常連客のツケの未払いが高額に! 警察に頼らずに民事で回収する方法は?

2020年06月05日
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常連客のツケの未払いが高額に! 警察に頼らずに民事で回収する方法は?

ツケ払いは商品やサービスなどの代金の支払いを、口約束で支払いを後日にする特徴的な支払い方法です。飲食店やバー、スナック、キャバクラ、ホストクラブなどで「ツケておいて」という言葉とともに用いられることが多いでしょう。店と客のお互いの信用をもとにした取引方法です。

平成30年度版の堺市統計書によれば、平成28年の堺市の宿泊業・飲食サービス業の事業所数は3727件、従業者数は2万8966人となっており、堺市内でもツケ払いが行われる機会は少なくなさそうです。

一方、ツケの支払いがすんでいなくても、相手が常連客であるため、つい回収を先延ばしにしてしまうケースもあるのではないでしょうか。

しかし、ツケ払いも債権であるため、法律で定められた消滅時効が経過すれば債権回収の権利を主張できなくなってしまいます。もし、ツケ払いをなかなか支払ってくれない場合や、回収できない状況に陥ったとき、警察に頼らずに穏便に解決する方法はあるのでしょうか。

そこで今回は、ツケ払いの概要や時効を完成させない方法、ツケ払いの債権の回収方法などを弁護士が解説します。

1、ツケ払いの概要と発生しがちなトラブル事例

ツケ払いの概要と、飲食店などでありがちなツケ払いのトラブル事例をご紹介します。

  1. (1)ツケ払いとは

    ツケ払いとは、飲食などの提供やサービスをした場合に、その代金の支払いを後日に猶予することです。

    たとえば、酒場でお酒を飲んだ客が会計時に代金の1万円を支払おうとしたところ、財布がなかったために、酒場のマスターが「ツケでいいですよ」と言って、口約束で代金の支払いを後日でよいとするなどです。

    ツケ払いは飲食店の支払いで会計方法として用いられることが少なくなく、特にスナック、キャバクラ、ホストクラブなど、常連客がつきやすいサービス業では、比較的オーソドックスな会計方法として利用されることもあります。

    なお、ツケ払いは、簿記の会計などでは売掛金とも呼ばれます。売掛金とは、掛取引によって商品を販売した場合における、代金を受領する権利のことです。

    掛取引とは、商品の引き渡し時に代金の支払いを実施せず、決められた期日までの後払いとして取引を行う方法で、いわゆるツケ払いとほぼ同じ仕組みです。得意先同士の取引などで用いられます。

  2. (2)ツケ払いのリスク

    ツケ払いにおいて、サービスを提供したお店が債権者であり、後で代金を支払う客が債務者です。

    債務者にとっては代金をその場で支払わなくてよいというメリットがありますが、債権者にとっては代金をその場で回収できないことに加えて、後で必ず回収できるとは限らないというリスクがあります。

    また、ツケ払いは、債務者が同時にお客であるため、債権者であるお店にとって不利になることが多いでしょう。

    特に、飲食店でのツケ払いは客商売という性質上、借用書のやり取りや返済期日の確認などが行われない場合が少なくありません。また、常連客がツケ払いを数か月以上もため込むこともあるでしょう。

  3. (3)ツケ払いのトラブル事例

    飲食店、スナック、キャバクラ、ホストクラブなどでありがちなツケ払いのトラブルとして、以下のものがあります。

    • 得意客なので何か月分もツケ払いにしていたら、ある日突然来店しなくなった
    • ツケ払いの支払い請求をしたら、記憶がないから証明しろと言われた
    • 客がツケの支払い自体は承諾したものの、金額や返済期日で争いになった


    飲食店のツケ払いのトラブルでよくあるパターンは、相手と連絡が取れない、ツケ払いの事実を否定される、金額や返済期日の認識が異なるなどです。どれも相手の連絡先やツケ払いの証拠をきちんと記録しておかないことが主な原因です。

  4. (4)ツケの未払いに法的責任を追及できるか

    最初から代金を支払う意志がなく、店側をだます目的で無銭飲食をしたような場合や、飲食をした後で支払うのが嫌になり「家に財布を忘れたので取ってくる」などと言って店をだました場合は、詐欺罪に該当する可能性があります。

    しかし、飲食店における債権回収のトラブルで、警察に通報することは少ないでしょう。ツケ払いに関するトラブルは、民事上の督促手続き・調停・訴訟などで解決することが一般的といえます。

2、ツケ払いの客が時効を主張! 債権の消滅時効とは?

