (1)自己破産とは

    自己破産とは債務整理の一種で、最低限の資産を残して、家屋などの財産はすべて換金して返済に充て、借金をゼロにする制度です。借金をゼロにすることができれば、生活保護費をまさに「生活のため」に使うことができます。

    自己破産にはマイナスのイメージがありますが、一定の資格制限や新たな借り入れができないなどのデメリットを差し引いても、生活を立て直すには非常に有効な手段です。その他にも「任意整理」や「個人再生」という債務整理を行うことで、借金の額を圧縮することができます。

    これらの制度を活用して借金がなくなれば、生活保護も受ける必要がなくなる可能もあります。

  2. (2)専門家に相談しましょう

    ケースワーカーにすすめられるがまま自己破産を検討する前に、自分の借金がどのような状況であるのかを正確に知る必要があります。

    平成22年以前に借り入れた借金であれば利息制限法より高い利息を払っている可能性があるかもしれません。この場合、過払い金として返還され、借金が消えて現金が手元に残るケースがあるのです。

    しかし、このような手続きを素人が行うことは難しいため、市役所の無料相談などを活用して、費用なども相談しながら進めていくことをおすすめします。

5、まとめ

借金と生活保護の関係を詳しく解説しました。一般的にいわれる「借金があると生活保護を受給できない」という情報が、真実ではないことがご理解いただけたのではないでしょうか。

現在、借金の返済に苦しんで生活に苦しんでいる方は、生活保護を考えるよりも早急に弁護士に相談して、まずは借金の返済を減らすように行動しましょう。その後、再出発のための支援が必要であれば、生活保護を活用するべきでしょう。

弁護士に相談し、対応を依頼することでこれらの手続きがスムーズに行われます。また、弁護士が受任した旨を通知し、債権者がこれを受け取ると一時的に取り立てが止まります。借金でお悩みの方は、ひとりで悩まずに早急に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 堺オフィスでは、借金トラブルに対応した実績が豊富な弁護士が全力でサポートします。まずは、お気軽にご相談ください。

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