ツケ払いをした客が、消滅時効を主張して代金の支払いを免れようとした場合にどうなるか、債権の消滅時効の仕組みを解説します。

  1. (1)消滅時効の法制度は改正された

    消滅時効とは、債権者が債務者に対して請求や督促をせず、法律で規定された一定の期間が経過した場合、債権者の権利が消滅する制度です。

    ツケ払いも債権なので消滅時効の制度が適用されます。ツケ払いの代金を請求せずに一定の期間が経過した場合、債務者が消滅時効を主張すると支払いを請求できなくなります。

    なお、民法の消滅時効の制度は平成29年に改正されており、改正前と改正後では消滅時効が完成するまでの期間が異なるので注意が必要です。


    以下、改正前と改正後に分けて消滅時効の期間を解説していきます。

  2. (2)改正前の消滅時効の仕組み

    改正前の民法の消滅時効の制度では、債権者の職業によって消滅時効の期間が異なりました。

    令和2年3月31日までに発生した債権の時効

    • 小切手債権……6か月
    • 旅館やホテルの代金……1年
    • 生産者等の売掛金……2年


    なお、飲食店の代金については、1年間行使しないときは債権が消滅する旨が定められていました(旧民法174条4号)。

    この旧民法の制度は時効の期間を職業で区別する合理性がないなどの批判を受け、2017年に改正されることになりました。

  3. (3)改正後の消滅時効の仕組み

    新民法166条では、債権などの消滅時効について以下の2つの制度が適用されます。

    令和2年4月1日以降に発生した債権の時効

    • 債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年で消滅時効となる(新民法166条1項1号)
    • 債権者が権利を行使することができるときから10年で消滅時効となる(新民法166条1項2号)


    これらはあくまで基本的なルールのため、上記に当てはまらないケースもあります。

    なお、飲食店におけるツケ払いの場合、債権者である店側がツケ払いを許可した時点で、「債権者が権利を行使することができることを知ったとき」に該当します。そのため、飲食店におけるツケ払いは原則として5年で消滅時効にかかります。

  4. (4)消滅時効の処理の方法

    改正後の消滅時効の制度は、令和2年4月1日以降に生じた債権に適用されます。そのため、ツケ払いについてもいつ債権が生じたかによって消滅時効の期間が異なります。

    改正前と改正後の消滅時効の制度をまとめると、以下のようになります。

    • 令和2年3月31日までに生じた債権の消滅時効は1年
    • 令和2年4月1日以降に生じた債権の消滅時効は5年


    たとえば、令和2年3月21日に生じたツケ払いは1年で消滅時効にかかりますが、令和2年4月14日に生じたツケ払いは5年で消滅時効にかかります。

3、ツケ払いの債権を時効で消滅させない方法

ツケ払いを時効で消滅させないための方法として、時効の更新の制度を解説します。

  1. (1)時効の更新とは

    債権を時効で消滅させないための方法は、時効の更新をすることです。時効の更新とは平成29年の民法改正によって創設された制度で、従来の時効の中断に該当するものです。

    時効の更新と時効の中断の内容はほぼ同じです。従来の中断という用語では実際にどのような効果があるのか分かりづらかったことから、時効の更新という名称に改められました。

    時効の更新は、法定された更新事由に該当する事実がある場合、それまでに進行していた時効の期間が効力を失います。更新事由が終了すると、時効がゼロから再び進行します。

    たとえば、5年で完成する消滅時効が4年6か月の時点で時効の更新になった場合、それまで進行していた4年6か月分は全てリセットされ、効力を失います。

  2. (2)時効の更新事由

    時効の更新が認められるためには、時効の更新事由が必要です。主な時効の更新事由として、以下の3つがあります。

    • 裁判による請求
    • 差し押さえ、仮差し押さえ、仮処分
    • 債務者による債務の承認


    裁判による請求とは、裁判所を介して訴訟の提起や支払い督促などを行うことです。裁判所を介さずに自力で支払いを請求することは、時効の更新事由にあたらない点に注意しましょう。

    差し押さえ、仮差し押さえ、仮処分とは、裁判所を介して債務者が有している財産の処分を禁止したりする手続きです。債務者は預貯金や土地など、自分の財産を自由に処分することができなくなります。

    債務者による債務の承認とは、債権者に対して債務を負っていることを、債務者が認めることです。書面などで債務の存在を認めるほか、債務の一部を支払うことも債務の承認に該当します。

  3. (3)催告とは

    催告とは、債務者に対して債務の履行を請求することで、いわゆる督促です。催告書(督促状)を内容証明郵便で送付することが一般的です。

    催告が行われると、催告から6か月が経過するまでは時効が完成しません。ただし、催告によって時効の完成が猶予されている間に再度催告をしても、新しい催告による時効の猶予の効果は生じません。

4、ツケを支払わない相手への債権回収の進め方

ツケを支払ってくれない相手に対して、債権回収をどのように進めるかを解説していきます。

  1. (1)未払いのツケの回収方法

    未払いのツケを回収するためにまずすべきことは、相手と話し合って返済してもらうことです。電話、郵便、訪問などの方法がありますが、相手が応じてくれない場合に無理に行動すると、脅迫や業務妨害で警察を呼ばれるなどの問題が生じる危険性もあります。

    未払いのツケの督促状は内容証明郵便で相手に送付すると、相手が危機感を与えやすいでしょう。また、前述した催告としての効果もあるので、時効の完成が6か月猶予されるというメリットもあります。

    もし相手に応じてもらえない場合、少額訴訟という手続きがあります。請求する金額が60万円以下の場合に利用できる手続きで、簡易裁判所が管轄です。

    少額訴訟は通常の訴訟と比べて手続きが比較的簡単であり、費用が安く、手続きに要する期間が短いなどのメリットがあります。判決が確定すれば相手の財産に対して強制執行も可能です。

    督促状(催告書)の内容証明郵便での送付や、少額訴訟は個人で行うことも可能ですが、弁護士に相談することで適切な訴状の作成や、裁判所が納得しやすい法的主張や証拠の収集などが期待できます。

  2. (2)ツケを回収するための相談先

    ツケの支払いに相手が応じてくれない場合は、どのような相談先があるのでしょうか。

    取り立て屋や回収屋と呼ばれるような業者もありますが、無許可での営業や強引な取り立てをする業者も存在するため、基本的には避けたほうが無難です。

    未払いのツケは債権であり、回収することは法律上の問題です。したがって、債権回収の経験のある弁護士に相談するのがおすすめです。

    たとえば、内容証明郵便を送付する場合でも、個人の名で送る場合と弁護士が送る場合では、相手にとってのプレッシャーは大きく異なり、ツケ払いの回収がスムーズになることが期待できます。

    また、弁護士に依頼することで適切な法的主張や手続きが可能になるほか、相手との交渉を弁護士に任せることで経営に専念でき、必要に応じては訴訟を検討できるなどのメリットがあります。

5、まとめ

ツケ払いは飲食店などの支払いを後払いにする方法ですが、何か月分も滞納している相手が支払ってくれない場合などは、回収の時効消滅の危険が生じてきます。

ツケ払いを回収する方法としては、請求書を内容証明郵便で送る、少額訴訟を起こすなどの方法がありますが、警察を介さずなるべく穏便に回収をすませるには、債権問題に経験のある弁護士に、まずは相談することがおすすめです。ツケ払いなどの回収でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 堺事務所にご相談ください。債権回収の手続きの知識が豊富な弁護士が、解決に向けてサポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています